始まり、或いは終わりへの一方通行【Ⅲ】
小銃を抱えて、イチゴは砂糖のように真っ白な砂漠を走っていた。あるのは恐怖。殺される、逃げなければ、狩られる。アイツはなんだ、人間だ、怖い、人間の皮を被った化け物か。風が強い、巻き上げられた砂が、肌をヤスリのように撫でる。呼吸を殺し、砂漠に潜む狩人は、スコープ越しにイチゴを眺め、五百メートルほど離れた場所から、撃った。
「うおっ!」
踏み出した足が、踏むはずだった場所が爆ぜた。飛び散る砂が肌に刺さるようだ、砂漠の狩人相手に一人で挑むのは、どうも自殺行為だったようだ。何人もの犠牲者が出ているから、殺害依頼まで出ているのに未だ返り討ち以外の結末が報告されていない。砂漠の狩人を見つけるよりも先に撃たれ、逃げようとしたときにはもう狩り場の中。アイツの射程から抜け出すには遠すぎる場所に誘い込まれている。
だが、一人で挑んでいるが、一人では無い。複数方面から多数のスクワッドで攻撃を仕掛けている。ただ、この方面はイチゴ一人、そういうことだ。犠牲前提の作戦、撃たせて、位置を確認して前衛が的にされる間に、スナイパーが撃つ。誰かが言った、撃って動かない狙撃手は的でしかない。姿を見せた狙撃手は的だ、と。
それで、何故隠れ場所を見せた砂漠の狩人は未だに的ではなく狩る側にいるのだろう。答えは簡単だ、今までの犠牲者から奪い取った大量の武器弾薬で、うかつに近づけないほどのトラップを敷設しているからだ。
赤いラインが頭の上を通り過ぎた。照準補助のレーザーポインター……ではない、コンマ数秒しか照射できないが、十分に人を焼ける光学兵器だ。砂漠では陽炎に邪魔されてタダでさえ狙いにくいのに、光が屈折して変な方向に飛んでいきそうなもので、現に今も外れた。運が良かったのか、それとも照準合わせの試射か。
『こちらアルファ隊、対面のスクワッドが全滅した、これより制圧射撃を開始。当方から見て左右方向に展開する部隊は精密射撃を叩き込め』
『リジルより各隊、砲兵隊を展開。面制圧を準備している、やれないようなら任せてくれ』
爆撃なんて確実な撃破が確認できなくなるから、なるべくならして欲しくない。くるっと身を翻しながら伏せる。あちらから狙えるなら、こちらからも射線は通る、撃てば当てられる。スコープを低倍率にして探す。白い砂の中に炎の白が一瞬見えた。高倍率にして探る、カムフラージュしているが、人の輪郭を見つけた。大した距離は無い、重力落下と熱による空気の上昇、風向き、そんなものを考えず、レティクルの中央に頭を合わせて撃った。着弾位置が分からない、狙いを固定したまま倍率を下げて数発。ズレを修正して倍率を上げる、頭が爆ぜた。しかし飛び散るのは赤色では無い。
「ダミーだ」
『オートタレットだ、自立稼働の銃座に人形つけてやがる』
『どこだ、やつはどこに――』
ぶつっと、通信が途絶した。レーダーマップ上から味方のシンボルマークが消失する。勝ち目が無い、通信に味方の慌てふためく声が溢れ、面制圧、爆撃がなされたが意味なんて無い。吹き飛んだのは人形とオートタレットだ、砂漠の狩人はどこにいる。見れば分かった、取り囲む味方のシンボルが円を消すように消失していく。
『リジル4! 無茶だ下がれ!』
『エンゲージ』
『なんだこいつ、こんな動き――!?』
唐突に、シンボルの消失が止まった。かと思えば一つのシンボルがムチャクチャな動きをし始めた。その方向に目をやれば、すぐ近く。青い迷彩柄、白き乙女所属と、臙脂色の装備、ラグナロク所属らしい兵士が銃撃を躱しながら砂漠の狩人に接近して、トリッキーな動きで撹乱する。正面から低い姿勢で突っ込み、唐突に真横に飛び狙いをつけられる前に懐に入り込む。アサルトライフルを蹴り上げ、すぐさま抜かれたナイフを踵落としで腕ごと無力化する。
