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トラブル

電話が再び鳴り響いたのはお昼の12時過ぎだった。


〈申し訳ございません、こちらニューヨークをもうすぐ出発の予定になっていたのですが、出発直前に機体トラブルでいけなくなってしまいましたので、申しわけないのですが、今日中にはつくことができなくなってしまいました。他のキャンセル便を確認いたしましても、二・三日は満席ばかりが続いているようで、いつ行けるかめどが立たなくなってしまいまして、娘を母親からもうしばらく引き離していただけないでしょうか〉


「わたくしどもは構いませんよ。ですが、不思議ですね、アトラス行きが全て満席とは」


〈はい、こちらでも他の場所から行く便が手配できないか調べてみます〉


碧華は電話を切ってすぐスマホで調べてみても状況は同じようだった。アトラスに到着する飛行機はここ数日前からずっとどの便でも満席続きのようだった。多くの観光客が続々とこのアトラスに到着していたのだ。


「何か大きなイベントでもあるのかな」


この時、碧華は全く気付いていないのだったが、元をただせばこの現象は碧華が原因と言えなくはなかったのだ。だが碧華はまだこの目の前にいる彩奈の事で頭がいっぱいで全く気付いていなかった。碧華はニュースを見た後で、スマホに大量に流れてくるメッセージの確認をしていた。


「彩奈ちゃん、お父様とは今日は会えないかもしれないけど安心して、病院は明日が退院予定だけどお父様がくるまで、家に来るといいわ」


「えっ、そんなご迷惑はおかけできませんので、空港で待ちますので」


「何言ってるの、若い20歳の女の子をそんな危険なことさせられないわ。でもそうね、家はうるさいかも知れないわね。どこかホテルか、そうだわ。ディオレス・ルイの最上階の部屋でもいいわね。あそこなら警備は万全だし、ライフをしばらく宿泊禁止にすれば安心ね」


碧華はそうブツブツ言いながら大量に流れてきているスマホのメッセージを確認していると、動きが止まった。


「なんですって」


碧華は画面にくぎ付けになった。そこに書き込まれていた碧華宛のメッセージにはこう書かれていた。


(碧ちゃん、久しぶりに会えるの楽しみにしてるわよ。今日ニューヨークからアトラスに戻るわ)


それはカリーナからだった。もちろん戻るとはプライベート飛行機のことである。


碧華はすぐにカリーナに電話をした。


「カリーナ、今どこにいるの?」

〈あら碧ちゃん久しぶりね、ニュース見たわ大丈夫なの?〉


「私は大丈夫よ、それより今どこにいるの?」


〈どこってニューヨークのジョンFケネディ空港よ、九時に飛び立つ予定よ〉


「九時ですって、ねえ、私のお願い聞いてもらえないかしら?」


〈あら碧ちゃんからお願いされるのなんて久しぶりね、いいわよ、私にできることならね〉


「一人重要人物を乗せてもらいたいのよ」


〈乗せるってどこにいるの?〉


「同じ空港よ、私今、彼の到着を待っているんだけど、アトラス行きの飛行機の客席がどの便も満席でしばらく乗れないみたいなのよ。キャンセルが出て乗れそうだったのに、機体トラブルで来れなくなって困ってるみたいなのよ」


〈あら、碧ちゃんが待つ人物ってどんな方かしら〉


「説明はまたゆっくりするわ、怪しい人じゃないから、日本人なんだけど、私の横にいる娘さんに会いにくることになっているのよ」


〈わかったわ、後で事情は聞くとして、緊急を要するのなら同乗させてもよくてよ、時間がないからその相手と直接話せるかしら〉


「今かけ直してみるわ」


碧華はカリーナの電話をいったん切ると、彩奈の父親の携帯番号にかけなおし、カリーナという人物が今からアトラス行きのプライベート飛行機に乗せてくれることを説明した。彩奈の父親は驚きながらもプライベート飛行機のターミナルに移動することになった。


それから数十分後、無事に一路アトラスへと向かうことができたのだ。

隣で聞いていた彩奈は碧華を見て心底驚いている様子だった。


「碧華先生は神様ですか?」


「えっまさか、神様はあなたの後ろにもちゃんとついてくださっているわよ。私はただのおばさんよ、もう立派なおばあさんなんだけどね」


そう言ってウインクしてみせる碧華につられて彩奈もほほ笑んだ。


(もうすぐ、もうすぐお父さんと会える。夢じゃないかな・・・夢だったらどうしよう・・・)

彩奈がそう思っていると碧華が言った。


「夢じゃないわよ、あなたは妹さんをその身を挺してかばった。神様からのご褒美よ」

「えっだって妹はまだ小さいし、私の宝物だもの」


碧華はそう言った彩奈をそっと抱きしめながら頭を撫でた。


「あなたも大切な存在なのよ、怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」


「とっとんでもありません。おばあちゃんやお父さんを探してくださって、私・・・こんな日がくるなんて思いもしませんでした。お礼を言わなければいけないのは私の方です」


「私は何もしていないわ。あなたが今まで頑張って生きてきた幸せ貯金が貯まったのよきっと」

「幸せ貯金・・・」


「そうよ、人がね一生懸命生きて、誰かを慈しみ大切に思う優しい心を持ち続けると溜まっていく貯金よ、満タンになったら、幸運が一気に押し寄せてくるのよ。今がその時よ。よく頑張ったわね」


碧華の言葉に彩奈の瞳からは涙がとめどなく流れてきた。







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