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終わりへのカウントダウン【Ⅸ】

「スズナちゃん?」

 呼びかけられて、ぼんやりとした意識が浮かび上がる。どうやらうたた寝をしていたらしい。ベッドの上でゆっくりと、スズナは目を開いた。ふかふかのクッションに背を預け、柔らかいシーツに心地よい温もり。再び眠りに落ちそうになる。

「ごめん、寝てた?」

 ぼんやりとした意識に飛び込んでくる声は知らない女性のもの。誰だろうか、知らない。そう思いながらも彼女の名前が口から出る。しかし自分で喋っているのに分からない。

「ううん、大丈夫。変な夢見てただけよxxxさん」

「どんな夢? 昔のこと、もしかしてうちに来る前にこと?」

 どんな夢を見ていたのか、思い出そうとすればおぼろげな記憶は薄れて消えていく。大好きなあの人の夢……? ノイズが、酷い。白い髪の青年のことが頭の中をちらつく。誰だろうか。

「ねぇねぇどんな夢だったの」

 意識がハッキリとした。覗き込んでくる黒髪のショートヘアの女性は、誰だろう。ここはどこだろうか。部屋の造りから日本であるとは分かる。

「xxxさっさと出て行け、勝手に部屋に入るな」

「こらxxx、あんたはこんな可愛いお嫁さんもらって帰ってきたのに何でお母さんって呼んでくれないのかしらねえ」

 その女性は、レイジのことを違う名前で呼んだ。いくつかの名前を使っているらしい、それでもその名前すべてを知っているわけではない。

「母親面すんじゃねえよ、あんたとは縁を切った、それで終わりだ出て行け」

「まったくもう。スズナちゃんは私のことお義母さんって呼んでくれていいのよ」

「そ、それはちょっと……」

 見た目、自分よりほんの少し年上の人をそんな風に呼ぶのには大きな抵抗がある。

「なぁに? 私の息子を射止めた天使ちゃんまで私のこと――あぃたたたっ!」

「出て行けつってんのが分かんないかなこの人は」

 耳を引っ張って部屋の外へと追い出すとピシャッと襖を閉めてつっかえ棒を立てかける。なぜか、そんな光景に笑いが漏れる。

「レイジ君ほんとにxxxさんと仲がいいのね」

「頭痛の原因でしかねえがな」

 ぶつぶつと文句を言いながら縁側の方へと歩いて、戸を開ける。緩い風と一緒に桜の花びらが舞い込む。月明かりに照らされた見事な桜があった。

 一緒に見ようと庭先に出て、ふとスズナは気付いた。自分の身体が重いことに。

 視線を落とすと、ゆったり寝巻の下で自分の下腹部が大きく膨らんでいた。

「……え?」

「どうした? 動いたのか」

 スズナは何度か瞬きをして首を振った。

 違う、こんなのはあり得ない。

 辿り着くことのない理想、望んでいる未来だと。

「レイジ、君?」

 彼の姿はぼやけていた。

 ときどきノイズが走って、白い髪と赤い瞳が見える。

「もう、思い出すな。忘れるな。初めて好きになって、そいつのために何もかも捨てて――」

 ハッキリと、姿が変わった。レイジとの思い出が薄れて、消えていく。

 桜吹雪に視界を覆われ再び前を見ると、目の前には完全に忘れていた男が立っていた。

「レイズ……」

「ティア」

 久しぶりに聞いた声、思い出した彼に対して浮かぶ感情は強烈な嫌悪。

「いや、来ないで!」

 はじけるような声で拒絶し、無意識に発動した魔法で、氷の槍で貫いた。

 世界がかすれ、薄れ、砕け散った魔法の欠片の向こうに現実が見えた。

 胸に大きな氷が突き刺さったレイジが離れていく。

 落ちていく。

「いや……うそ、うそよ……」

 手を伸ばしても届かない。何があっても死なないだろうとさえ思える最愛の人を殺してしまった。槍は身体の中で炸裂して確実に死に至らしめる致命の一撃。身体の中をぐちゃぐちゃにして、凍結させ細胞をも破壊する。治癒魔法で、そんな話はもう通用しない。

 蘇生魔法が必要だ。そんな高度な魔法、使えるのはレイジかスコールか。もしくは、頼りたくもないレイズか。

 ショックで動けずに居ると、落ちていくレイジにアイズが飛びついて、そのまま飛んでいって異空間に飛び込んで消える。

 残されたスズナは、ただ泣いて、泣いて……そして叫んで辺り一帯を凍結させた。

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