このまま仕留めるか、だがそう甘くも無かった。自爆技だ、自分までも巻き込んでスタングレネードを炸裂させて、砂漠の狩人が逃げた。
『リジル4、大丈夫か』
『……耳が痛い、目が見えない』
『大丈夫そうだな』
普通なら聴力を失って視力も回復不可能になる、だが聞こえているのならたいしたことは無い。閉鎖空間でこそ真価を発揮するものを、こんなにも解放された場所で使ったところで、そこまでの障害は出ないだろう。
「おいあんた、立てるか、移動するぞ」
腕を引いても立ち上がれそうに無いラグナロクの兵士、小銃を背に回し、脇に手を通して引きずって行く。遮蔽物は砂の凹凸しか無いこの場所では、止まっていれば良い的だ。しかし、この判断、今このときに限っては間違いだ。敵が近くに居るところで助けるよりも、見捨てて逃げた方が自分の生存率が確保できる。
不意に足に力が入らなくなって、肩を叩かれたのか姿勢が崩れる。体が動かない、近くの砂が爆ぜる。撃たれたのか、理解したときには遅かった。意識が遠のいて、視界が暗い青を背景とした0と1の羅列に覆われる。
「いっつぅぅっ!」
体中が悲鳴を上げていた。肩の高さから膝まで、あちこちから激痛が走る。どこにも傷なんて見当たらないが、撃たれたのは事実で、痛みは実際にある。
「よお、ぼっちで攻めた割にはやるじゃねえか」
「すげえなアンタ、どっかのPMCの人なの」
「ちょっといい、今度時間あったら動き方教えて」
「悪いけど俺、これ終わったら約束あるんで」
痛みをこらえて処理ウィンドウを展開し、ゲームサーバーと仮想空間からのログアウトプロセスを起動する。意識がふっと浮かぶような感覚がして、ゴーグル型の端末を外すとそこには片付けの済んだ部屋がある。
「さ、すが……仮想でも、ありゃ死者が出るわけだ」
痛みが無い代わりに痺れている。都市エリアからログインした正規のゲームサーバーではあるが、限定的にフィードバック緩和が解除されている特殊なゲームだったから、命がけ気味の戦争ごっこになっている。たまたまレイジから誘われ、面白いやつがいるからやり合ってみろと。そんなこんなで、一対一での銃撃戦を予想してみれば一対多数の一方的な虐殺だった。仮想空間では身体能力や外見などを誤魔化すことは出来ない。仮想空間を管理するAIたちが、そして人の認識、観測がそれを許さない。ゲームサーバー内部では限定的に可能だったとしても、基本的に自信の身体能力で戦うような場所ではやはり不可能。だとすれば、アイツは現実でもあんな動きが出来てしまうということ。
砂漠の狩人。名前の由来は、あのゲーム、ゲイルクロニクルの砂漠エリアでのやりすぎなPK。そして所持品のランダムドロップを奪ってRMTして稼ぐという行為から来ている。動きやエイム練習で現役の兵士や、傭兵たちが利用することもあるかなり猛者が集う場所で、そんな彼らを獲物として狩る。砂漠の狩人は性別すら不明で、とある噂では仮想空間での猟奇殺人の犯人ではないのかとも言われている。
痺れが薄れてきて、起き上がると撃たれたときの恐怖が思い出される。現実ではないのだと、意識では理解していても撃たれて確かな痛みがある時点で、現実だと誤解してしまいそうだった。実際、なんの制限も無い仮想空間ならそのままフィードバックされてしまい、最悪死んでしまう。撃たれる事で感じる恐怖、その克服なんてものはしなくていい。生きるために必要な恐怖だから、それは失ってしまってはいけない。
ゴーグル型端末からスマホを外して見ると、通知が一件。不在着信だ。レイジから、用件は分かっている。
