乱入さわぎ
9日は日曜日で買い物客でショッピングモールは人でごった返していた。
その中でも映画館の大ホールを貸し切りで行われたAOKA・SKYの新作限定本サイン会が予定通り開催されていた。一回目の500人の当選者と未成年者には付き添い一名の同行者たちは憧れのAOKA先生のサイン会と新作本に大興奮していた。二回目の入れ替えの順番を待ちながら、彩奈もシャランの手を握りながらその時を待っていた。
「お待たせいたしました。只今から会場致します。指定されている席に順次速やかにご入場し、着席にてお待ちくださいませ。全員が入場いたしましたら、順次前の方にお呼びいたしますので順番をお待ちくださいませ」
後半の整理番号を持っているファンに向かってスタッフがマイクで説明をした。
「なんだかドキドキするねお姉ちゃん」
シャランは彩奈を見ながら言った。
「そうだね」
そう言った彩奈だったが内心はドキドキだった。AoKA先生に会うのは10年ぶりだったからだ。
(AoKA先生は私のことなんか覚えていてくれているはずはないけど、一番幸せだった頃の記憶の一つがAoKA先生のサイン会だったから、まさかこのアトラスでもう一度会えるなんて、生きててよかった)
彩奈は首にかけているお守りを取り出すとギュッと握りしめた。
会場の中に入ると、既に多くのファンが席に座っていて、座席もほぼ埋まる勢いだった。というのも当選したのが子どもが多数いたこともあり保護者も同伴していた為に、席がかなり埋まっていたのだ。彩奈たちも会場に入る際に、スマホの当選番号と引き換えに座席番号が書かれたカードと注意書きが書かれた紙が配られ、今日のサイン会でAoKA先生がサインしてくれる新作本を購入した。購入代金は彩奈ではなく、シャランが直接母親からもらっていた。新作本を手に入れて上機嫌で会場内に入っていくシャランの後を彩奈も続いた。指定されている席について注意書きを開くとわかりやすくSKY先生のイラスト入りで表には英語、裏には日本語で書かれていた。
「順番に100人ずつ呼ばれるみたいね」
「そっか、じゃあ、時間結構あるね。でも少しぐらいならAOKA先生と話せるかな?」
「大丈夫みたいよ、プレゼントも今回は直接渡せるっていうから持ってきてよかったね」
「うん、でも・・・みんなすごく大きいのや高級そうなもの持ってきているみたいだよ。やっぱり何か買った方がよかったかなあ・・・」
シャランは周りをキョロキョロ見渡しながら小さい声でつぶやいた。
「大丈夫だよ、AoKA先生は何でも喜んで受け取ってくれるよ、あなたが時々見せてくれるAOKA先生のブログでも書いてたでしょ。プレゼントはいらないって、笑顔だけで十分だって、それにね、先生はたくさんお金持っているから、欲しいものなら自分で買うよきっと。だから世界に一つだけの手作りの物の方が喜んでくれると思うよ、シャランのメッセージ書き込んであるそれ、きっと喜んでくれると思うよ」
(私も昔手書きした絵をすごく喜んでくれたもの)
彩奈は心の中でつぶやいた。
「そうだよね、私頑張って考えたもん、それにお姉ちゃんの絵すごくかわいいもんね」
「シャラン、どうしたの?」
横を見るとシャラン、がきれいにラッピングした色紙の包みを開け始めたのだ。
「みんなの見てて思ったの、きれいにラッピングして渡したら、AOKA先生に本当に見てもらえるかわかんないでしょ。AOKA先生受け取ったらすぐ後ろのスタッフに渡しているし、だったら色紙なら直接見せて渡した方が確実に一瞬でも見てもらえるでしょ」
「そうね」
彩奈は取り払われたラッピングをシャランから受け取ると、きれいに元の形に戻し、手で持つことにした。そしてようやくシャランの順番になった。彩奈はシャランの後ろに立ち、AOKA先生と向きあった。
「AOKA先生、私先生の大ファンなんです。日本語で書かれた詩集をいつもお姉ちゃんに読んでもらってるんです。凄くいい響きです。これからも素敵な詩集かいてくださいね」
シャランがにっこり笑顔で新作本を渡していうと、AOKA先生が笑顔でシャランにじゃべりかけてくれた。
「あら日本語がお上手ね」
「はいママが日本人なんです」
「そうあなたお名前は?」
「シャランです」
AOKA先生はそう聞くと本を受け取りシャランちゃんへと書き込みサインをした。シャランはそれを受け取ると、手に持っていた色紙をAOKA先生に手渡した。
「まあ、可愛い梟の絵ね」
AOKA先生はその色紙に目を通すとシャランの顔を見ながら言った。
「ありがとうございます、絵はお姉ちゃんに書いてもらったんです。私はメッセージしか描いてないんですけど」
「あらメッセージも素敵だわ。あらでもこの絵私見たことがあるわ」
そう言ってAOKA先生は私の方に視線を上げた。そしていつもなら服の中に入れているお守りに目を止めると笑顔で言ったのだ。
「あら、思い出したわ、あなた確か前に日本でのサイン会で私に梟の福ちゃんの絵をプレゼントしてくれた女の子じゃないかしら」
その言葉を聞いた彩奈は驚きの表情を受けベて頷くことしかできなかった。
「まあやっぱり、私ねあの絵すごくお気に入りで今でも部屋に飾ってあるのよ。嬉しいわ、もう一度会えて、私の宝物が増えちゃったわ」
そう言ってAOKA先生は彩奈にまで握手を求めてきたのだ。彩奈は感激で涙が頬を伝って前が見えなくなってしまった。すると、AOKA先生はテーブルの上においていたハンカチでそっと頬を伝う涙拭ってくれた。
幸せな時間はあっという間に過ぎスタッフに促されるままに会場を出なければいけなくなった時、突然出口の方が騒がしくなった。どうしたのかと思っていると、突然、出口のほうから数人の男たちが乱入してきたかと思っていたら、止めに向かったスタッフともみ合いになり、そのうちの一人がスタッフの静止を振り切りAOKA先生めがけて駆け寄ってきたのだ。
「先生、俺らにもサインくださいよ。先生のサインって幸運を呼ぶんですよね。ケチらないでくださいよ~」
男たち目はどこかうつろで尋常な状態ではない様子だった。そう叫びながら走ってくる男に、シャランが駆け寄って男の服を掴もうとしたのだ、その瞬間、彩奈はとっさにシャランをかばった為に、男の腕が彩奈の顔面に辺りシャラン共々映画館の壁に激突してしまった。
幸い、シャランは彩奈がかばった為に無傷だったが、彩奈は思いっきり壁に頭を打ち付け、更に男のふりかざした腕が顔面に直撃したために口がキレ血が流れ落ち、シャランをかばったまま気絶してしまった。
会場は大騒ぎとなり、サイン会は中止となった。というのも、負傷者は彩奈以外はいなかったが、会場には子どももたくさんいた事もあり、かなりの動揺が広がり、継続不可能になったからだ。
彩奈は薄れゆく意識の中でシャランの自分を呼ぶ声を聞いた気がした。