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終わりの始まり【Ⅶ】

「全機突っ込め!」

 セントラ軍を排除し寄ってくる桜都の防衛部隊を蹴散らして、生き残った三十機で大型機を狙う。すでにミサイルも機銃も撃ち尽くしてレーザーユニットも焼き切れ燃料も少ない。どうせ今から引き返したところで給油機の待機するグリッドには辿り着けやしない。ならば、少しでも削ってやろうと随伴機に最期の命令を飛ばす。失うものはない。この機体が砕け散ったところでAIであるアリスとその配下は本体であるデータをすでに退避させている。セントラ本土のコンピュータから中立エリアのAIの余剰処理能力を借りて〝唯一の弱点である実体〟を移行した今は恐れるものが無い。

「守りたかったけど、あんなもん自由にさせる訳にはいかない」

 向こうも常にブースターを吹かし続けるのは無理なようで、サブエンジンの推力偏向パドルが溶け落ちメインエンジンの推力偏向ノズルは溶ける寸前か、真っ白に輝いて白い炎の尾を引いている。

 大型機のくせに凄まじい機動力だったが、二枚の主翼と四枚の尾翼に加えてエンジンの推力偏向を持ってしての機動力。もはや万全の状態では無い上にあちらも兵装が尽きているのは同じ。そうなれば後は偏向シールドのみ。何でも弾くとはいえ莫大なエネルギーや膨大な質量をぶつけてやれば何とか出来なくは無い。それこそ、戦闘機の質量と速度で何十回も体当たりを連続して仕掛けてやればジェネレーターが焼ける。

 八機がアフターバーナーを吹かし前に出る。回避機動を予測して衝突コース上でエアブレーキを広げピッチアップ。音速を超えた速度域での衝突事故。立て続けに六機が砕け散って減速したところに上と横からさらに特攻。偏向シールドが揺らぎ、弱まった箇所を狙って加速。このまま道連れにしてやると思っていたところで邪魔が入った。

 ロックオンアラート、続いてミサイルアラート。桜色のカラーリングの邀撃機が向かって来る。桜都の機体だ。機体性能で比べると脅威では無いが、邪魔だ。

「こんなときにっ!」

 構ってやれるほど燃料にも時間にも余裕が無い。突っ込む前にミサイルに追いつかれる、仕方なく回避に移る。機体後方のカメラでミサイルを捉えデータベースと照合。レーダーとエンジンの熱反応、さらには画像識別でしつこく追いかけてくるタイプで、軽量素材に弾頭の炸薬を少なくして燃料を増やした高機動長距離追尾の嫌なやつ。

 人が乗っていないのをいいことに機体が壊れる寸前の機動で回避するが、追い越したミサイルが反転して再び飛んでくる。さらにそれと連携して逃げ道を塞ぐように機銃まで。

「だぁくそっ! こいつら」

 武装が無ければ体当たりすればいい、だが雑魚相手にそんなことはしたくない。その結果導き出したのは、結局ぶつけるしか無い。回避しつつ相手の進路上に飛び込んでフレアの射出ユニットを一つパージ。ほんの一瞬の間を置いて一気に発射。フレアの直撃を受けてさらにユニットに真正面から衝突。コックピットは潰れ高温のフレアが機体に穴を開ける。

「まず一機」

 味方が回避したミサイルの前に飛び込んで引きつけ、敵機を追い抜きもう一つのユニットをパージ。それと同時に射出。ほんの数秒狂ったミサイルが敵機に突き刺さった。

 周りを見れば同じように敵機を撃墜し、少し上ではチャフをエンジンに吸い込ませて撤退に追い込んでいた。武装が無いならあるもんぶつけてやれ、スコールがよくやっていた嫌がらせだが使いようによっては有効だ。

 が、これで攻撃手段がなくなった。桜都の機体を追い払ったはいいが今度はセントラ機が近づいてくる。IFF信号は味方だが、敵であることに間違いは無い。

「ドロップタンク残しときゃよかったよ……」

 敵機を注視しつつ仲間からの報告も見る。偏向シールドを無効化したと最後の一機からメッセージが来て、その最後の一機は主翼に衝突して大破。爆発こそしなかったが黒煙の尾を引きながら墜ちていく。

「トドメ行くかぁ……」

 エンジン出力を最大に。桜都に向かって飛んでいく化け物を追いかけながら、乗り移れそうな機体が無いか探すがリデルの率いるところは忙しそうだし、どうしようか悩むと嫌なタイミングでギアテクス隊から妨害が掛かる。通信妨害、それもデータベースに登録の無いタイプ。かと思えばレーダー情報までノイズに呑み込まれた。

