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母親失格

碧華が再び最上階に上がっていくと、何やら話声が部屋の中から聞こえてきた。


「ちょっと、あんたいいのかいこんなことをして」


「お前の実の娘を取り戻すのに悪いも何もないだろう、すぐにコイツを連れてどこかに移動しないとやばいんだって、仲間から近々麻薬捜査が入るかも知れねえって情報が来たんだよ。ちょうど10万マルドルが手に入ったことだしな、ほとぼりが冷めるまでどこかに隠れるんだよ。今警察のごたごたはやばいんだよ」


「そうだけど、、この子ほって置いたら駄目なのかい?連れて行ったらその分の食い扶持だっているし」


「馬鹿野郎。コイツが意識を取り戻してある事ないことしゃべってみろ、コイツの不法滞在や虐待だのと因縁つけられてちまったら、俺の商売にも影響がでるだろうが!俺の親の連絡先だって知ってるんだからよ」


「わかったよ、まったく、赤ん坊のせわをさせるのにちょうどいいと思って連れてきたけど、とんだ足手まといだね」


そう言って母親らしき人物は床に唾を吐き捨てると、眠ったままの彩奈の布団をはぎ取ると、彩奈の頬を手の平ではたき始めた。


「彩奈!彩奈起きな!いつまで寝てんだいこの屑!」


何度も容赦なく頬をはたき続けるのを扉のすき間から見ていた碧華が扉の目の前にある非常ボタンを押して扉を大きく押し開いて怒鳴りつけた。


「あなたたち何やっているの!ここは病院なのよ!」


ものすごい大きな非常ベルの音に驚いた二人は慌てて碧華を突き飛ばすと、部屋から逃げて行ってしまった。


「あなたそれでも母親なの!」


逃げていく二人に廊下でしりもちをつきながら碧華が叫んだ。一瞬女性は振り向いたが何も言い返さず非常階段に消えて行ってしまった。


その後、警備員が駆けつけ、館内を厳しく見回ったが、どうやら、病院の外に逃げてしまったようだった。碧華は夜中に非常ベルを鳴らしたことを詫びた。幸いにも全フロアには非常ベルは鳴り響かなかったようでこの階とナース室と警備ルームに非常ベル装置が作動しただけだったようでさわぎはすぐに収まった。彩奈も何も異常は何く眠り続けたままだった。


碧華は警備の人に念の為非常階段付近とエレベーター付近の監視をお願いし、病室に入って行き寝息を立てている彩奈のはがされた布団を元にそっと戻し、床の唾もきれいに掃除をし、ベッドの横の椅子に腰かけて今聞いた内容と起こったことをテマソンと警察に連絡をいれておいた。するとテマソンが一時間後かけつけたきた。





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