巻きぞえ
「お姉ちゃん起きて!ねえお姉ちゃん!」
「君大丈夫かい?」
「うん、だけど、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが」
シャランは泣きながら自分に覆いかぶさるように意識を失っている姉を心配して泣きだしてしまっていた。そこへ碧華が駆け寄ってきた。
「早く救急隊に連絡しなさい」
碧華が的確に指示をだしている間に暴れている男たちはとらえられ、会場から引きずり出されていた。会場内はパニック状態になっていたが、テマソンがマイクを使って落ち着くように会場内のファンに語りかけた。ようやくタンカが運ばれて意識のない彩奈が救急隊によって運びだされた。パニック寸前のシャランに碧華は優しく語りかけた。
「お姉ちゃんは大丈夫よ、ねえ、今日は二人で来たの?」
「うううん、ママの車で来たの、ママ今ここの美容院に行ってるの」
「じゃあ携帯電話持ってる?」
「うん」
そう言ってシャランは救急車の中に運び込まれた彩奈を救急車までついて着てそこで母親に電話をかけた。しばらくして母親が電話口に出た。
「ママ、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが」
シャランはどう説明していいのかパニックを起こして言葉にならないようだった。碧華は優しくスマホを貸してくれるように言ってシャランのスマホを受け取って電話に出た。
「お電話変わりました」
「あら日本語?あなただれ娘はどうしたの?」
「申し訳ありません。わたくし本日サイン会をしておりました碧華レヴァントと申します。実は、会場内に不審者が乱入してきまして、シャラン様はご無事なのですが、シャラン様をかばってお姉さまが脳震盪を起こされたみたいでいま意識不明でひとまず病院に搬送される所なんです」
「なんですって、シャランはシャンランは本当に無事なんでしょうね」
「えっ、はい、シャラン様はご無事です、ですがお姉さまの方が」
そこまで碧華が言うと大きな安堵のため息が聞こえてきた。碧華は一瞬で嫌な予感がした。
「よかったわ、シャランに何かあったらどうしようかと思ったわ。私今パーマをあてている所で動けないのよ。彩奈はどうせ寝不足で寝ちゃってるだけでしょうから、ここの医務室でも寝かせておいてちょうだい。終わったら引き取りにいくから。後、シャランが心配だからあの子をここまで連れてきてくれないかしら」
「かしこまりました。ですがお姉さまの方は口から出血もされておりますし、こちらとしましても医師が脳の精密検査をした方がいいと言っておりますので病院の方へ搬送いたしますので、後程ご家族のどなたかが説明を聞きに来ていただけないでしょうか?」
「はあ?なんでそんなことをしないといけないのよ、医務室で寝かせておいてって言ってるでしょ。まったくどんくさい子なんだから。余計なことをしないでよね」
「しかしですね、こちらにも責任がございますので」
「ああ~もうわかったわ。あの子が目が覚めたら本人に直接行言ってちょうだい、もちろん家まで送ってくれるんでしょうね。病院代も払わないわよ」
「はいもちろんです。検査が済んで異常がないようでしたら、わたくしどものスタッフの車で家まで送らせていただきます。今からそのご説明と詳しい説明に参ります」
「そうしてちょうだい」
碧華が電話を切ると腹立たしさを隠してなるべく笑顔でシャランにスマホを返すと行った。
「お姉ちゃんは心配しなくてもいいから、シャランちゃんはママの所に行きましょうか?私が一緒にいってあげるわ」
「でもお姉ちゃんが・・・」
「大丈夫よ、目が覚めたらシャランちゃんに電話をするように伝えるから」
そう話しかけてきたのは優だった。
「ママ、あの子の付き添いは私がするわ」
「そう、私も後でかけつけるわ」
優は頷くと、救急車に乗って病院に向かった。碧華はそれを見送るとシャランを連れてショッピングモール内の美容院に向かうことにした。スタッフが同行するといったのだが碧華はそれを遮り、シャランを落ち着かせるように明るく話しかけた。
「シャランちゃんはどの本が好きなの?」
「あのね、あのね私ねアーメルナが一番好き」
「あらそんな前の本も読んでくれているの?」
「うん、碧華先生の本が全部持ってるよ、私、日本語で聞くのが大好きなんです。でも私日本語は喋れるけど、読めないからいつもお姉ちゃんに読んでもらっているの。でもお姉ちゃん、家の用事で忙しいから寝る前しか時間がないの」
「あらお姉ちゃんはお家でお仕事しているの?」
「うん、家政婦してるよ」
「そうすごいわねえ」
「どうして?ママはいつもお姉ちゃんのこと怒ってるよ、こののろま!ってパパもだけど」
「あら、家政婦なんてすごいお姉ちゃんね。だってお姉ちゃんは家事ができるんでしょ。家政婦っていう立派な仕事をしているんだもの」
「そうかな、家政婦なんて底辺の仕事で人間の屑のする仕事だって言ってるよ」
「あらそんなことないわよ、家の事をしてくれる人がいるからこそ、楽しく学校行ったり仕事ができるんだもの」
碧華はそう言いながらこの家族の闇が見え隠れして言うようで心のモヤモヤがより深く感じるようになってきていた。
その後碧華が美容院にシャランを連れて行くと、上機嫌でまだ途中のようだった。
「ママ、AOKA先生だよ、私をここまで連れてきてくれたんだよ」
「あらあら、それは申し訳ありません。あの次いでにその子終わるまで見ててもらえないかしら」
「ええ、かまいませんよ。じゃあシャランちゃん、外のベンチでお話ししていましょうか?」
「うん」
上機嫌で碧華とベンチであれこれ話すシャランに碧華の怒りは沸点に到達しようとしていた。一時間後ようやく終わりきれいに髪をブローし終わって優雅に出てきた母親に向かって碧華はいたって穏やかに言った。
「では、病院に家の車でお送りいたしましょうか?それともご自分の車で向かわれますか?」
「あらどうしてえ私が病院なんかに行かなきゃいけないの?」
「えっ、ですが娘さんが・・・」
「あっ彩奈の事、家の使用人よ、この子がお姉ちゃんなんて紛らわしいことを言うもんだから、誤解されるんですよ。あの子が気が付いたら伝えてくださいな。早く戻ってこないと夕食が食べられないじゃないのってね。じゃあよろしくね。あっそれとうちの子に怖い思いをさせた慰謝料、払ってくださるんでしょうね」
「えっ?」
「えって当然でしょ。家の使用人も怪我をしてるし、この子だってどんなに怖かったか。トラウマになったらどうしてくれるんですか?」
「申し訳ありません、警備が不十分でして、わかりました、我が社の社長共々、夕方にでもお詫びに伺いさせていただきます」
「あらわかればいいのよ、慰謝料は現金にしてよね。これが住所よ」
そういうと、バッグから名刺を碧華に放り投げると、シャランの手を掴むとすぐに帰って行ってしまったのだ。娘が意識不明で病院に運ばれたというのに、慌てる素振りは見せずに使用人と言っているのだ、どちらが言っていることが正しいのかはわからないが、自分の家の使用人が娘をかばって怪我をしたならばその使用人の安否も気になるはずなのに、碧華には理解できない感情だった。碧華はすぐに行動にうつした。