「やべっ」
すぐに行くと、ショートメッセージを送って、荷物を詰めたリュックを背に、長くは無いが、慣れ始めていた部屋に別れを告げる。見送りなんてない、別段親しい者がいるわけでも無かった。鍵や部隊章など返す物を管理人室のポストに入れて、出発した。と、それと同時に、見計らったかのように着信が来た。
「悪い、今出た」
『そ――ことはど―でもい―――い髪の女に気を付――スズナが――――襲ってく――任務だから、容赦が――』
ノイズまみれの通話は、唐突に、完全にノイズに包まれる。おかしい、なんで街中の回線でこんなにもノイズが混じる? レイジのスマホがそんな場所に、或いはジャミングを受けているのか。
「おーい、レイジー」
返事は無く、ノイズばかり。通話終了のコールすらも掻き消されているのか。それとも音声信号だけを狙った妨害か。誰が何の為に、こんなところでやる必要があるというのか。なんにせよ待ち合わせ場所に急いで向かう必要がある。居なければ、それはそれで先に如月寮に向かうだけだ。スマホにはダウンロードした内部向けの地図が入っている。兵長権限で閲覧可能な範囲だけだが、それでもそこそこの基地や寮の場所が分かる。
夕焼けに照らされ、これから気温が下がりそうだなぁと思いながら都心へと向かう。すれ違うのは仕事帰りのサラリーマンや傭兵、主婦や子供たちに武装した少年少女たちと様々だ。と、ふとその人混みの中に知った顔を見つけた。
「おっ、しばらくぶり」
声を掛けられた。素知らぬふりをして、俺に対して向けられた物じゃありません感を出しながら全力の早歩きで逃走する。
「なになにー急ぎの用事でもあんの」
「来るな! 関わると厄介なことになる!」
「んなーしつれーな。これでもBtD所属の電子戦闘員なのに」
明らかに一般人が出しちゃいけない画面を表示させたタブレット片手についてくる。BtD、聞いたことが無い。略称だろうか、だがそれでも心当たりが無い。
「……こないだ自販機ハックしたろ。そんなやつと関わりたくねえの俺は」
とかく、まずは犯罪者と一緒にいたという証拠を残したくない。監視カメラがあちこちにあるこんな街中ではなおさら、一緒に行動していたという証拠にされそうで怖い。
「あっそう、こんなのつくれんだけど、ネットに上げて良い?」
見せられたのはいつ撮られたのか、藪の中に缶を投げようとする写真。いや、撮られたのではない、作ったと言ったじゃ無いか。
「やめい! 無実の罪で前科つけられるとか嫌だからな」
「じゃ、ちょっと付き合って貰おうか」
トンッとタブレットをタップ。その瞬間、イチゴたちの居る区画の電力が遮断され、街が静まりかえる。数秒して非常電源に切り替わった一部の設備が再起動を始めるが、イチゴにとってはそんなのはどうでもよかった。
こいつは、危険だ。
それだけで十分だった。逃げない、背中を向けていい状況では無い。この至近距離、懐に入れた手は何を握っているのか。疑問は、その答えはすぐに。抜かれたのは黒い、ハンドガン。見たことが無いタイプだ、見た目で判別できる構造がおかしい。それが自分に、向けられる前に押し返す。トリガーが引かれた、音はハンドガンの物じゃ無い。明後日の方角に飛んでいった弾丸は、ビルの壁面を抉った。排出された薬莢が大きい。なんだろ、これは。
「いきなり何しやがる」
押し退けながら発射されたせいで、スライドの動きで手の平が切れた。ぬるりと、血が滴るが気にしている場合では無い。
「犯罪者が嫌なら、被害者でどうかなって」
「殺されるのはもっと嫌だがな」
