本当の家族②
電話の相手は碧華からだった。
「はい、あっ碧華先生、どうかしたんですか?」
〈あのね、彩奈ちゃんが今意識が戻ったのよ〉
「そうですか、あの今、話せたりできますか?今目の前に彩奈ちゃんのお婆さんがいるんですけど」
〈えっ、もう探し当ててくれたの?すごい速さね。待って起こしてみるわ〉
そういうなり電話は途切れたが彩奈を起こしている声が聞こえてきた。
〈音也君、テレビ電話につなげる?〉
「大丈夫ですよ」
そういうと同時に碧華の画像が音也の携帯に映し出された。
〈今彩奈ちゃんに代わるわね〉
「あの今彩奈ちゃんの意識が戻ったようなので、この携帯の画面を見てもらえますか」
音也はそういうと、自分のスマホを老婆の顔に近づけ、音量を最大に上げた。
画面には若い女の子が映し出されていた。
「彩奈かい?」
〈おばあちゃん、私彩奈だよ、ごめんなさい、ごめんなさい、黙ってママについて行っちゃって、私あれからずっと後悔してたんだ。ごめんなさい〉
彩奈は突然目の前のスマホに写っている懐かしい祖母の顔を見た瞬間涙がとめどなく流れて止まらなかった。泣き崩れながら謝る彩奈に祖母も涙を流していた。
「お前が謝ることないよ、悪いのは待代さんなんだから、元気にしていたかい?ずいぶん痩せているようじゃないか」
〈うん、大丈夫だよ、おばあちゃんは?お父さんは元気?〉
「ああ元気だよ、お前の父さんは今アメリカだよ」
〈そうなんだ。私もう一度だけでもいいからおばあちゃんに会って謝りたかったんだ、神様が願いをかなえてくれたみたい、もう思い残すことない〉
「何言ってんだい彩奈今幸せにやっているのかい?辛かったら戻っておいで。ずっと待ってるからさ。お前さん一人ぐらい私が食べさせてあげるからさ」
〈帰りたい、私も帰りたいよおばあちゃん、だけどパスポートがないの、お金もないし・・・帰れないの〉
「お金なら私が送ってやるよ」
そのまま泣き崩れてしまった彩奈に代わって碧華が姿を見せた。
〈彩奈さんのおばあ様ですか?〉
「はいそうですが・・・あなたは確か・・・」
〈はい以前サイン会でお会いいたしましたわね。彩奈さん今日私のサイン会にきてくださったんです。それでトラブルに巻き込まれてしまって今病院なのですが、ご安心ください、意識が戻ったいま、もう大丈夫ですから、それで彩奈さんとはまだ何も話しができていないのですが、どうやら彩奈さんは10年前に一か月間の観光でアトラスに入国しているらしく既に10年が過ぎていますので不法滞在と言う扱いになりまして、強制送還となる可能性があるのですが、身元保証人の方がこちらにお迎えにきてくださるとかできないかと思いまして、お母様とのこともございますし〉
そういうと、彩奈の祖母は
「ああやっぱり、あなた様は幸運の女神様だったんだね。昔あの子が夢中になっていたあなた様の詩集を私も買って持ってるんだけど、あなた様の本を読むたびに彩奈のことを思いだしてね。もし彩奈が戻ってきたとしたら、ここだから、誰もいなかったら悲しむだろうと思ってね。頑張っていきながらえなきゃっていつも励まされていたんですよ。長生きしてよかったですよ。今すぐに息子に電話してそちらに行けるか確認しますのでそれまでどうか、あの子をあの悪魔から守ってくださいませ」
〈わかりましたわ、お任せくださいませ。いいお返事お待ちしておりますわ〉
そう言って碧華からの電話は途切れた。音也は早速、彩奈の祖母の家に一緒にむかい、アメリカのニューヨークにいるという息子に国際電話をかけた。彩奈の父親はすぐにアトラスに向かうと連絡が入ったが、飛行機の予約が取れずキャンセル待ちがとれたのはニューヨーク時間の朝八時の便だということだった。
止まってしまっていた彩奈の運命の時間が動きだした瞬間だった。




