再会
その日の夕方、彩奈は無事病院を退院することができた。かなり痩せてはいたが、体のあざ以外は異常がないことがわかったからだ。
彩奈は碧華から母親とその夫であるランドンが逮捕されたことを聞かされた後、シャランの安否を気にして真っ先にシャランがいる場所に行きたがった。シャランはお昼に逮捕された後、警察署に連れて保護されていた。
彩奈の姿をみたシャランが泣きながら駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
シャランは必死で彩奈にしがみついた。無理もない10歳の少女の目の前で父親と母親が逮捕されたのである。
「シャラン、怖かったよね、一人にさせてごめんね」
彩奈がいうと首を横にふって答えた。
「私をかばってお姉ちゃん入院していたんだもん。私のほうこそごめんなさい。私がわがままいってサイン会に連れてきてもらったから」
「何いってるのシャラン、あのね、シャランがサイン会のチケットをあててくれたおかげで私、日本に帰れることになったの」
「えっ?お姉ちゃん日本に帰っちゃうの?やっぱり私のせい?」
その言葉を聞いて益々泣き出したシャランをなだめながら
「ごめんね、シャラン、シャランのせいじゃないよ。でもお姉ちゃんね、アトラスシ人じゃないから本当はこの国にいちゃいけなかったの。だから日本に帰らないといけないの」
「やだやだ、私を一人にしないで!私も行く、お姉ちゃんといく!」
彩奈にしがみついて離れようとしないシャランに彩奈は続けた。
「でもね、ここにいればシャランは今まで通りにお友達と同じ学校にも行けるんだよ。お父さんのお爺ちゃんとおばあちゃんが家に来てシャランのお世話してくれるんだって、お父さんは無理だけど、お母さんは何年かしたらすぐに帰ってくるから、そしたらまたお母さんと住めるよ、それまでの辛抱だよ」
「やだ!お姉ちゃんがいい、お姉ちゃん私も日本に連れて行って、お友達もいらない、何もいらないから」
彩奈は困ってしまった。すると後ろで見ていた碧華が横のテマソンに合図した。テマソンが警察関係者と話をしに行っている間、碧華はしゃがみこんでシャランに言った。
「シャランちゃん、あなたの宝物は何?」
碧華の質問にシャランは即答で答えた。
「お姉ちゃん」
「そう、素敵な宝を持っているのね」
「あとね、AOKA先生にもらったこのサイン入りの詩集と、スマホに入っている写真とパスポート」
そういうと自分の背中に背負っている可愛いウサギのリュックサックを降ろすと中から新作の詩集とスマホとパスポートを取り出した。
その言葉にさすがの碧華も驚いていた。
「すごいわねシャランちゃん、これ自分で持ってきたの?」
「うん、お姉ちゃんがいつも言ってたの、どんな時も家を出る時は宝物を持って出なさいって、今までは、スマホだけだったから学校に行くときも持って行ってたんだけど、ママとパパが昨日夜中にパスポートがどうのこうのって話しているのを聞いたの、だから朝になって、警察の人が来た時に机の上に置いてあった私のパスポートも持ってきたの、パスポートって大切なんでしょ」
「そうよ、すごいわ、これならすぐにでも日本にいけるわね。でもスマホはどうして?」
「だってお姉ちゃんからいつかかってきてもいいようにと思って、それにこの中には写真がたくさん写してあるもの」
「そっか思い出がたくさん詰まってあるんだね。賢いわねえ」
「でもね他にもAOKA先生の本も持ってきたかったんだけど、重くて持ってこれなかったの」
「そう・・・じゃあ全部取りに行こうか」
「えっそんなことできるの?」
碧華がいうとテマソンが戻ってきていて話はついているようだった。
二人に向かって笑顔で言った。
「話はついたわよ、飛行機内の彩奈ちゃんのお父様とも連絡が付いたわよ。お父様、シャランちゃんも一緒に日本へ連れて行ってくれるそうよ。警察の人もオッケイだしてくれたわ」
「本当?でも・・・」
シャランは言葉に詰まってしまった。そんなシャランに彩奈は優しく言った。
「シャラン、私のお父さんはすっごく優しいのよ、それにおばあちゃんも、きっとシャランの事も大切にしてくれるわ」
「私・・・お姉ちゃんと一緒にいられるなら、今まで何もしなかったけどお手伝いたくさんする」
「ありがとう、だけど、お勉強もしなきゃだめだよ。立派な大人になるには子どもの頃は勉強が大切なんだから」
「うん!お姉ちゃんも一緒に勉強しよう」
「そうね、私もシャランにすごいお姉ちゃんだって自慢してもらえるように頑張るわ。一緒に頑張ろうね」
「うん」
彩奈とシャランは笑顔で笑い合った。
それを見ていた碧華は二人に言った。
「辛いことは記憶の隅に鍵をかけて、これからたくさん幸せになってね。彩奈ちゃんの人生はこれからなんだから」
「シャランちゃんもたくさん勉強して、たくさん遊んで困っている人を助けてあげられる人になってね」
「あのAOKA先生、お姉ちゃんにあわせてくれてありがとう」
「どういたしまして、日本に行ってもまたAOKA・SKYの本見かけたら読んでね。これからも頑張って作るから」
「はい」
彩奈とシャランは大きく返事をした。そして、シャランは碧華とテマソンと大好きなお姉ちゃんの四人で写真を撮ってもらえないか可愛く頼んだ。
もちろん二人は快諾し、シャランの宝物がまた一つ増えたのだった。
その後、家に行き、シャランの荷物を全て荷造りすると、碧華が責任をもって日本に送り届ける約束をした。
そして、夜、無事彩奈の父親を乗せたカミーラのプライベート飛行機は無事にアトラスに到着し、感動の再会を果たした。
その夜は碧華が予約した空港の近くのホテルに父親と彩奈とそしてシャランの三人で宿泊し、シャランはすぐに父親と打ち解け、結局、父親は投獄中の待代夫婦からシャランと養子縁組をすること承諾させ、手続きを済ませた。
普通なら何日もかかる手続きが異例の速さで行われ、翌日中には手続きは全て完了し、その翌日お昼には空港で二人の娘を連れた父親の姿があった。仲良く三人で手を繋いで歩く姿はずっと親子だったかのようだった。
三人は首を長くして待っている日本のおばあちゃんの元へと帰って行った。
その後、しばらく日本に滞在していた彩奈の父親はアメリカへ娘達をひきとる手続きの為一人アメリカに戻っていき、彩奈とシャランはしばらく日本で過ごした。そして季節は廻り夏、彩奈とシャランと祖母はアメリカへと家族で引っ越して行ったのだった。新しい家族と今度こそ幸せに生活する為に。




