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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第二章~自称癒士の決意~
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第二十五話:前世の“私”

 薄くもやがかかったような光景が見えた。

 全体に白を基調とした部屋に、僕はいた。


「体調は変わりない?」


 僕の口が勝手に動き、言葉を紡ぐ。


「ええ、バッチリですよ」


 正面に座った、おそらく中年男性が、僕に答える。顔はぼやけてしまい、よく見えない。服装は全体的に黒っぽい印象だ。


「それはよかった」


 彼をベッドに横たわらせ、聴診器を腹部にあてると、腸の動く音が聞こえる。腹部には大きな傷痕が残っていた。


「今度改めて、お礼に伺いますよ」

「私は、そんなもの求めていないよ」


 触診を終え、彼に服装を直させると、退室を促す。


「お世話になりました、先生」


 同行者に連れられ、彼は出ていった。


「ふぅ……」


 一仕事追え、目をつむる。漏れでた声は低く、やや疲れを含んでいた……。






「━━ロ……ヒロ!」


 心配そうに覗く、エラの姿が目に入る。


「エ、ラ……。

 ここは、私は……?」

「ヒぃロぉどぉのおぉ!」


 チェリャの大きな顔が、ぬっと現れた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


「すまなかったでござるううう!

 ん、おや? お主、本当にヒロ殿でござるか?」


 僕は、ヒロだ。多分……そうだ。


「合ってると思うよ。でも、何か頭が混乱してて……」

「お、目ぇ覚めたのか」


 ロロとルーイも騒ぎを聞きつけてやってくる。


「覚えているかい? 何があったか」

「分からない……。

 鍾乳洞に入って……ルーイたちが、オーガとゴブリンたちを倒した、のは覚えてる」

「落下してきた鍾乳石から、私を守ってくれたの!」

「そうなんだ」


 よく覚えてない。


「天井の鍾乳石にヒビが入ったみたいなんだ、視界を奪われたオーガが暴れまわったせいで」

「このアホが余計な作戦を思いつくから……」

「誠にそれがしの不覚の至り!

 かくなる上は、切腹してお詫びいたすでござるぅ!」


 チェリャが上半身を露出させる。


「騒ぐなら、外にしてちょうだい。やっと意識が戻ったところなんだから」

「チェリャ、誰かだけの責任じゃない。誰も作戦を止めなかった。皆の責任だ」


 みんな、安堵したような、ちょっと疲れたような顔をしている。


「僕は、どれだけ意識を失っていたの?」

「3日だよ。もう次の村、オカにある村まで来ている。頭蓋骨は陥没して、大量に出血していた。正直思った、助からないんじゃないかと。

 助かったのは勇者の力と、君自身の力があったからかもしれない、“癒士”としての」


 そんなに酷かったのか。頭を触ると包帯がぐるぐる巻きにされていた。

 相当に心配をかけたみたいだ。


「とりあえず、今日もゆっくり休んでくれ」

「待って」


 みんなが退室しようとするのを呼び止める。


「聞いてほしいことがあるんだ」


 明日になったら忘れているかもしれない。今すぐに聞いてほしかった。


「夢を、見ていたんだ」



 僕は目を覚ます前に見た光景を話した。



「━━僕は医師だったかもしれない」


 皆は、黙って僕の話に耳を傾けてくれた。

 もちろんただの幻だったかもしれないけれど、妙なリアリティがあった。


「多分、この見た目も偽りだと思う」


 この世界に来たときに感じた違和感━━声、目線、手足、知識━━全て、変わっていたからだったんだ。


「ものすごい飛び級とかじゃなかったらね」


 おどけてみせた。でも、どうやって笑っていたのか、分からなくなる。頭と身体がちぐはぐな感じがして、話の筋道が立てられない。


「それに━━」

「分かった。明日にしよう、続きは」


 ルーイが強制的に切り上げる。


「えっ」

「ちょっと置いた方がいい、時間を」

「今のお前、さっきよりも死にそうな顔をしてるぜ」


 ロロも続いた。


「だから、今は休め」


 三人は共に部屋を出ていく。


「転生前が誰であろうと……

 ヒロ殿は、ヒロ殿でござるよ」


 最後に振り向いたチェリャは、そう言い残した。


 

 ━━エラは逡巡するように僕とドアに視線を何度か往復させてから、椅子を立ち上がろうとする。

 僕は袖を掴んで引き留めた。


「私も居ない方がいいわ。だって、ヒロが今苦しんでいる原因を作った側の人間だもの」


 だけど離さなかった。


「じゃあさ、責任とって━━」


 引き留める理由は、何でもよかった。


「この世界の子守唄、歌ってよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、成る程!ヒロが癒しの力を持つ理由は元いた場所では医者だったからか……それには納得です。 その線で行くと、ロロは消防士とかだろうか? チェリャは分からないけど、ルーイは……建築士とか?…
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