パーティ―の後
「お疲れさま~」
AOKA・SKYのファンクラブ主催による新作制作披露パーティーが無事終わり、会場の片づけも始まり、碧華達は行きと同様カリーナのリムジンである場所に向かっていた。
「でも碧華、さすがね即興であれだけの詩を書いていくなんて」
向かいに座っていたテマソンが温かい蒸しタオルで目を温めていた碧華に向かって言った。
「あら、テマソンもすごいじゃない。今までパソコンで即興で絵なんか描いたことないのに、よく私が彩奈ちゃんの詩を書こうとしているってわかったわね。彩奈ちゃんの写真なんて一瞬しか見てないでしょ」
「あら私は記憶力はいいのよ、あなたの考えていることなんてお見通しよ」
「恐れいりました」
碧華はそういうとテマソンに手を伸ばした。
「あらなあに?」
「お礼の握手」
「あらじゃこちらこそね」
碧華とテマソンが握手するとシャリーも手を重ね、碧華の隣に座っていたカリーナも手を添えた。
「お二人ともさすがでしたわ。まさかこのような素晴らしい詩集が完成するなんて想像しておりませんでしたわ」
カリーナは手を離してすぐに、膝の上に置いていた完成したばかりの詩集をパラパラとめくりながら言った。
「あら、それには二時間で七万冊もの印刷をしてみせるあなたの会社の技術力があってのことよ、この二十年ですごい印刷技術も向上したのね」
「あら当然ですわ、人も機械も日々進歩しておりますのよ。この二十年毎回毎回大ヒットの傑作を生み出し続けている大先生の本を締切り間際に大量に印刷依頼を受け続けておりましたら、技術者たちも開発には力が入るというものですわ」
「確かにそうね、人も進歩、機械も進化しているのよね」
「そうですわ。ですが、一番肝心なのはやはり碧ちゃんのひらめきがあってのことですけれどね」
「そうね神に感謝しなきゃ」
碧華はそういうと心の中で神に感謝の祈りを捧げた。そして目を開けると、碧華は大きなあくびと共にぐう~というお腹を空かせた音を響かせた。
「あら、大変ですわね」
碧華はお腹をさすりながら頭をかいた。
「ごめんなさい、だけど私よく考えたら、お昼はシャリーのケーキをつまんだだけだったわ。夜も食べてないし」
「あら私もだわ」
四人は笑い合った。
「飛び立ったら機内で食事にいたしましょう。その後、少し睡眠をとりましょう」
カリーナがいうと、またしても碧華が隣に座っているカリーナにたずねた。
「あれ、家に帰るんじゃないの?」
碧華が首を傾げていると、カリーナが笑顔で言った。
「あら、言いませんでしたかしら?これからニューヨークに向かいますのよ」
「ええ~私聞いてないわよ。第一パスポートもないし着替えだってないし」
碧華は今日何度目かの驚きの声を上げた。
「あら大丈夫ですわ。栞ちゃんに碧ちゃんとテマソンの分は持ってきてもらいましたから」
驚いているのはテマソンも同様な様子だった。シャリーは笑顔で知っていたような顔だった。
「私は持ってるわ、だからフランス帰りで直でディオレス・ルイに寄ったもの」
「シャリーあなた大丈夫なの?疲れてるでしょ、家に帰りたいわよね。私は帰りたい!」
「あらそんなことを言っては皆様がかわいそうですわよ」
カリーナがそういうと、車の後ろを指さして言った。
「後ろ?」
碧華は後部座席の後ろをのぞき込んだ。すると見知った車がついてきていた。
「あれ家のファミリー車じゃない」
「そうですわ、ファミリーの皆様をわたくしのニューヨークの別邸にご招待しましたのよ」
「ええ~、もしかして、孫たちもいるの?」
「ええ、皆さまですわ。大勢のほうが楽しいでしょ」
「でも、孫たちは普段忙しいって言ってるのに・・・もしかしてかなり前からみんなに話していたんじゃないの、この後の旅行のこと」
「あらなんのことかしら?」
カリーナを睨みながらいう碧華にカリーナは素知らぬ顔で
とぼけていた。
「はあ…まあいいけど、でもさすがにライフやエンリーは来てないでしょ」
碧華がそういうと、シャリーがスマホをスピーカーモードにして碧華に差し出した。
「ちょっと碧ちゃん、俺達を置いてきぼりにして豪遊しようとしてもそうはいかないよ、ディオレス・ルイは明日から三日間は休業にしたんだ。みんな土日から休みなしで働き通しだったしね。エンリーはどうか知らないけどね」
そういうと今度はエンリーの声が聞こえてきた。
「碧華ママ、僕は大丈夫ですよ、社長といえども、休暇も必要ですからね、ここ数か月休暇をとっていませんでしたし、パソコンと携帯があれば仕事はどこでもリモートでできますから、お供いたしますよ」
「あら…素敵な義理の息子たちを持って私は幸せ者ね。でもね~私は家で睡眠をねしたいのよね。もちろん家族旅行はうれしいわよ。ええもちろん、だけどね~私の意見も聞いてほしかったわ。あなたに言っても仕方ないと思うけど」
「すみません、僕の力不足です」
「ママ、エンリーを攻めないであげてね。だって私たちも行きたかったんだもの。家族みんなで旅行なんて初めてでしょ。こんなチャンス逃しちゃだめなんだよ。ママよく言うでしょ。チャンスはめったにこないんだからきたら多少無理してでも逃しちゃだめだって、今がその時なのよ」
栞の声に碧華はウトウトしながらはいはいと返事を返した。碧華はやがて睡魔に負けて寝てしまった。スヤスヤ眠る碧華を乗せて碧華の大切な宝物であるファミリー達を乗せた飛行機はアトラス島を離れ一路ニューヨークへと飛び立っていった。
朝、碧華が目を覚ますと、そこはまぶしい光のニューヨークだった。




