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当選

その知らせは突然きた。


「きゃ~!当たったわ。ママ、見て見て!サイン会当選したのよ。ねえすごいわ。すごいわ、約束よ連れて行ってくれるでしょ。サイン会なんてめったにないのよ、それも限定販売の新作があるのよ、それに今読んだら、SKY先生の書下ろしサイン入り挿絵付きなのよ、ねえ絶対連れて行ってよ」


家に帰って来るなりスマホを母親に見せながら興奮したように叫んだ。

シャランの通う学校は家のあるマンションのすぐ前だった為に、送り迎えは彩奈の担当だった。彩奈が学校の校門の前まで一緒について行き、帰りも下校時間になると門の前で待っていた。校門でいつものように迎えに行くと、友達が家族の迎えの車に乗り込んでいた。彩奈はいつもメイド服を着ていたので、誰もシャランの異母姉妹だとは知らなかった。住み込みのお手伝いさんとしか思っていなかった。家も目の前のマンションということで車での送迎ではなく彩奈が立っていても誰も不思議がらなかった。シャランは彩奈を見た瞬間、抱き着いて興奮したように言った。


「お姉ちゃん、当たったよ、サイン会!会えるんだよAoKA先生に!」

「よかったね、シャラン」


彩奈はシャランを受けとめながら言った。それから家に戻るまでの数分間は興奮したシャランが一人しゃべり続けた。


「とにかくすごい確率なんだよ。友達もね応募したらしいんだ。AOKA・SKY先生の限定本なんてすごいもん。だけど当たったのは私一人だよ。だって1000人限定のサイン会に対して応募してきたのは全世界から100万人だよ、すごい確率でしょ。世界中から当選した人達が集まるんですって、ツイッターみてたら当たったって人世界中に散らばってたみたいだよ。すごいよね」


「当日は未成年者は付き添い者大人一名同伴可って書いてたけど、ショッピングモールの映画館でサイン会があるんだって。あそこの映画館1000人入るでしょ。だから二部制にしてあるんだって私は二回目だよ。新作買ってきたら読んでね。今回も日本語と英語両方記載みたいだから」


可愛く話してくる妹は大好きだった。決して母親のように蔑んだり暴力を揮ったりはしない。だけど、生まれた時から家事をしている彩奈の事は当たり前の事だと思っているらしかった。彩奈も行きたいとは思っていたが決して言葉には出さなかった。お金も持っていない自分にはショッピングモールへすら行く手段がないからだ。しかしその夜、事態は思わぬ方向へと向かうことになった。


「ママ約束したじゃない!当選したら連れていてくれるって!」


「でもねシャラン、ママの予約した美容院の時間と重なるのよ。そこの人気美容師さんを予約するのに一ケ月待ったのよ」


「ママの嘘つき、そんなのまた一ケ月待てばいいじゃない。AoKA先生のサイン会なんて次はいつあるか分かんないし、次も当たる保障ないんだよ。ママ私がAOKA・SKY先生の本大好きだって知ってるでしょ!」


「でもねえ・・・」


「もういいよ。じゃあお姉ちゃんと一緒に行くよ、それならいいでしょ、お姉ちゃん20歳でしょ私の保護者になるじゃん、ママが美容院に行くときに一緒に行けば問題ないでしょ」


「彩奈を連れて聞くの?駄目よ、知り合いにでも見られたらどうするの?」


「いいじゃん別に、それに毎日ママがお迎えに来てくれないからお姉ちゃん近所の人みんなしってるじゃん、使用人さんだってみんな思ってるよ」


「わかったわ。彩奈もいつもの服で行かせるわ。彩奈、彩奈!」

「はい」


彩奈は夕食の段取りを中断させて母親の所に姿を見せた。


「呼んでるだからさっさときなさいよ。本当にグズなんだから」

「ごめんなさい」


「はあ!仕方ないから9日はお前もショッピングモールに連れていってあげるわ。但し、余計な行動はするんじゃないわよ。シャランのサイン会に同行して、終わったら美容院に来なさい。わかった」


「はい」


彩奈は無表情でそう返事を返すと夕飯の支度に戻った。内心はドキドキが止まらなかった。憧れの人に会える。彩奈はそれだけで嬉しかったのだ。母親は彩奈をショッピングモールに連れて行くのは何故か嫌がっている様子だったが娘のシャランには弱いらしく頑なに食い下がるのでとうとう渋々了承したのだった。


(まあ・・・お金を持たせるわけじゃないし、私の目を盗んで国際電話なんかかけるなんてできないわよね)


夕飯を準備している彩奈を睨みつけながら母親の待代はブツブツ呟いていた。










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