黒猫とパイプオルガン
若葉は茂り、ふくろうはこんもりと茂る森の奥でほうほうと鳴いていた。そのような森の奥で
黒猫は住んでいた。黒猫は今日も木の香りが薫るテーブルで小説を読んでいるか音楽を聴いている。
机の上には栞とコップが置かれており栞にはギザギザ模様が貝の模様のように刻まれている。幻燈の
光が置かれているコップに反射してきらきらと光っている。そのような場所に座っている黒猫はさながら
猫のようだった。五月十一日、黒猫は珍しく学校に行った。この年代で学校に行っていないのは黒猫くらい
のものだったが黒猫には親はいない。だから登校義務もない黒猫は学校にいかない日があるのはざらだった。
ただ今日はなんとなく学校に行きたくなったのだ。焦げたトースターを齧り、黒猫はイリオモテヤマネコのように目をぎらつかせた。黒猫が教室につくと周りの同級生が奇異の目で黒猫を見た。黒猫は目立たないように
黒い服で登校してきたのだがどうやら逆効果だったらしい。周りの景色がマテリアルに見える黒猫は普通の人々がオブジェクトとして受け取る情報もマテリアルに分類し受け取ってしまう。周りの同級生は黒猫をまるで高級品の置物か何かのように見た。それだけ学校に来る日が珍しいというのが黒猫だったのだが黒猫は周りの視線など気にせずに悠然と構えている。一時限目のベルが鳴った。つかつかと足音がして先生が入ってきた。銀縁眼鏡をかけた先生はどこから見ても真面目そうに見えた。