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終わりへのカウントダウン【Ⅶ】

「……くそっ、オートリカバリーまで封じられるか」

 生き埋め状態から脱出したスコールは装備とダメージチェックをしていた。額から血が流れ落ち息をすると鼻から血が吹き出て口の中にも血の味。触った感じ肋骨にヒビが入って指の関節が外れていて、他にも分からないだけで怪我は多数あるだろう。服を捲り上げると紫色に腫れていて明らかに肋骨はやられている。息をするたびに痛い。

「アイズ、状況は」

 呼びかけながらあたりを見渡すが一面土砂で茶色に染まっていた。全員生き埋めか……掘り返すかと思った矢先に土が盛り上がってそれぞれ這い上がってきた。動けなくなるほど深くは埋まらなかったらしい。

「どうなった」

「さあ?」

 イチゴを引きずり上げ、リオンと蒼月も次いで引き上げる。

「うわー泥まみれ、服の中にも入った」

「生きてるだけまだマシだろ」

 空はまだ霞んでいて、砂埃が降ってくる。敵機は、味方の管制は。探したところで見えるわけもなく通信も出来ない。

「各員状況報告……ダメですか、通じませんね」

「まだジャミングが続いてんだろ。どうするリオン、判断は任せる」

「一度ベースに戻りましょう。この状態では襲われたらひとたまりもありません」

 歩き始めた途端にドスンッと重たい音がする。振り返ればイチゴがウェポンターミナルを召喚してアサルトライフルを引っ張り出していた。

「召喚魔法ですか、先ほど魔法は使えないと」

「まあ……これだけしか使えないってのが正確か?」

 ダイバー隊が主に使っているシステムウェポンではあるが、どさくさ紛れに奪い取ったり盗んだりでかなりの数が溜まっている。弾に関してはセントラなりブルグントなり、桜都でも当たり前に売っているものが使えるから困らない。そもそも奪い取ったものが大量にあるから困るのはクリップにすらついてないバラバラの弾ということくらい……というかそれが一番困る。一発ずつクリップに取り付けていくつかセットにして自分で箱詰めするのは凄まじく面倒。買った方が手間がなくていい。

「一丁貸していただけますか」

「好きなの引っ張り出せよ。弾は自分で込めろよ、バラだから」

「ローダーは」

「俺クリップしか持ってねえしほとんどマガジンにいれっぱだからな」

「うっ……分かりました」

 リオンが引っ張り出して組み立てているとカチカチと音がした。そちらに目を向けるとスコールが同じようにウェポンターミナルを召喚してローダーで弾込めをしていた。クリップ一つに十発、ローダーに三つ入れてマガジンを差し込めば三回レバーを動かすだけで装填が終わる。

「いれっぱだとバネがへたるぞ」

「分かってる。ダメになったらまた盗むしまだ予備が千本くらいあるし」

「よくそんだけも溜め込んでるな」

「おめーがダイバー隊蹂躙した後に俺がこそこそ回収してたんだよ」

「へぇ、火事場泥棒め」

 さっさとマガジン八本に詰め終わって装備を調えたスコール。サイドアームでハンドガンまで持ってさらにアーマー。当たり前の男性兵士の格好に早変わりだ。ヘルメットはないが。

「ローダーを貸してもらえないでしょうか」

「好きに使え。このローダー、ロックはないからマガジンは押さえろよ」

「分かりました」

 リオンが作業を始め、丸腰の蒼月に目を向ける。こいつ確か銃器を扱う訓練はほとんどしてなかったはずだ。イヤーマフなしで使わせたら確実に耳をやる。

「えっと、私は」

「武器の召喚は出来ないのか」

「ダメ、ノイズが酷くて」

「だったらとりあえず後ろついてこい。イチゴ、行けるな」

「あぁ行ける。今回は本気で行くぞ、お前らが魔法使えないなら死ぬかも知れないし」

「いつも本気でやってくれ」

「見られたくないから嫌だ。つかお前、イヤーマフは」

「要らん」

「…………。」

「準備できました」

「イチゴ、リヤ任せた走るぞ」

「はいよ」

 ベースへ向け走る。降り積もった土砂は柔らかく走りづらい。

「相変わらずどこからも通信がありません、もしかしたらあの攻撃で壊滅した可能性もありえます」

「だろうなベースの通信機なら単方向で強力だし」

 ふと、カチッと。何かを踏んだ。

「散れ!」

 振り返りリオンが蒼月を引っ張って飛び退いて、イチゴが勢いを殺しきれず踏み込もうとしていたのを見て迷わず銃口を向けて、イチゴも分かっているようでライフルを盾のように構え丈夫な場所を狙って撃った。衝撃でバタリと倒れほんの一瞬遅れて地面が炸裂した。

