表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第一章~自称癒士の旅支度~
14/66

第十二話:勇者の才能は一足飛びに開花する

「導師様!?」

「勇者達と姫とでは、抑制の意味が異なる。姫の場合は魔力を底上げする為じゃが……。

 勇者達は桁違いの魔力を抑えつける為じゃ」

「やってやろうじゃん」

「どうするのか分かってるでござるか?」

「ただ願い、想像すればよい。あそこにある薪を砕きたい、と」

「へっ、こうだな!」


 ロロは右腕を大きく振りかぶる。そして引ったくるように手でくうを裂いた。


「消えろ!」


 薪は、


 微動だにしなかった。


「……」


 あー、これアレだ。めっちゃ恥ずかしいやつだ。


「ドンマイ、ドンマイ!

 たまたま上手く行かなかっただけだ。切り替えていこう!」


 ルーイさん、お願い。今はそっとしてあげて。

 エルム姫も気まずそうに視線を逸らした。


「失敗は成功の母でござるz━━ブぇっ!」


 ロロのボディが的確に入った。


「なんでそれがしだけぇ……?」


 ガクリと崩れ落ちる。


「次、お前やれ」

「まぁ、そう言わずに。挑戦してみなよ、もう一度」

「や れ」


 有無を言わさぬ迫力に流石のルーイも折れたのか、


「了解、了解」


 やけにあっさり了承した。


 ルーイは先程のロロが居た位置に代わって立つと、小さく腰を落とし、大きく右半身を引いた。

 一拍置くと一気にその身を捻り、右腕を前に突きだす。

 一連の動きがあまりに美しくて、目を奪われてしまった。皆がそうだったのだろう。誰も薪がどうなったか、結果を追う者は居なかった。


「合格じゃ」


 ━━導師ドニを除いては。

 薪を見ると、薪には卵大の真円の孔が空いていた。

 あんぐり口を開けていたロロが我に返り、ルーイに詰め寄った。


「お前、昨夜練習してただろ!?」

「まさかそんな」

「嘘つくなよ」

「本当だって」


 後で真実を聞いておこう。


「ところで、さっきの動きは何か武器を使ったように見えたが?」

「ええ、イメージしました、一本の槍を突き出すように」

「なるほど、では……」


 導師は近くに落ちていた小枝をルーイに放った。


「これを持って、もう一度やってみなさい」


 小枝を受け取ったルーイは軽く頷くと、先程と同じ体勢をとった。


「はっ!」


 今度は見逃さないように、枝先から薪までの空間を真剣に見つめる。すると指先で小さな破裂音がしたかと思うと、その先の薪で大きな爆発が起こった。


「凄い、凄いよルーイ!」

「そういうことか」

「どういうことだよ」


 手に視線を落としたルーイに、ロロが疑問を投げかける。


「最初は魔素を集め、一度槍のイメージに落とし込んだ後に、それを放出する、と段階を踏んだ上で攻撃を行ったのじゃろう。

 じゃが、手に武器の代わりとなるものを持ったことで、余計な想像力を要しなくなったわけじゃ」

「うん。物凄くスムーズだった、力の流れが」


 手には千々に裂けた小枝が握られていた。


「流石に小枝では受け止めきれんかったようじゃな。ちゃんとした武器を持てば、より効率よくなるじゃろう」

「なるほど、道具を用いてもよいのでござるなぁ」


 チェリャが急に背後から現れたので、びっくりした。

 ケロッとしている所を見ると、さっきの腹パンチは大したダメージでは無かったのだろうか。


「ではそれがしは、これで……」


 引き抜いたのは、その辺の草だった。それを指に挟むと、薪の方へ放った。


 ━━スコココーン

 小気味いい高温を響かせ、草が薪に突きたった。


「いやぁ、草ではこんなものでござるなぁ。失敬、失敬」


 事も無げに、とんでもないことをやってみせていた。

 勿論草が固いわけではない。重力に従い、力無く垂れ下がっているのが、何よりの証拠だった。

 次に平たい石を拾うと、頭の横まで振りかぶった。


「せぃやあっ!」


 力一杯に投擲された石は薪を一刀両断し、奥の湖面で数回跳ねて沈んでいった。


「やはり、平たい石はよく跳ねますなぁ! 結構、結構!」

「合格じゃ。しかし変わった魔術を使うのぉ」


 突っ込み所は多いけど、魔法のセンスが抜けて高いことはよく分かった。

 ただの変な人ではなく、底の知れない変な人だ。


「何か道具を使った方がいいのか?」

「相性の問題じゃな。無理に道具を使っても、無駄な工程が必要になるだけじゃから、思い付かんならやめておいた方がよいの」

「なるほどな」


 ロロは再び薪の前に立つ。


「ハゲに先越されたのは、ちょっとムカつくからなぁ」


 今度は両腕を横に広げて、構える。


「片手でダメなら、両手ならどうよ!」


 両手で同時に空を裂く。

 その刹那、目の前が閃光に包まれた。空気の温度が急上昇し、肌がひりつく。爆炎が巻き起こり、消えていった。


「ははっ、どうよ!」

「んー、不合格じゃな」

「何でだよ!?」


 胸を張っていたロロが、ガクッと姿勢を崩す。


「薪は周りがちと焦げただけじゃ。見た目は派手じゃが、まだ効率が悪いの。もっと薪の周囲に集めるようにするんじゃ」

「━━分かったよ。今度は消し炭にしてやる」


「みんな、凄いな」


 思わずぽつりと漏らす。

 横を見ると、エルム姫が頬をぷくーと膨らませていた。

 あぁ、先輩タイム……一瞬で終了しちゃったもんな。


「導師様は凄い方だね。指導が的確で、あっという間にみんなの能力を引き出しちゃった」

「そうなの、素晴らしい方なのよ」


 少し機嫌が良くなったようだ。今まで頑張ってきたのに、才能だけで飛び越えていかれるのは、釈然としないものがあるだろう。

 エルムも凄いよ! というのは気休めにしかならないように感じた。


「エレノア姫やエラ姫も、ここで修行したんだよね?」

「私はエラ姉様の修行を見たことがあるけど、とても美しかったわ。

 エレノア姉様も才能だけじゃなくて、凄く努力して、王族に相応しい魔術士になられたそうよ。私も出来ることをやらないと」


 余計な心配だったかもしれない。


「おい、何まったりしてんだよ。お前もやるんだよ」

「えっ」


 よく見ると、薪と切り株があった所は黒い更地になっていた。

少し離れたところでは、ルーイとチェリャが一対一で訓練を始めていた。

 エルム姫は行ってらっしゃい、と送り出してくれた。観念して、設置された薪からやや離れて立つ。


 薪を見据える。


 けれど、


 イメージがこれっぽっちも湧かないんだ。

 薪を砕きたいって何だよ。斧使おうよ。


 静かに目を閉じる。


 試しに、銃を構えるフリをしてみた。駄目だ、実感が全くない。

 掌を前に向け、両手を重ねる。命名の儀式で感じた、力の流れを思い出す。


 あの感覚を手に逆流させる。

 ゆっくりと息を吐き出す。


 そのまま前に……前方にあるはずの標的に向かって……



 ━━そうっと目を開ける。薪は、健在だった。


「何も変わってねぇじゃん」

「ロロ殿、よかったですなぁ!」

「何がだ!」


 いつの間にかルーイ達も手合わせを止めて、様子を見に来ていた。導師ドニは薪をしげしげと眺める。


「なるほど。お前さんは、癒の能力者じゃな」


 指を差した先を見ると、植物の芽が顔を出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