驚きの報告①
「はあ~なんだかすごく疲れたわね・・・」
碧華はディオレス・ルイの編集室の自分の椅子に座りながら大きく伸びをしながら言った。
碧華は早朝、日本行きの飛行機の手配が済んだ彩奈とシャランを見送った後、
そのままディオレス・ルイ社に来ていた。
日曜日のサイン会でサインできなかった残りのファンの為のサインをするためだった。
碧華は本にサインを済ませ、肩をまわしながら窓から見えるいつものビル群を眺めながら呟いていた。
「碧ちゃん、お疲れ様」
碧華が振り向くとそこにはシャリーが立っていた。
「あれ、シャリー、いつフランスから戻ったの?」
碧華はシャリーを受けとめながらたずねた。
「たった今よ、聞いたわ大変だったみたいね。お疲れ様」
「そうなのよ、ざっと一歳ぐらい歳をとっちゃったんじゃないかしら」
「またまた、碧ちゃんはまだまだ若いわよ。これお土産のケーキよ。と言ってのいつもの店で買ってきただけなんだけど」
「わあ~ありがとう。甘いものが食べたかったのよね」
碧華は目の前に置かれたケーキの入った箱を開けながら嬉しそうに言った。
「ねえ、シャリーはこの後まだ仕事するの?」
「いいえ、時間あったら家に戻ろうかと思っているんだけど」
「じゃあ、私ものせて、今日はもう寝ようと思って」
「あらでも・・・」
シャリーはそう言いかけた時、編集室の扉の前に見知った人物が姿を見せた。
「あら碧ちゃん、何をおっしゃっているのかしら、今夜の主役が家に帰ってお昼寝なんて許されるわけありませんでしょ。この日の為にわたくしどれほどの労力とお金を使ったと思ってらっしゃるの?」
その声に驚いて顔を上げると、そこにはカリーナとソフィアの二人が立っていた。
「ええ~カリーナとソフィアじゃないどうしてここにいるの? 何、主役って何のこと? あっそれはそうと飛行機ありがとうね。助かったわ」
「あらいいんですのよ、アトラス行きの便が全て満席になった原因の一端はわたくしにも責任がありますもの」
「あらどういう事?」
首を傾げている碧華に対してカリーナは不適な笑みを浮かべた。
「あらだって、新作制作披露見学つきパーティ―を提案したのはわたくしなんですもの」
「新作制作披露見学パーティー?」
碧華が首を傾げながら聞き返した。
すると、カリーナが
「ほらわたくしよく新作制作にお手伝いさせていただきますでしょ。ファンクラブのお友達が一度でいいから生で見てみたいってずっと言われていたんですのよ。でもわたくしにはそんな権力ないでしょ。それでライフ社長に交渉してみたんですの。そしたら次回見学させてもらえることになったのでファンクラブの常連メンバーだけで、お邪魔しないように数分だけ見学させて頂いてその後お食事会でもという流れを企画していましたの。そのことを仲間内でつぶやきましたら、どこでもれたのか世界中のファンの皆様も参加したいというお声が殺到してしまって取集が付かなくなってしまったんですの。さすがに10人程度を予定しておりましたのに、世界中となると無理でしょ」
「そうよね、そんなに見学に来られたら浮かぶものも浮かんでこないわ」
碧華は想像しながら身震いした。
「ええ、わたくしもそのことは承知しておりますわ。それで何かいい案がないか悩んでおりましたら、以前から予定していたドームでのアイドルのコンサートが急遽中止になった日があることを聞きまして、日程があまりなかったんですけれど、代わりに半額でドーム使用許可がとれたんですの。ライフ社長も許可を出してくださったので密かに計画しておりましたのよ」
「まったく、ライフったら最近何かコソコソしているとは思っていたけれどこれだったのね。でもカリーナそれ私に秘密にする意味ある?あれよね、もしかしなくてもドームで詩集を考えろってことでしょ?」
碧華があきれていった。
「あらよくわかっていらっしゃるわね。いえば碧ちゃん絶対嫌だっておっしゃるでしょ」
「・・・そうね、よくわかってるじゃないカリーナ」
「ふふ、何年の付き合いだと思っておりますの」
「それでその親友に今日まで言わずに今言ったってわけ?」
カリーナを睨みつけている碧華にソフィアが割って入って付け足した。
「碧華様、カリーナをお責めにならないでくださいな。わたくしたちファンの長年の夢なんですもの。最初は100名程度の予定だったのですよ。プレミア価格でかなり高額に設定いたしましたから、ですが・・・世界中に散らばっている碧華様のファンをわたくしたち侮っていましたわ。ほんの数日で希望者が殺到してしまって7万人がはいるドームですのに既に満員になるほどの希望者が殺到してしまったんですの。既にチケットが完売してしまいましたのよ。一般の方向けのサイン会のトラブルも何とか解決されたようでホッといたしましたわ。今夜が中止にでもなったらどうしようかとヒヤヒヤものでしたわ」
「そうですわ。何分企画から発表まで時間があまりありませんでしたもの。碧ちゃんに内緒にするの大変でしたのよ。栞ちゃんや優ちゃんにも口止めして頂いておりましたのでなんとか今日までこぎつけたのですの」
「はあ…まったく、あの子たちもグルだったのね」
よもや諦めモードの碧華がため息にケーキを口に運び始めていると、テマソンが入ってきた。
テマソンはカリーナの姿を見ると
「あらカリーナじゃない、今回はいろいろ口添え感謝するわ、いつかこの埋め合わせはするから」
「あら大丈夫ですわよテマソン、今夜埋め合わせしていただきますから。わたくしは目的遂行のためには手段を選ばない女ですわよ、すべては今夜の成功の為ですわ、あんな些細なことたいしたことではありませんわ」
「ねえねえテマソン、あなたもカリーナに何か頼んだの?」
「ええ、彩奈ちゃんの日本に強制送還の件もそうだけど、シャランちゃんも一緒に日本に行けるように警察に口添えしてもらったのよ、それでなきゃ、昨日今日で未成年者でしかも親が二人とも逮捕されている状況で出国なんかできるわけないじゃない」
「そうよね、スムーズ過ぎるなって思っていたのよね。なんだ、カリーナのおかげかぁ~何から何までありがとう。大きな借りができたわね」
碧華がのんきに言っているのをカリーナは不適な笑みを浮かべながら笑顔で言った。
「あらよろしくてよ、わたくしはただでは動きませんわ。お二人にはこれから体で支払っていただきますもの。ねっソフィア」
「ええ、碧華様、テマソン様、ライフ様の了承は得ておりますので、一緒にきていただけないでしょうか、今から準備いたしませんと間に合いませんから」
その言葉の真意を聞いていた碧華が更に青い顔になったがテマソンはわけがわからないと言った様子で首を傾けた。
「間に合わないってなんのこと?」