「んのやろう、終わったら基地爆撃してやるくそったれ!」

 あたりを探せば低空にエアリアルフレームが数機。指向性のジャミングポッドを装備した特別仕様だ。戦闘機ほどの戦闘能力は無いが武装の汎用性と制圧力は高い。定点待機でいきなり指向性ジャミングなんてアリスにとっては特に嫌なことだ。通信手段を封じられると非常に困る。

 だからこそ対策もしている。ノイズで通信波を乱されるならバカみたいな出力でノイズごと塗りつぶしてしまえと。ほんの数秒、バックアップの起動条件と今時点までのデータをリデルへ向けて送信。

 追っ手を振り切って大型機の真下に取り付く。対地攻撃用の射撃ユニットが入っているウェポンベイを潰してやろう、そうすれば後はスコールあたりがなんとかしてくれるだろうと希望的観測で。

 ピッチアップ。

 ガコンッと嫌な音と衝撃。ぶつかってない。

「はっ……はぁっ!?」

 中途半端にウェポンベイを開いてユニットの出し入れに使うアームで捕まれた。どうもあちらも変なところに体当たりを受けたくないのか抵抗してきた。

「ふざけんなこのっ」

 背面のエアブレーキを無理矢理に押し広げてもう壊れたところでどうにでもなれと、ささやかな抵抗をしてやるが押し返されてエアブレーキを押し上げる油圧シリンダーが弾いてしまった。ならばと推力を上げて逃げようとVmaxスイッチをオン。誤差みたい範囲で推力が増えるが代償に使ったら絶対オーバーホール行きになる。

 気持ち、姿勢が変わってエンジンが止まった。燃料が切れた。

「……マジか」

 APUを始動して電力をすぐさま確保するがどうにもならない状況で桜都の上空。一瞬、スコールの姿が見えた。確かにこっちを見ていた。

「後は頼んだー……チクショウ!」

 桜都の中心部の上空で対空砲火を受け、何か変なものが機体にぶっささった。

「あん?」

 カメラが捉えたそれは、アリツィアだった。

「やっほー? ひとあばれしないか、ぶらざー」

「そこはシスターじゃないのか」

 直後に爆発。吹き飛ばされた。バックアップから即座に再起動し、しかし認識した世界は桜都の空。

「アリツィアーーーー!!」

 Vサインを出すその手を引っつかんで顔面をぶん殴った。

「テメェこら何してくれとんのじゃいっ!」

「いえぃハッキングせいこー」

 もう一発ぶん殴って、身体の構築するナノマシンが捉える温度がおかしいことに気付く。自分の身体を見ると毛穴の一つ一つ、肌の皺や血管、髪の毛の一本まで性格に再現しているくせに服が無い。

「アリツィアこのくそバカァァッ!!」

 地上に墜落してすぐ、周りの激戦なんか気にもせずにアリツィアを殴り倒して馬乗りに。

「はいそこまで」

「いだだだだっ!」

 アリスの髪を引っ張ってアリツィアの上から下ろすと。

「ちぎれる! 頭皮むける!」

 アリツィアの髪を手に巻き付けて持ち上げる。

「アリツィアお前、後でお仕置きな」

「やーめーてー」

「本気で痛がる演技は上手いよなぁ……」

 その後のふざけはいつも通りで、なんだかやる気を削がれる。

「アリス、これからどうする」

「あのデカブツぶっ潰す……けどその前に服装のデータ」

「俺の端末がネットにつながってる。勝手にダウンロードしろ」

 端末を差し出した瞬間、爆発が起こって凄まじいノイズが散った。電子機器がサージに負けて焼き切れて一部は火を噴いて爆発。

「うわっ」

 トーリの端末も対策をしていたにも関わらずいきなり膨らんで、投げ捨てると爆発した。

「……えっ、服は」

「どっかで引っぺがして来いよ。そこらに転がってる死体は敵のだから」

「嫌だなぁ」

「じゃあ裸で戦えよ。今のEMP受けても平気ならそのままで大丈夫だろ」

「気分の問題! 裸でうろつくとかどこの露出狂だ!」

「お前AIだろ、クオリア持ちの。性別も何も本来はない訳で人でもないし人間の倫理観で恥ずかしがる必要ねえだろ」

「殴るよ?」

「…………。」

 どこかに服は……と探せばいいものがあるじゃないか。

「アリツィア、脱げ」

「やだ」

「断ったら五年間ほど現実(リアル)に出てくるの禁止で」

「撃つよ?」

 脅すと銃口向けられて脅し返された。


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