本当の家族①
写楽音也は今だ独身を謳歌中だった。大学を卒業後、司法試験に合格し弁護士となり今では仕事の拠点を東京に移しており、仕事がら日本中を依頼主の為に全国を飛び回っていた。
最近はめったに京都には戻ってきていないのだが、昨日から三日間仕事が空白になり、フラフラと前触れなしに実家に戻ってきて何をするでもない一日目を過ごした翌朝だった。
碧華先生はいまだに現役バリバリの売れっ子作家だった。小説も絵本も詩集も出す本全てものすごい人気だった。もちろん日本でもしかりでよく売れていた。そんな碧華先生なのだが、もう二十年もの付き合いだ。母さんとも仲がいいみたいで良くアトラスに遊びに行っているようだった。
そんな尊敬する碧華先生からの突然の依頼だった。これはぜひとも成功させねば、自然と気合いが入った。
「よし、まず、この写真の神社に行ってみるか」
「ここは確か穴場スポットだったんだよな。願いが叶う石があったような」
音也は古い石畳の階段をのぼりながら懐かしそうに歩いた。神社についたのが朝の七時になろうかという時間帯だけにさすがに人はいないだろうと思っていたのだが、案外年配の人達が朝の参拝に来ていて驚いた。
音也は早朝の木々に囲まれた階段を軽く会釈しながら階段を上りきると、神社の境内をほうきで履いている宮司を見かけた。音也は軽く会釈すると声をかけて見た。
「すみません。わたくし弁護士をしている者なのですが少しお話しをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「おや、おはようございます。弁護士さんが何か御用でしょうか?」
「あのこの写真なのですが、ここに写っている方をご存知ないでしょうか?確かこの神社だと思うのですが」
そう言ってスマホを取り出すと碧華から転送されてきた写真の画像を見せた。
すると予想外の答えが返ってきた。
「ああ、東条さんですな、知っていますよ。その下の家ですよ。今は息子さんが海外勤務しているとかで今はおばあちゃん一人で住んでますよ」
「えっそうですか、ありがとうございます」
音也がお礼を言って帰ろうとした時、宮司が再び声をかけてきた。
「あっでも確か、昨日から、妹さんの家に行くって言ってましたよ」
「そうなんですか、その妹さんの住所とかわかりませんか」
「ああ、家内ならわかると思いますが、どんな御用でしょうか?」
「実はここに写っている女の子の知り合いの方からの依頼を受けましてね、彼女は今海外に住んでいるのですが、日本の親戚の方を探して欲しいと頼まれましてね」
「ああ、その子は彩奈ちゃんだね。元気にしているんですか?確か離婚した母親について行ったって聞いてたんですけどね」
「はい」
「そうですか彩奈ちゃんの依頼ですか・・・わかりました。ちょっと待ってくださいね」
宮司はそういうと、はきかけのほうきを持ったまま階段の下へ降りて行ってしまった。そしてしばらくして、慌てた様子で駆けあがってきた。
「すみません、弁護士さん。お待たせいたしました。実は家内が電話したところ、すぐこっちに戻ってくるって知らせが入ったんですよ。30分ぐらいだそうですから下でお茶でも飲んでお待ちいただけませんか?」
「早朝からお邪魔でしょうから15分ぐらいでしたら下に止めている車の中で待っていますので、声をかけていただけると助かりますが」
「わかりました」
宮司はそういうと再び下に駆け下りて行った。音也もゆっくり下におりて車の中にはいり、碧華に電話を入れてることにした。
「もしもし、碧ちゃん」
〈あっ音也君早いわね〉
「そりゃあ、碧華先生のお願いですからね朝食抜きできましたよ」
〈あら悪いわね、でっどうだった?〉
「はい、お婆さんの方はまだ健在で神社のすぐ近くに住んでいるみたいですよ。今日は妹さんの家にいたみたいで30分後に会うことになったんですが、すぐ見つかりましたよ。写真を見せたら先生が言っていた彩奈という名前がでてきたので間違いないと思いますよ。ただ、どうやら父親は海外出張中だそうで日本にはいないみたいですよ」
〈そう、後は彩奈ちゃんの意識が戻るといいんだけど〉
「ところで、彩奈ちゃんが探しているっていえばいいんですか?」
〈あっ実はまだ何も聞いてないのよね〉
「なんだって、どうするんですか?僕はなんていえばいいんですか?」
〈まさかこんなに早くわかると思わないじゃない。ははは〉
「笑い事じゃないですよ。どう説明すればいいんですか!」
〈実はね、今日はサイン会会場で乱入さわぎがあってね、彩奈ちゃんが巻き込まれたのよ、一応母親には連絡したんだけど、これまた最低な母親でね、だから、彼女が持っていたお守りの中に入っている写真から本当のお父さんに連絡してみようかなって思っただけなのよ〉
「そうですか、一応簡単に彼女の状況を説明してみますよ」
音也は電話を切って、いったん車を降り、側に会った自動販売機からコーヒーを買って飲むことにした。四十分ぐらい待っただろうか、車をノックする音がして、外に出ると、そこには年を取った白髪の小柄なお婆さん二人と先ほどの宮司さんが立っていた。
「お待たせして申し訳ありません。あの・・・彩奈が彩奈が私を探してるって聞いたんですけど、本当なんでしょうか?」
震える声で言う老婆に音也は先ほど見せたスマホの画像とは別にお守りと写真が写っている画像を見せた。
「実は依頼人の方は彩奈さとは別の人物でして、この写真をご存知ですか?」
スマホ画像をのぞき込んだ老婆が即座に答えた。
「このお守りは確かに私が作って彩奈に渡したものですお守りの中に私がこの写真をいれたんですよ」
「そうですか、実はこれをお持ちの女性が今、アトラス国にいるのですが、ある事故に巻き込まれて意識不明の状態なんです。それで所持品だった写真からこちらの神社に行きつきましてお呼びしてもらった次第なんです」
「意識不明って大丈夫なんですか?」
「申し訳わけありません、わたくしも詳しい詳細はまだわからないのでお答えしかねるのですが、あの、もし可能でしたら彩奈さんのお父様と連絡はつきますでしょうか?」
「はい、家に戻れば息子の携帯番号を控えてありますから、わかると思います」
そう言って老婆は家に戻ろうとした時、音也の携帯がなった。