「いってぇ……頑丈で助かった。おいスコール」

「悪い」

「今のは地雷ですか」

「遅延信管のな」

「しっかし何やってんだ珍しい」

 いつもなら訳の分からない気づき方をして無意識のうちに避けるのに。

「勘が鈍ってる」

「この場所に地雷はないはずですが」

「あの攻撃で誘爆せずに飛んできたんだろ。他にも何かあるかもな」

「適当に撃ってみろよ、何か当たるかも知れない」

「んなことあるか」

 と、ふざけてバースト射撃すると五十メートル先で盛大に爆発が起こった。

「…………。」

「ほらなスコール」

「イチゴ、お前百メートル先を歩け」

「嫌だよ!」

「言い争いをしている場合ではなさそうですよ。何か来ます」

「あれは……」

 遠くから黒コートの一団が飛んでくる。一瞬黄昏の領域の連中かと思ったが、大剣を背負っているのが混じっていることで睦月隊だと認識。

『カレンディアからスコールへ、カレンディアからスコールへ聞こえていたら何かしらの合図を』

「イチゴ、発煙筒(フレア)

「自分の使えよ」

 文句は言いつつもフレアを焚いて位置を知らせる。

『アイズからスコールへ、生きてるか』

「生きてる。そっちからサーチ出来るだろ」

『位置は分かっている。白き乙女の増援が到着するまで二十分以上はかかる、それと味方に偽装した敵を複数確認、気をつけろ』

「ちなみに増援は睦月か」

『通常部隊の戦闘機だ』

「了解した……イチゴ、戦闘準備」

「どっちが、だ」

「もろにアイズだろ。あいつは非番のはずだ、しかもなんでいきなり通信状態が回復した?」

「勘が外れないだろうな。さっきみたいに地雷踏んだら今度は死ぬぞ」

「スコールからカレンディア、それ以上近づくな」

「通じてねえぞ。ノイズだけしか聞こえなかった」

 近づいてくるカレンディア隊のその上空、背に魔方陣と補助演算用の〝翅〟を三対展開したアイズの姿が見えた。

「久々に真面目にやろうかイチゴ」

「仕方ねえか」

 いつものおふざけモードで相手していい存在じゃない。あれは〝敵〟だと、真面目モードだ。

「リオン、蒼月、一切の手出しをせず回避専念で頼む」

「向こうは聞いてると思うか」

「さあ?」

『アイズからスコールへ、そこの部隊は敵だ』

「どの部隊だ」

『黒い連中が見えるだろ』

「誰だ」

『……何?』

「ああ、いや、聞く必要はないか」

『何を言っている』

 返事はせずにセレクターをセミオートに。空を飛ぶアイズの姿を真似た〝敵〟へ銃口を向け予測進路上を狙って撃つ。当たらないことが前提だし当たったところで障壁に弾かれるだけだ。

 そんな回避機動を取る敵へ向けて連射するスコールの隣で照準を合わせるイチゴ。撃つのではなく、ピンポイントでウェポンターミナルを召喚して叩き付ける為だ。いくら障壁があるとはいえ重量物を叩き付けられるとバランスを崩す。あわよくばそのまま落ちてきてくれるといいなと思って。

「……そこだ」

 ゴッと地上まで音が聞こえた。バランスを崩したところへ続けて二つ、三つと叩き付け障壁が霧散して四つ目で直撃。落ちてきた。

「イチゴ、ターミナルいくつ持ってる」

「数えてねえから分かんねえな」

 グシャッと嫌な音を立てて墜落し、容赦なくさらにターミナルを叩き付ける。派手な戦闘なんていらない、静かに、地味に、目立たずさっさと仕留めたい。

「トドメ。後ろから支援しろ」

「言われなくても」

 警戒しながら近寄って行くとまだ生きていた。スコールと同じほどの年をした女。見たことがある気がするが、覚えてない。ターミナルに片足を潰されて這っていた。

 セレクターをフルオートへ。頭に狙いを定め、一気に胴体まで穴だらけにした。あふれ出た血が広がる。

「スコール、やったか」

「いや……こいつは」

 砕け散った頭を蹴ると黒い塵になって溶けていく。よく出来たデコイ、召喚兵か。

「囮?」

「カレンディア隊、聞こえるか」

 空を見上げると姿がなかった。

『通信良好。当方警戒状態にて飛行する』

「了解……」

「気配は」

「ない。そっちで探知は」

「俺はそこまで出来ねえ。ツユリならやるだろうが」

「警戒維持」

「あぁ、どこから――」

 ザグッ。

 体が揺れた。

 スコールを貫通して突き抜けてきた光の刃。

「え……っと?」

 何でかと疑問に思いながら力が抜けて、倒れた。

 スコールも倒れ、その後ろには、刺したのは、リオンで――

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