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どんなに辛くても朝が来る

″ジリジリ‶


目覚まし時計が今日も鳴り響いた。

目が覚めて最初に神に感謝し、そして大好きなおばあちゃんに向かってかたりかけるのだ。


「神様、今日も朝を迎えることができました。ありがとうございました。おばあちゃんおはよう。今年も神社の桜咲いたかな。ここには桜はないけど、桜に似た花なら春になったら咲く木があるんだよ。いつかおばあちゃんともう一度桜がみれますように」


彩奈は自分の中にいる神様に感謝して朝が始まる。昨日は残り物がもらえなかったので今朝はお腹がぐう~となり始めている。

だけど、今朝は朝食がある。それは昨日の夜の事だった。いつものように夕食の後片付けをしていると妹が読んでほしい本を手に持ちながら近づいてきた。


「お姉ちゃん今日はこれ読んで」


そう言ってAOKA・SKY先生の詩集を手に持っている。そして本の間には袋が開いたお菓子の袋が挟まっていた。


「これね今日のおやつだよ。私は半分食べたんだけどママがみてないすきに隠しておいたの。すごくおいしかったから後で食べて」


こうやって妹は母に甘やかされておやつやお菓子など何不自由なくもらっているが、姉である私は正反対で母親には使用人扱いというより奴隷に近い扱いを受けていた。夕食もなしが常で一緒に食事などした記憶がない。家族の残り物を食べるというのが私の食事だ。だから残らなければ何も食べれないことが常だった。この家には母の再婚相手であるランという人がいる。あの人と母の間に今年10歳になる娘がいる。私とは父親違いの妹だ。彼女が赤ちゃんの頃から世話をしているせいか、母が私にどんなにつらく当たっても同じように蔑むようなことはせず、姉として慕ってくれている。そして、こうしてこっそり色々くれるのだ。

彼女は私の少ない宝物の一つだ。


「さあ、今日も頑張って生きよう。今日はいいことがあるかもしれないもの」


彩奈はそうして自分を励まし、言いきかせるのだった。

彩奈の朝は早い、朝4時半には起きだし、朝食の用意、洗濯を済ませ、家族が起き出す前にベランダに洗濯ものを干しておかなくてはいけなかった。そして五時半にはランさんが起き出してきて朝食を食べ始めるのだ。もちろん母親は起き出してすら来ない。


きちんと服には全てアイロンをかけ、泥だらけの靴もきれいに磨き上げなくてはいけない。汚れが残っていたりすると、気がすむまで殴られるのだ。体中あざだらけだった。


ランが出かける頃には朝七時になっており、妹を起こし朝食を食べるように促し、長い髪を可愛く結い上げてあげて服を選び、真向かいの学校の門まで送り届けているのだ。


その後も家の掃除や買い出しなど家政婦としての家事は一日続いていた。

監視人という母親の目が光っているため、手を抜いて休むなどできなかった。しようものなら容赦なく物が飛んできたり、棒で体中を殴られた。そう顔以外は・・・私を便利な奴隷としてこき使う為に


彩奈がここアトラスに来たのは10歳の時だったが、学校へは通わせてもらえなかった。ここに来た日から家事を強要された。


最初の頃は辛くて辛くて泣いてばかりいたが、泣いても状況は変わらないことを学んだ。そして生きる支えを二つ肌身離さず持ち歩き、母親に捨てられない用に。見つからないようにいつも同じ服のお腹の辺りに入れて隠し持っていた。最近は捨てる服で自分で作ったウエストポーチ風の入れ物を腰に巻き、その中に入れていつも腰につけて家事をしていた。


私の宝物とは、一つはAOKA・SKY先生の詩集だった。これは日本にいた頃、祖母におねだりして初めて買ってもらったものだった。これは先生が日本でしたサイン会でサインをもらった記念のものでもあった。


日本にいる時でも学校へ行くときも寝る時もいつも持ち歩いていた。そして二つ目はお守り袋だった。これは日本の祖母が作ってくれたものだ。私がとうじょうあやなであると示す唯一つの証明書代わりだった。この中には私の宝物である写真が入ってある。日本を離れて10年、まだ祖母は元気でいてくれているのだろうか。彩奈は今日も、一日をなんとか生き抜いている感じだった。


「今日はもしかしたらいいことがあるかもしれない。だから笑顔で頑張ろう。泣いたら疲れるだけだ」


今日もくたくたになるまで動いている。だから、自分で言うのもなんだが、家事に関してはかなりの腕前になっていた。

料理も母親は料理の本を彩奈の前に二冊放り投げ、これを見ながら予算内に作れと命じるんだ。時短テクニックと食材の最大限の活用で最近は文句を言われなくなってきていた。


こうして長い一日が繰り返される。


たまの息抜きは、このアトラス島の中央にそびえるラトマニ山を見上げることだった。少し日本の富士山に似ていた。昔一度父につれられて始めてみた富士山の美しさは今でも忘れられずにいた。このアトラス島には自然がたくさん残っていて、住んでいる町も高層ビルなどがある都心と比べて、緑豊かなこの町は嫌いではなかった。買い出しも行き、家の中に閉じ込められていない分、自分を保てているんだろう。警察へ駈け込もうなど想像すらできない。だってここは日本ではないのだから


少女が異国で辛い日々を耐えていようと、周りは気にせず今日という日を生活している。

大人も子どもも自分の幸せの為だけを願って





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