周囲の視線が集まる。通報されればすぐに警備員が駆けつけるだろう。分かりやすい武器を使ってくるこいつは、魔法使いでは無い。電脳特化タイプならば、魔法には弱い。時間稼ぎが出来ればこちらの勝ちだ、周囲の目撃証言が証拠になる。後は不利にならないように立ち回りつつ、耐えれば良い。
「だったら、逃げな。殺すから、全力で生き延びてみなよ」
ドロリとハンドガンが溶ける。魔法使いだったか。
「何が目的だ」
「分断、かな」
咄嗟の回避行動。何かがひしゃげる音がした、振り返らずに逃げた。どこをどう走ったか、怖かった。殺されるのが、ではない。あの程度ならなんとかなる、怖いのは、下手を打って今の立場を失うことだ。気付けば、夜だった。記憶が飛んでいる? 必死だった間の、時間の感覚が間引かれたような、時間が短縮されてしまったような感じだ。
「逃げ、切った……はぁ、ぁぁぁ」
汗が落ちる。急に寒さを感じ始めて、体が震える。違和感があった。まるで、意識を乗っ取られて走らされたような。分断、いったい何と、誰と。レイジと、だろうか。分からないことは考えても仕方が無い、今は現状の把握と打開策を考えなければならない。
だが、すでに平穏への帰還は叶わない。
荒んだ呼吸が整って、顔を上げた。休憩は終わりだと、自分に告げる。さてどうしてやろうか、立ち上がって、何かを暗闇の中に蹴り飛ばした。近づいてよく見れば、女性物の靴だった。ぞわりと、嫌な予感がした。なんでそんな物がするのか、自分で自分をチェックする、これに無意識が反応しているからだ。見たはずなのに、忘れている、しかし記憶には残っていてそれがここにあるのはおかしいと言っているのだ。靴、これだろうが、いちいち他人のことを記憶していないのに、靴のことなんか真っ先に不要な情報として捨てられる、覚えているか、そんなもの。暗闇でも分かる、汚れ具合からしてここに放置されてからそんなに経っていない。
「……って、こんなことしてる場合じゃねえよ」
スマホを取り出してレイジに電話を掛ける。何を言われるだろうか、別に約束すっぽかしたくらいで何も言わないだろう。むしろ、そのまま如月寮の管理人にパスされて怒られるかも知れない。それでも、とにかく連絡は必要だ。
『生きてるな』
「何があったか知ってるのか」
『知り合いに頼んでお前を襲わせた』
「何のためにだ馬鹿野郎が! 死ぬかと思った」
素直に思ったことをぶつけてやったが、向こうは至って冷静だ。
『分断だ。マップ、あるよな。さきに寮に行ってろ、こっちまだ遅れそ――っと』
爆発音が聞こえた。銃撃か。
「レイジ、お前は大丈夫なのか」
『着信音で位置バレた、っつーか……不味いなこれ』
ぷつっと通話が切れた。見れば圏外だ、一瞬前までしっかりと繋がっていたのに、何故だ。疑問を生み出す思考は、暗闇の中から響いた轟音に中断させられた。どこの路地だ、位置情報すら遮断されているのか、スマホが頼りにならない。轟音から遠ざかるように、反対方向に静かに走る。巻き込まれて面倒なことになりたくない、そう思って、失敗した。
ジャリッと。
シャーベット状の何かを踏んで、警戒して足を止めた。周囲の温度がさっきまでよりも低い、まるで冷凍庫の中に放り込まれたかのように、吹き付ける風が痛い。また、轟音が響く。近づいている、更に進んでいく。壁に傷があった。杭か何かで突いたような、削るどころでは無い、ヒビまで走っている。カランッと、蹴り飛ばした。金色……いや、焼けた銅色に近い金属の筒、薬莢。
「こんなところで、銃撃戦?」
どこのやつらだ、こんなところで。後で大騒ぎになるんだろうなと思いつつ、暗がりの向こう側、開けたところに何かが転がっていた。近づいて、それが何かではなく誰かだと、二本の足、そこから先は、黒に塗りつぶされて――血に染まっていた。人の体には数リットルの血液が流れているが、それを致死量零せば血だまりが出来る。
