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終わりの始まり【Ⅴ】

 カスミの射線に入らないように市街地を駆け抜ける。氷漬けになったアカモートの騎士や白き乙女の傭兵(オペレーター)が目印だ。辿っていけばスズナがいる。

 途中、いい装備があって漁っていると。

「レイジ兄さんこんなとこで何してんの」

 ふと、一人。ふわりと舞い降りてきた。戦闘服ではなく白衣に鞄、何か分からない怪しい薬品の入ったフラスコをたくさんベルトに差して。それが彼女の正装、戦闘時の服装だ。滅多と戦線に顔を出すことがないワヅキまで駆り出されているとなれば、白き乙女も総動員か。

「お前、どっちだ」

「敵じゃないから安心してよ。たまたまだよ、レイジ兄さん。大怪我したときに手当てしてたら記憶破壊の魔法見つけちゃってさ」

「自力で対抗魔法のプログラムを組んだと」

「そだねー」

「とりあえず二分待ってやる。半径二キロから出て行け」

「ちょちょっ銃口いきなり向け――」

 ちょっと横を狙って一発。敵か味方か判別できないなら敵だ、今回の場合は話が通じるならとりあえず追い払う。

「――マジでぇ?」

「敵かも知れない相手を近くに置いときたくないんでな。さっさと行けよ、嫌なら」

 グリップのスイッチを押してレーザーサイトとダットサイトの電源を入れる。

「排除する」

「レイジ兄さん相手に勝てるとか思わないから、ちょっと? 撃たないでよ」

「撃たれたくないならさっさと行けよ」

 胸にレーザーを当てて威嚇。

「分かったって、はいさよなら!」

 思い切り飛び上がって行くその後ろ姿を狙い続け、見えなくなると警戒をやめてスズナを追いかける。戦闘の音が聞こえ始め、意識して足音を殺し慎重に接近する。スズナ相手に戦闘になるならそこそこのやり手がいるはずだ。

 そこらの雑魚ならどれだけ集まって魔法障壁を展開しようが難なく貫通されて瞬間で凍りつく。それに対抗できてしまうお相手は誰だろうかと、ゆっくりと近づいていくと逃げ回っているベインの姿があった。ビルの陰に隠れてそっと銃口を向けようとするが、巻き添えを受けるアカモートの騎士たちが射線をふさぐ。

「……邪魔だな」

 アサルトライフルのセレクターをセイフティーに入れながら顔の横まで持ち上げ、剣を受け止めた。

「ですよね、どうします?」

「自然な流れで斬りかかってくるのはどうかと思うがな、キサラ」

「いやぁ団長から大馬鹿野郎の天狗になった鼻をへし折って来いって言われまして。なんかアカモートの偽物作る間にバレたら困るから囮にしたお詫びだとかで」

「あぁつまりお前を好き放題していいって、そういうことか」

「そういうことだと思いますよ。手札を大量に持った状態であらゆる状況に対応して制圧する〝異端者〟、あなたに未来の可能性を託します」

 差し出された手には全ての系統の魔法が用意されていた。ほんのちょっとの間の、手札なしからイカサマし放題に元通りだが。

「渡す相手が違う。異端者はスコールに継承した」

「……完全に、()()に分かれたと。そういうことでよろしいでしょうか」

「あぁそれでいい。だから、スコールに渡せ。フリューゲルブリッツを使ったから魔法が何もないはずだ」

「分かりました。ご武運を、師匠」

 鞘に収められた剣を投げ渡され、受け止めるために一瞬気を逸らしたらもういなくなっていた。気配の消し方は合格点か。未だに騎士団長には認めてもらえず下級騎士のままだが。

「いつまで見てんだ助けろ!」

「んっ?」

 全身氷まみれのベインが飛んできてすっと躱して背中を押す。そのまま壁に顔面からシュート。

「いってぇ……くそっ、後任せたコレ使え」

 わずか一秒の間に凄まじい数の魔法をぶつけられ無意識が勝手に反応してすべてをスティール。手札が増えた。

「じゃな」

「任せたって何を――」

 振り向けば深紅の刃が見えた。ひょいとしゃがむと轟音が響いてコンクリートを砕いて鉄筋を切断。

「おー危ない危ない」

 脇をすり抜けてそいつの後ろに立つ。深紅の鎧、重装備の紅月だ。

「何者ですか、ただの人間では無いようですが」

「さぁて誰だろうなぁ」

 挑発して、振るわれた剣を躱す。道路のアスファルトが砕け散る。重量とそれを振り回す為の魔法、掠りでもすれば、レイジの勝ちだ。当たってしまえば紅月を支える魔法がなくなる。その瞬間には自重で潰れる以外の道は無い。緊急用の除装魔法(パージ)すらも封じてしまうから、避けてあげないと紅月が死ぬ。こんなもん、スティールしなかったら自分が死んでしまうし全部スコールに渡した今は、自分第一だ。

「ベインの手下でしょうか、大人しく下がるのであれば命までは取りません」

「悪いが出来ないな。攻撃当てたら、死ぬと思え」

 スタングレネードを放り投げ紅月が炸裂に備えて障壁を展開、その隙で距離を取る。ピンを抜いていないし投げた時点でレバーが飛ばないのを疑問に思えと。まだまだ教育の必要があると考えつつも、その甘さのおかげで最初の一手が有利な方につながる。

