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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第一章~自称癒士の旅支度~
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第十一話:エルム姫は、湖畔で薪を砕く

 少し先に目を向けると、丸っこい男性が楽しそうに水やりをしていた。


「おはようございます、導師様」

「おはよう、エルム姫。それと……今代の勇者達」


 導師はこちらを振り向くと、挨拶を返してきた。

 焦げ茶色でチリチリに捻れた髪と髭が、一緒になって顔を覆っていた。


「これが導師?」

「初めまして、よろしくお願いいたします」

「話はエリー聖王から聞いておるよ。ワシはドニ・フルール。

 皆からは導師と呼ばれておる。が、正直なところ過分な名前じゃな」

「ご謙遜を」


 エルム姫は、“これ”と呼んだロロをチラリと見る。見られた側はどこ吹く風、と流してしまう。


「謙遜ではないよ。長く生きた分、近道を知っておるだけじゃ。

 ……さて、ついてきなさい」


 水やりを終えると、奥へ歩きだした。エルム姫と四人の勇者が後に続く。


 蔓の垂れた狭い通路を抜けると、急にだだっ広い草原に出た。


「これは、驚いたね」

「入口が消えてやがる」

「外に出たわけではないよ。ここは間違いなく塔の中じゃ。

 ただ、空間を拡げておる。魔法の訓練をするには、元の空間では足りんでな」


 さて、と導師が指をパチンと鳴らすと、周囲の景色がグニャリと流れた。

 目の前に湖が広がり、湖畔に木造の小屋が建っている風景に移動させられた。焚き火がパチパチと音を立てている。


「何だぁ、キャンプでもしろってのか?」

「これは擬似的に魔素の混在した状況を作り出したものじゃ。

 さて、修行は実際にやってみてもらった方が早いんじゃが」


 ドニはぐるりと見回すと、エルム姫で視線が止まった。


「折角じゃし、先輩にお手本をしてもらうとするかの」

「はい」


 切り株の上に、太い薪が忽然と姿を現した。


「何、難しいことではない。これを魔術で破壊してくれればよい。

 ただし……」


 ドニがペンダントについた深緑の宝石、アークセイントライトを回転させる。体全体にかかる重力が、増したような感覚に襲われた。


「今、この領域にいる人間の魔力放出量を、200分の1に減らす術式を発動させた」


 エルムは頷くと、静かに構える。そして、指を伸ばした手で鋭く二回の突きと蹴りを繰り出した。


「はっ、はっ、やっ!」


 その指先、足先から空気の歪曲が出現し、薪へ向かって一直線に飛んでいった。三回の亀裂が入り、薪は二つに分解された。


「ワーオ、素晴らしいね!」


 ルーイから歓声が飛び、僕とチェリャは素直に拍手した。

 エルム姫は、またほっこりしていた。


「これ、すごいのか?」

「スゴいでござろう! 魔法でござるぞ!?」

「しかも本当はこれの200倍の威力があるってことでしょ?」


 そこの小屋くらいなら、簡単に吹き飛ばせそうだ。しかしロロは若干不満げな表情を浮かべる。


「てっきり木っ端微塵になるのかと思ってたわ」

「派手な魔法が見たければ、抑制を緩めればよい」


 割られた薪は隣の焚き火にくべられ、新たな薪が出現した。


「この凄さは、この世界における魔法の知識がなければ分からんじゃろうが……。それを説明すると長くなるでの、まずは試してみるのがよかろう」


 話を聞くや否や、ロロは袖をまくり一歩前に出た。


「何でもいいぜ。さっさと終わらせてやるよ」


 (多分ロロ殿もやりたがりでござるよな?)

 (うん、ウズウズしてる気がする)


「聞こえてんぞ、ハゲ」


 僕とチェリャの内緒話は、バッチリ聞こえていたらしい。


「さて、勇者達は初めてじゃからな。ここは、ほどほどにして━━」


 導師ドニは再びペンダントの宝石を回す。


「きゃっ!?」


 今度は露骨に、全身の倦怠感が強くなった。



「50000分の1くらいでよかろう」


 導師はニッコリと笑みを浮かべた。

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