「うっぐ――」
胃袋からせり上がった、酸っぱい味が口の中から溢れ出した。吐いた。これが見ず知らずのやつだったら、吐き気を覚える程度で、思考を戦闘モードに出来ただろう。だけど、知ってるやつだったから。
「クソッ、誰がこんなこと」
死んでいるようにしか見えないが、まだ間に合うかもと手を伸ばす。冷たかった、固かった。
「マジかよ」
凍った血だまりが、溶けながら広がって行く。これをやったやつは、考えはじめて、また轟音が響く。見れば、壁に穴が開いていた。貫通力の高い砲弾を撃ち込んだときの穴だ。撃たれて、ここで力尽きたのか。でも、だったらなぜ凍っている。
今解決すべき疑問ではないが、優先度は高い。答えを導き出そうとして、ガサリという物音に前を見て、後ろを見た。ここで死んでいる姿と瓜二つ、女が立っていた。
「あら、イチゴ君だったかしら。なんでここにいるの」
「す、スズナ……これ、は、どういう……?」
「私と同型、結構近いロットの子よ。致命傷だから、取りあえず凍らせて後で修復する予定なのよ」
「同型? ロット、って」
まるで作られたとでも言うようだが、クローン技術は世界的には普及していて、人への使用は表向き禁止されて、実際は能力的に、見た目的に秀でる者を複製している。まさか、それか?
「まだ六時かぁ。歓迎会があるのに、まったくこんな日に限って嫌な仕事よねえ」
腕時計を見ながら、呑気に言う。
「そんなこと言ってる場合じゃ、ないとおも、う」
「これが私の日常よー」
致命傷の女を黒い寝袋のようなものに押し込むと、肩に担いで、その瞬間に冷気が溢れ出した。芯まで、完全に凍らせたのだろう。冷却タイプの魔法使い、それにしてはそこらでみるような魔法ではない。
スズナが空いた手で胸元のマイクを喉に押し当てる。
「こっちは終わったわ。そっちは…………あら、そうなの、まあいいわ、撤収よ」
「これ、作戦行動なのか」
「そうよ、ついてらっしゃい。基地まで案内するわ」
一歩、踏み出しておかしかった。視線を落とす、血だまりが無い。そのまま壁を流し見る、穴が無い。前を見た、スズナが黒い寝袋のようなものを抱えていない。
「どうしたの」
イチゴは首を振って、後ろに下がった。轟音の代わりに足音が近づいてくる。流れてくる冷気が、闇を凍てつかせる。
「敵が来るわ」
伸ばされた手を躱して、蹴りを放つ。これは、違う。
「何するの」
腕で受け止められ、そこから靴が凍ってぽろぽろと崩れる。反射的に後ろに飛んで、警戒をもろに向ける。こいつは、スズナじゃ無い。いや、現実では無い。化かされている、どこで、あいつか。BtDとかいう所属の。
「失せなさい」
後ろから、スズナの声がして、目の前のスズナが凍り付いて、砕け散る。やけに暗かった路地に、青白い月明かりが差し込んで、クリアになる。
「俺は……幻術にかかったのか」
「違うわ、焦りすぎて自分の認識を狭めていただけよ。ここまでも現実、今からも現実、あなたは必死に逃げながら戦域に飛び込んできて、疲れて倒れて、後は分かるでしょ」
「なるほど……だったら今のは」
「廃棄予定の、その……」
「スズナのクローンか」
「いいえ、でも近いわ。情報統制があるから言えないけど、いまあなたが見たことも、本当は知られちゃいけないことだから、誰にも言っちゃダメよ」
「分かった」
「それでよし。聞き分けのいい子は長生きできるわ、それと……」
スマホを取り出して時間をチラリと。
「かなりギリなのよ」
「なにが」
「あなたの歓迎会が始まるまで」
「はっ?」