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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第二章~自称癒士の決意~
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第十八話:冒険の始まり

 王都の人々に見送られた僕らは、最初の村へ向かうため馬車に揺られていた。

 馬車といっても修行の移動に使っていたような、ふかふかのクッションがついた高級馬車ではない。ただの荷馬車である。

 街道はしっかり整備されていたものの、乗り心地は雲泥の差だった。とはいえ旅のためには多くの荷物を積まなくてはならず、居住性を追求するのも土台無理な相談だった。


「一時間でも結構お尻が痛くなるね」


 僕は“癒士”、ヒロ

 黒髪ショートで、少年のような容姿をしている。

 月白色で八分丈のアラビアンスタイルに空色のベストを重ねている。深緑のマントは壁に掛けられ、馬車に合わせて揺れていた。


「それでも相当楽だよ、大きな馬車を用意してもらったから」


 彼は“土の槍術士”、ルーイ。

 金髪セミロングの好青年で、よく僕に助言をしてくれる。

 白銀で統一された鎧を丁寧に揃えて置いてあるところが、とても彼らしい。


「そうでござるなぁ。バネもしっかりしたいい馬車でござるぞ」


 彼は“時の暗器士”、チェリャ

 スキンヘッドに糸目、独特な口調、酒好き女好き、と全体的にキャラが濃い。

 薄藤色の服を着ており、爪先が二股に別れた靴を履いている。動きやすさのみを追求したスタイルだ。


「誰か揺れを抑える魔法とか使えねーのかよ」


 彼は“炎術士”ロロ

 感情的になりやすく、思ったことを隠しておけない。

 濡羽のような光沢のローブを羽織っており、燃えるような赤髪をより際立たせている。

 この揺れの中で、レンガ色のブーツを器用に指先で回している。


「馬車内の魔素を鈍化させれば、揺れもゆっくりになるかもしれんでござるなぁ。歪みで馬車が空中分解するかもしれぬが。

 やってみるでござるか!」

「冗談はお前の骨だけにしてくれ」


 チェリャは自身の骨を魔法でぐちゃぐちゃにした前科があり、あっさり却下された。

 細かいことを気にしない性格もあり、ぶっきらぼうなロロとは相性がいいようだ。


 僕たちは異世界転生者だ。強大な魔法と引き換えに、転生前の自身に関する記憶だけを失っている。

 この4人で冒険するものだと、昨日までは思っていた。


「さて、じゃあ改めて教えてもらえるかな? 君が同行する理由を」


 ルーイの問いかけ通り、僕の隣にはもう1人、やや気まずそうな冒険者がいる。


 彼女の名前はエラ

 僕たちが今いるクリフィス聖王国の第二王女である。

 上半身は臙脂色のノースリーブと上腕まである同色のアームカバーを着ており、下半身は黒のミニスカートと白のオーバーニーハイソックスを履いている。

 腰ほどまであったピンクゴールドのポニーテールは、肩までの高さでバッサリと切られていた。

 両耳に下がっている深緑の宝石が、不安そうに揺れている。


「私は母上━━クリフィス女王様からの命で、“記録士”として皆さんの冒険に同行することになりました。

 どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言うと頭を下げた。


「つまり語り部になってくれるってことかな? 私たちの冒険を後世に伝えるため」

「その通りです」

「本当にそれだけ?」


 僕はルーイが何をそこまで気にしているのか、分からなかった。


「確かに家来の誰かに任せてもいいような気もするけど……」

「私たち王族は、この世界では屈指の魔力を持っています。もちろん貴方たちには到底及びませんが。

 魔王の上位眷属を倒すことはできなくとも、最低限身を守ることはできます。それほど危険を伴う旅なんです!」

「そうだな、例えば女王に指示されていないか? 監視や報告、誘導を」

「経過の、報告はするように指示を受けていますし、場合によってはルートを変更することもあり得ます。

 でもそれは魔王軍の進行状況について連絡を取り合い、作戦を練るためです!」

「まぁ筋は通っているでござるな」


 そこに黙って聞いていたロロも参戦する。


「ルーイが気にしてんのは、何で直前まで俺たちに知らせなかったかってことだろ? その口ぶりなら、もっと前から決まってたんじゃねぇか。

 俺も女王のことは信用してねぇから分かるけど、何か隠してる気がすんだよ。

 ヒロも聞いてなかっただろ?」


 僕は頷きで返した。


「お前と一番話してたヒロまで知らねぇってのはな。

 知られてちゃ不味かった理由があんじゃねぇのか?」


 ルーイも肯定の沈黙で返す。


「それは━━!」


 エラは言い淀んでしまう。目が泳いでおり、動揺を隠しきれていない。本当に隠し事があるのだろうか。エラに問いかけようとすると、


「━━ヒロに、サプライズしたくて」

「へ?」


 小声だったけど、まるでその時だけ馬車の走る音が消えたかのようにはっきり聞こえた。


「ヒロをびっくりさせたくて、黙ってたんです!

 ごめんなさい!」


 顔を真っ赤にしたエラがうつむく。


 しばし沈黙が流れる。

 え、それだけ?


「これはしたり!

 繊細な女心を推し量れなんだヒロ殿が悪うござる!」


 かんらかんらと笑い声が響く。


「え、僕が悪いの!?」

「ヒロ殿が集合に遅れた為に、告げるタイミングを逃したのでござろう?」


 エラはこくこくと頷く。


「さぁ、ヒロ殿。

 ここは、“ありがとう、僕の為に!”といって、抱きしめてから口吸いをする場面でござるぞ」

「それ、マジでやったら燃やす」

「やらないよ!」


 ロロは本気で燃やすつもりだ。


「まぁそれに、魔王が倒せずに困るのは女王自身でござろう?

 何か腹心があるにせよ、我々の成すことに変わりはありますまい」

「まぁ、そうかもな

 ヤバそうなら俺は抜けるけど」

「そうなんですか?」

「女王に報告してもいいぜ、一人の勇者が野に消えましたってな」

「そういえばその話すっかり忘れてたよ、ロロ」


 皆で話した時に、途中離脱できないとは聞いていない、って話題に挙がってたっけ。


「オーケー、わかった。

 とりあえず場の空気を悪くしてしまったのは謝ろう、すまなかった」


 今度はルーイがエラに頭をさげる。

 そしてエラの返事を待たずに、ただし、と顔を上げる。


「私はやはり女王を信用していないし、ひいては君のことも信用しきれない。だから個人的に君の行動を監視させてもらう、仲間を守る為にも。悪く思わないでくれ」

「はい、それで構いません」

「そして私たちの一行に加わりたいなら、条件がある」

「……何でしょう」


 何だろうか。


「フランクに行こう、敬語はやめて」


 え、それだけ? 何かデジャヴを感じる。


「分かったわ。これからよろしく、ルーイ」


 二人は握手を交わす。場の空気が一気に弛緩した。

 ロロも口で言うほど気にしていない様子だった。


「もしかして悪役を買ってくれたの?」


 ルーイならやりかねないと思い、裏でこっそり聞いてみた。


「いや、本気だよ、全部」


 笑顔で爽やかに返されてしまった。



 冒険で初めて訪れる村は、もうすぐ近くまで迫っていた。


挿絵(By みてみん)

挿し絵はマホさん(https://mobile.twitter.com/harpatkaula&ved=2ahUKEwjZi6vezM7rAhUTiZQKHbGwBPQQFjAAegQIARAB&usg=AOvVaw11udT969-6tmPmugllxktq)からいただきました!

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