「警告する、武装を解除しろ」

 セイフティーをセミオートに。弾丸は対魔法用のミスリル弾。貫通力はないが現行魔法なら問答無用で無効化する厄介な弾丸。

「そちらこそ、抵抗をするのなら命の保証はしませんよ」

「平行線だな」

「交渉は決裂ですね」

 直線で斬りかかってくる紅月を横っ飛びで躱して一発撃ち込む。

「一つ教えましょう。私の装甲は重砲の直撃を受け止めます。銃弾では効きません」

「じゃあこっちも一つ教えてやる。隙間、気をつけろよ」

 セミオートのまま銃床を腰に当てレーザーサイトで鎧の隙間を狙って撃ち込んでいく。紅月は無駄だと言うことを分からせたいのか、回避の素振りすら見せず受け止めた。

「銃弾程度、効かないと分かりましたか」

「どうだろうな」

 撃ち尽くしてマガジンを入れ替える隙は作れないと判断してアサルトライフルを落とし、剣を抜く。簡単な強化魔法が掛かっただけの、アカモート騎士団の下級騎士用の標準装備。

「自惚れは身を滅ぼしますよ」

「そっくりそのまま返すよ、動けないだろ」

「何を――そんな、いったい」

 カチャカチャと鎧のパーツが当たる音はするが、一歩踏み出すことも、腕を上げることも、首を動かすことも出来ない。一枚物では無い以上隙間はあるし無ければ動けない。そしてその隙間に楔として銃弾を叩き込んだらどうなるか。縮める方にも広がる方にも楔を入れてしまえばもう思うようには動けない。

「で、どうする? 命の保証はしないんだったよな、だったらこっちも同じようにしようか」

「くっ……白月!」

 紅月の呼び声に反応して向こうで戦っていた白月が転移してくる。

「はぁっ!」

 足下から飛び上がって斬りかかってくる。

「失せろ」

 剣で受け流し、身体に触れると同時にスティールで魔法を奪い取り、ベインからもらった凍結魔法を叩き込む。一瞬の交差で芯まで凍てついた白月が地面に転がる。そのままにしておけば数分のうちに動き出すことは知っている。足先に爆破魔法を込めて軽く蹴った。それだけで砕け散って破片が散らばる。

「白ちゃん! ってレイジ君じゃない、何やってるのよ、紅ちゃんも武器下ろしなさい、味方同士で戦う必要はないのよ」

「クレスティア、この男は知り合いですか」

「知り合いって……何言ってるのよ、レイジ君よ?」

「申し訳ありませんが記憶にありません」

「そりゃそうだ、記憶消してるし」

「何でそんなことしたのよ! 誰もあなたのこと覚えて無くて私が変人扱いされたのよ!」

 言い寄ってくるスズナにすとん、と。

「えっ……」

 顔を下げると、自分の胸から赤い染みが広がって、ナイフの柄が押しつけられていた。

「レイジ、君?」

「クレスティア! その男は――」

 蹴られ、吹き飛んだ紅月はビルの壁に叩き付けられる。衝撃で楔代わりの銃弾が外れ、動けるようになったのも束の間、街灯が溶けて槍の形になって飛んでくる。障壁魔法を詠唱するのに形にならない、回避しようにも高速機動用の魔法が応答しない。

 何も出来ないまま槍に貫かれ壁に磔にされる。ぽたりぽたりと鎧の隙間から血が垂れ落ちる。

「さてと、次は……」

「やりやがったなお前」

「なんだ、逃げてなかったのか」

 ほんの少しの間に戦ってきたのか、片腕が潰れていた。治癒魔法で少しずつ修復されつつはあるが、あと十数分はまともに動かないだろう。

「逃げたけどまあ……」

 チラッと後ろを見るベインに何がいたのかと無言で問う。

「カスミとぶつかってゼロ距離ショットガン受けてよ、障壁砕きやがるしそのまま片腕ズタズタで。ひでぇ目に遭った」

「運がなかったな。……ってことは、今のカスミは魔王クラスの障壁も砕けると」

「〝元〟魔王だ。だいぶ鈍ってるからまあたまたまだろ」

「たまたまならいいけどな。ベイン、他の連中に言っとけ。脅威は排除したって」

「そりゃ言っとくが……お前、ほんと容赦ねえな」

「ここにいてもらうと後が面倒なんでな」

 苦い顔でベインが去って行く。その姿が見えなくなると、壁に磔にした紅月を引きずり下ろして路地裏まで引きずっていく。同じようにスズナも。白月も砕け散った欠片を集めてゴミ箱に放り込んで。空を飛ぶ連中から見えない位置まで来ると、鎧をパージ。撃ち込んでおいた拘束魔法を破壊して、ぶん殴られた。

「なんだまだ動けるか」

「この程度で……いっ」

 殴ったはいいが、肩や肘に穿たれた穴から血が溢れる。

「レイジ君、酷いじゃ無いの」

「マジックナイフだ、ほら」

 手の平に押し当てるとおもちゃの刃の部分が引っ込んで血糊が溢れ出す。

「それでも痛いものは痛いの。もう、びっくりしたじゃないの」

「とりあえず上の連中が状況見てたし、ベインが情報流せばお前らは死人だ。しばらく隠れて、それからアカモートに行け」

「レイジ君はどうするのよ」

「最低限戦姫クラスは全滅させる。敵を生かしておく理由は一切無いからな」

「だったら私たちも」

「ダメだ。後どれくらいかは知らんが、敵の主力が集まってきたら桜都ごとすべて焼き払う。霧崎の最高火力だから防げないと思えよ」

「分かったわ……。そういうことだから紅ちゃん、しばらく休憩よ」

「了解しました」

 何か言いたそうだが、そんなことは気にせずレイジは次の場所へと走った。全部押し付けてもいいが、望む未来を勝ち取るためにやれるだけやらせてもらおう。

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