始まり、或いは終わりへの一方通行【Ⅸ】
「酷え目に遭った……」
気付けばお花畑、空は黄昏と黄金の狭間。流れる雲も空の色を映して、なんとなく天国っぽい雰囲気を出している。しかしここは天国でも無ければ地獄でも無い。
「お疲れー」
「ムロイ、ここお前の私有空間だよな」
「そう。すごいでしょ、これだけのオブジェクトを配置できるって」
「リミッターオフも、こういうとこだといいよな……」
隣を見れば、完全に伸びているアキトがいる。結局、続々と湧き出て、斬って潰して穴だらけにして、きりのない増援に押し切られて、もう少し遅れたら死んでしまうタイミングでキリエに強制ムーヴさせられて助かった。
「なに見てんだ」
「アキトのスコア」
ミラーリングされて目の前に出されたウィンドウには、アキトが撃破した敵機の詳細が出されていた。その中でムロイが用意したウイルスはあの大型機だけで、後はどこで処理能力を割り振られたのかさえ不明なアンノウンだ。どの機体も製造元の署名すらないが、ライブラリに載っている特徴や使用されているプログラム類を照合して、どこで作られいつ頃廃棄されたのかは推定表示され、いずれもが現役を引退した機体だった。そしてなにより、ログに幽霊のようなものは映っていないし、空間処理の履歴にも不明な処理としてしか残っていない。
「シェルまで混じってたのか、これ軍用規格の……」
「生身で戦う相手じゃない。でもアキトは、シェル程度なら撃破してしまえる」
「ヴェセルでも、やれるのか」
「エンブレイスを装着したフル装備のランカー相手にも、生身で勝ったことはあるよ」
仮想空間での戦闘兵器、人が乗り込むタイプのシェル、人自体を一度分解し再構成するヴェセル、そしてそれらに取り付ける追加兵装のエンブレイス。いずれも仮想空間のあちこちで見られるが、戦闘用は戦場かアリーナくらいでしか見ない。それ以外では、目撃することは死ぬことだからだ。
「恐ろしいな」
そんな野郎が疲れ果てて伸びている、気絶しているわけではないが、電池切れ状態で充電中みたいなものだ。
「見事に伸びてるねー」
「レイア、おまっ」
何があった、そう聞く前にその姿で聞くのをやめた。額からは血の筋が垂れて、痣や裂傷に創傷まで。服もボロボロだ。
「さすが電子戦特化型電子体、危なかったよ」
言いながらアキトの傍に座り込むと、ウィッグに触れて、それが光の筋になって。アキトの首裏を指でなぞると、人工筋が動いて機械的な接続口を見せる。そこに光の筋を送り込む。
「私が用があるのはこいつのデータだけだから……終わり、じゃあね」
いきなり現れて、すぐにログアウトして姿を消す。最初から、コレが目的で近づいて来たのか?
「あいつ……」
「あの子は、かなり危ないから、気を付けて」
「危ないって言うのは」
「スコールの為なら何だってするし、彼になら記憶を消されても何されても嫌がらない。洗脳されてるわけでもないのに、彼に溺れすぎてる」
「……、そのスコールってやつは、要注意人物か」
管理者権限でプロフィールを出そうとしたら、アクセス拒否を受けた。いろんな方向から探りを入れてみるが、どれもこれもヒットしない。誰かが意図的に隠しているような、邪魔している感じだ。
「見れないよ。アキトを調べようとして邪魔されたみたいに、スコールはレイアが邪魔してくる」
「パートナーって言ってたが」
「分からない……調べても何も出てこないから」
「ま、とりあえずはこいつをどうにかするのが俺の任務だし、しばらくは頼るぞ」
「いいよ。アキトのためにも、手伝う」