眠りの中のささやき声③
彩奈は夢を見ていた。いつものように母親に屑屑と呼ばれて体中を殴られている夢だった。なのに突然女神様が現れて、自分を易しく抱きしめてくれたのだ。
「私・・・」
〈彩奈、もう大丈夫よ、あなたは今まで十分頑張ってきたわ。今はゆっくり眠りなさい〉
目の前の女神様は優しく微笑み返してくれる。まるで自分を愛してくれる家族のぬくもりのように、昔、おばあちゃんが自分を彩奈、彩奈と言って優しく抱きしめて頭を撫でてくれた時のように
ふと彩奈は目を開くと真っ白い天井が目に飛び込んできた。
「ここは?」
彩奈がうつろな目でいうと、碧華が駆け寄り優しく声をかけた。
「あら気が付いた?ここは病院よ」
「えっ?私、あっシャランは?あの子は大丈夫なんでしょうか」
「ええ、あなたがかばったおかげでなんともないわ。さわぎになってすぐに美容院にいるお母さんのところへ行って、家に帰って行ったわ。あなたも連れて帰ろうとしたんだけど、血を流していたし、意識がなかったから病院に運ばれたのよ。本当にごめんなさいね、警備が万全じゃなくて、あなたに怪我をさせてしまって申し訳ないわ」
碧華が頭をさげた所で意識がはっきりして彩奈は起き上がり首を振った。
「あっあのAOKA先生ですよね、どうして・・・あっ私帰らなきゃ、すみません、私お金ないんです。あのここの支払いはなんでもしますからお金貸していただけませんか?」
「あら、心配いらないわ。あなたは被害者なのよ、ここの支払いは我が社でさせていただくわ。ご家族も夕食も済ませてあるからあなたは心配せずにもう少し眠りなさい、体が悲鳴を上げているのよ、ここは完全看護の病院で、面会謝絶にしてあるから、ゆっくり休みなさい」
テマソンが優しくいうと、驚いた顔でポツリと言った。
「ありがとうございます」
彩奈はそういうと素直に眠りについた。というより再び意識を無くしたという方が正しかった。
「よほど、疲れていたようね」
「そうね、何とかしてあげたいわね。未来あるこの子の為にもね」
(これでよかったのかしら?)
三人を見下ろすかのように天井付近にたたずむ影があった。
(ええ、ありがとうお姉様)
(まったく、あまり人の人生に干渉しすぎはよくないのよ)
(お言葉を返すようですけれど、この子がここに来なければいけなくなったのは、お姉様がこの子の父親をアメリカ転勤にしちゃったからなんですからね)
(だって仕方ないじゃない、彼以外で穴埋めできる人材がいなかったんだから)
(だったらその家族のその後もきちんとみていて下さらないと)
(だからこうして、修正してあげたんじゃない。後は碧華が何とかするわよ)
(まったくまた碧華さんに任せきりで放置なの?)
(仕方ないでしょ、わたくしは忙しいんですからね)
そういうとマテイリアは消えてしまった。シューラは眠っている彩奈の側に降りて行くと、耳元に囁いた。
(あなたはもう十分頑張ったわ。後は幸せになるだけよ)
そうしてふっとまた姿を消したのだった。




