妹とサイン会
そんなある日のことだ。妹がスマホを見ながら母親に叫んだ。
「ママ!大変だよ」
「あら何が大変なのシャラン」
母親もスマホを眺めながら横にきた娘に笑顔を向けて言った。
「これみて、AOKA先生のサイン会があるんだって、見てよ限定販売の新作も販売するんだよ。ねえ、行こうよ。私欲しい」
「いつあるの?」
母親はスマホを眺めながらたずねた。
「来月の9日なの?その日はダメよ。ママ美容院を予約してあるもの」
「ええ~、だけどその日限定なんだよ。場所もココモショッピングモールなんだよ。あそこだったら、ママの行く美容院でしょ。ママが美容院に行っている間に私並んでいるから」
「でもねえ・・・サイン会なんて、先着順なんでしょ何時間も並ばないといけないんでしょ」
「違うよ、ネット抽選なんだって、だから当たったら私もショッピングモールへ連れて行ってよ。当選していたら順番待つだけだからそんなに時間かからないよ」
「わかったわ、当たったらね」
めんどくさそうに言いながら言う母親に
「ありがとうママ」
そう言って抱きついて興奮してシャランは夕食の準備をしている彩奈にも言ってきた。
「お姉ちゃん、見てよ、私絶対当てて見せるからね。ここには内容は日本語でも書いてあるって書いてあるから買ったら読んでよね」
「ええ、わかったわ」
彩奈は力なく微笑み返した。まだ十歳なのに、妹は既にスマホを持っていてほしいといったものはなんでも買ってもらっていた。それなのに、彩奈はパスポートも取り上げられていて、このアトラスでは既に不法滞在になっていた為、きちんとした仕事もできず、家で奴隷のように無給料で家事全般の仕事をさせられていた。
家出をしたくても身分を証明するものもない為にどうしたらいいのか自分でも分からなかった。
(AOKA先生かあ・・・懐かしいな。おばあちゃんと一緒にサイン会行ったっけ、始発で行って一番にサインもらったんだったなあ・・・)
彩奈にとって大好きな日本を思い出させてくれるAOKA・SKY先生の詩集は今じゃ生きる支えになっていた。その作家さんを崇拝している妹もまた私の宝物の一つだ。