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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第二章~自称癒士の決意~
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第二十二話:燃える村と、異形の痕跡

「ヒヒ丸、怪我してないか?」

「ヒヒー」

「ヒヒ丸、足捻ってないか?」

「ヒヒー?」

「ヒヒ丸、目にゴミとか━━あいたっ!」


 ヒヒ丸の体調管理を行っていた僕に、ロロから脳天チョップをお見舞いされた。


「しつけぇし、うるせぇ」

「だって誰も怪我しないから、力を使う機会がないし」 


 癒の勇者である僕は、力を持て余していた。

 移動中にゴブリンやオークといった異形から襲われることはあった。ただ他の三人が無傷で突破してしまうため、横で眺めるだけの日々だった。


「いや、皆が無事なのは喜ばしいことなんだけどさ」

「今度出撃してみようか、鎧無しで」

「冗談でしょ?」

 

 気遣いはありがたいけど、それじゃ本末転倒だ。

 修行中に導師ドニから言われたことを思い出す。癒の魔素は安定性が高く、精製して瓶詰めにすれば、ポーションとして長期保存ができる。しかも勇者たちは素の回復力が高く、なおのこと治癒を要さないことが多い。

 このままでは冗談でなく、お払い箱になってしまうかもしれない。


「まぁ、冗談だけど」


 でも、とルーイは付け加える。


「これから苦戦する可能性も出てくるよ、穢れが濃くなってくれば。

 力を温存しておいて、その時まで」

「ありがとう、ルーイ」


 本当はサポートとかも考えてはいるのだけど、必要ないくらい圧勝なんだ。


「ヒヒー!」

「あれ、どうしたのヒヒ丸?」


 大きく声を出し、何かを僕らに訴えてくる。

 ヒヒ丸は、狼人ほどではないけど、鼻が利く。敵襲を察知して教えてくれたりするので、助かっている。


「焦げくせぇな」


 ロロが真っ先に気づき、顔を上げる。


「焼ける臭いだ。植物とか木材だな」


 他の皆を見回すけど、感じ取れたのはロロだけらしい。

 急いで出発しようとしたところで、大きな荷馬車が走ってきた。

 ルーイが手を振ると、向こうの御者が荷馬車を止める。荷馬車から人々が何事かと、顔を出した。


「私たちは勇者だ。君たちは住民か? マグにある村の」

「はい、その通りでございます!

 先刻に村が襲われまして……火を放ち、逃げてまいりました」


 馬車から降りた男性が答えた。

 最初の村もそうだったように、王都から東の村人は村を燃やし捨てることを許されている。


 理由は二つ。

 一つは、異形に凄惨な殺され方をすると、その者自体が“穢れ”の発生源となってしまうこと。

 もう一つは、農作物が異形の餌となること。


 人口が多く、農業大国である聖王国は格好の餌食だ。

 そこで行われるようになったのが━━立つ鳥、跡を濁しまくる作戦であった。村人も派遣人員で、逃げ遅れが無いように、体力のある成人のみで構成されている。


「遅かったでござるか」

「ちっ、じゃあ野宿か」

「火起こしの心配が要らないのが、救いでござるな!」

「誰がライターだ、コラ」


 ロロが的確なツッコミを入れる。分かりづらいけれど、実は仲がいい。

 それよりも気になるのは━━


「襲ってきた奴らは、どうなったの?」

「一目散に逃げてきたので、そこまでは……」


 村人は申し訳なさそうに、うなだれる。


「いえ、犠牲者が出なかったのが何よりだわ」


 敵の勢力は、残念ながら分からなかった。

 犠牲者なしの報告に、エラはホッと胸を撫で下ろす。


「この火事でやられた可能性は?」

「多分ないな」


 ロロいわく、異形を焼いた時の臭いがしないらしい。

 また追いかけてきている様子もない。


「じゃあ逃げたかもしれないね、どこかに」

「行ってみれば何か分かるかもしれんでござるな」


 向かうより他はないみたいだ。

 僕たちは馬車に戻り、村の方向へ進めた。






 ━━村は、その多くが焼け落ちていた。


 まだ所々に火が残っている。


「しっかし、うまく焼けるもんだな」


 家屋や倉庫はわざと密集して建てられ、魔王軍出現の年には屋根や柱に油を塗り、染み込ませるのだそう。


「村民達の覚悟の賜物ね」

「火の不始末で一巻の終わりじゃねぇか」


 正気の沙汰じゃない、と周囲を見回す。


「あった、これだ」


 ルーイが足跡を発見した。みんなそこに集合する。


「これは、また小鬼でござるか?」

「いや、大きな足跡がある、少し離れた所に」


 ルーイ達よりも、かなり大きい。人の素足みたいな足跡だ。


それがしの倍は、たっぱがありそうでござるなぁ」

「ということは、オーガかしら……」

「ちょっとは歯応えがありそうなのか?」


 ロロは拳を平手で受け止める。チリチリと空気の焼ける音が強まったように感じた。


「ゴブリンたちとは比較にならないくらいはね」


 エラは顔をしかめる。


 僕たちは警戒を強めながら、慎重に足跡を追いかけていく。

 すると、あるところで足跡が途絶えていた。


「ここは洞窟でござるな」

「大きいね、結構」


 洞窟は大きく口を開けており、ひんやりとした空気が漂ってくる。


「暗くてよく見えないでござるなぁ、ロロ殿」

「誰が松明だ、コラ」


 中は暗く、安定した光が必要だった。


「ごめんね、ロロ」

「……しゃあねぇな」

「ちょっと、扱いが違いすぎるでござらんか?」


 ロロが手に宿した炎で照らすと、無数の石筍が天井から下がっているのが見えた。水がポタポタと垂れており、地面を濡らしている。

 かなり奥まで続いており、全容を把握することはできなかった。


「鍾乳洞だね」

「この辺はいくつか鍾乳洞があると言われているわ」

「軍に任せて、放っておいてもいいんじゃね?

 村も無くなっちまってるし」


 確かにロロの言うとおり、先を急いだ方がいいかもしれない。


「どうだろうか。軍隊では相手しづらいかもしれない、ここに籠られてしまうと。

 今なら奥まで行ってないだろうし、罠の可能性も少ない。さっさと倒してしまうのも選択肢かな、小回りの利く私たちで」

「野宿中に襲われるのも、事でござるしなぁ」


 話し合いの結果、しばらく奥へ進んでみて、改めて判断する方針になった。




 この選択が、僕たちの運命を大きく分けることになる。

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