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終わりへのカウントダウン【Ⅵ】

「で、連れてきたけど脱走されて押さえ込むことも出来ずとりあえず満足させながら隙をうかがおうってことでああなってたと」

「それであってる……」

 ひどく疲れた顔をしたレイジは、キリヤの治癒魔法で霜焼けを治してもらいながら、勝手に甘いものに手を伸ばす。

「ダメそれ僕の!」

「糖尿病になるぞ」

「ならないしなったことないから大丈夫なの――って、もう勝手に食べて……この人は」

「ソウマよりはマシだろ」

「まあソーマよりはマシだけど、勝手に取らないでくれるかなぁ」

 呆れているとそぉーっと別の手が伸びてくる。

「アイズ」

「ケチ」

「それでこれからどうするの? クリスマスまで日にちないよ」

「なんとかする。最悪は記憶の破壊で対応するし」

「君ねえそんなことしたら」

「だいたい誰だよ、白き乙女のネットワーク経由で魔法かけたのに邪魔したのは。誰も忘れてない」

「それだけ君が大事だからじゃないの。記憶から消えないほど頼りにされてるとかさ」

「嫌だよまったくそういうのは」

 ようやくまともに動き出した手でさらにシュークリームを取る。

「ちょっと!」

「諦めろ」

「そーそー」

「あっ、いつの間にチーズケーキ……」

「ちなみに三つ目」

「はっ? え、あれっ」

 空のパッケージだけが袋の中に残っていた。と言うかあれこれ買ってきたのに結構減っている。

「もーーなんで君らは」

「も一個もーらい」

「アイズ? ほんと太るよ、いいの太るよ」

「あ、だいじょーぶ。甘いものは頭のエネルギーだから体には行きません。大丈夫、そう大丈夫なの」

「誰かさんみたいに胸ばっかりに溜まって高機動したら千切れるだなんだ文句言うことになるかもよ」

「なってもらっちゃ困るけど、まっ大丈夫でしょ」

「お尻にばっかり脂肪がついて急旋回でバランスが取れないとかなったら戦闘厳しいよー」

「いやー大丈夫、食べた分動けばだいじょーぶ」

「さっきと言うこと違くない?」

「小さいことは気にしない」

「もうっ!」

 大福を食べようと袋に手を伸ばすと空っぽ。

「…………。」

 ため息一つで立ち上がって、コンビニへと再び歩く。

「ついてこないでよ」

「今ので吹っ切れた。やっぱラーメンと餃子とチャーハン食べる」

「スクランブルかかるかもよ」

「今日と明日は非番ですってね」

「じゃあなんでさっき出てきたのさ」

「暇だったから」

 暇だからと勝手な出撃をしていいわけではないし、非番は休息としてしっかり休むべきだ。いいのだろうかアカモートの防空隊は。そんなことを思いコンビニまで来ると、中から就業規則を真っ向から無視して常時仕事人の騎士団長が姿を見せた。

「あれ団長? なにしてんすか」

「こちらの台詞だアイズ。お前ら何をした、封鎖区画の化け物どもが怯えている」

「怯えてる? 暴れたりするんじゃないならいいと思うんだけど、ダメなの」

「普段と行動パターンが変わると何か起こるかも知れん。そしてあそこの化け物どもを怯えさせることが出来るのは現時点でお前たちだけだ。何をした」

 そんなこと言われても思い当たる節は……。

「スズナどこに閉じ込めた?」

「異空間だが座標的には封鎖区画の下だな」

「それじゃん。それしかないじゃん」

「団長、騎士団でなんとかしてくれ」

「あいにくキサラ以外は出ているからな。あいつでは化け物どもの相手など務まらん。元凶のお前たちがなんとかしろ」

 団長相手に逆らうと後が面倒だ。特にアカモートで、ともなると権限はトップクラス。何されるか……。

「私は広域警戒管制なんでこれで……」

 逃げようとした途端に騎士団の紋章が浮かび上がり瞬時に障壁が展開される。

「アイズ、休暇申請を出しているのは知っている。スクランブルはないはずだな、一緒に掃除してこい」

「えー……」

「ていうか僕そもそもヴィランズ所属なんで入れるのは不味いでしょ。封鎖区画って中枢の近くだし」

「〝敵〟だろうが関係あるか、行け」

 足下に転移魔方陣が出現し、三人まとめて捕われる。

「うわーなんでこうなるのー」

「団長!? これ一方通行!」

「終わるまで帰ってくるな。遅くともイブの夜には出してやる」

「だそうだ、掃除するぞ」

 レイジだけは嫌がる素振りを見せず、そして二人は逃げたいが逃げられずに飛ばされた。

「うっわ暗。キリヤ、照明」

 魔法を詠唱し、一瞬だけ光ってすぐに消えてしまう。

「なんかノイズが酷いんだけど」

「中枢の近く。動力炉のノイズで電子機器もダメだ」

 スマホも通信機も使えない。何かあっても外に助けを求めることは出来ないし魔法も不安定となると、下手したら死ねる。

「ちなみに君の召喚魔法は」

「使えん」

「アイズの管制魔法は……」

「ノイズが酷すぎて無理これ」

「うっそーん……」

 ジャマーよりも酷いノイズに、旧式魔法を使うキリヤと現行魔法を使うアイズではどうしようもない。刻印魔法を用意しておいてよかったと思えるのはこういうときだ。ラミネート加工したカードを取り出して魔力を通す。詠唱も何も必要なく、ただ魔力を通すだけで明かりが灯る。

「僕にもそれちょうだい、魔力通すだけでいいんでしょ」

「あぁ。戦闘用のセットがこれ、補助魔法がこれ。刻印は読めるな?」

「読めるよ。アイズは」

「私は読めないなー……灯りと射撃系を」

 受け取って早速励起して発動された魔法はレイジに最適化されたもの。

「えっ、何これ変数入力とかないの? 軽いし射撃速度遅すぎ」

「遅いなら多重詠唱しろ」

「う、うんまあ……汎用は?」

「ない」

「個人に最適化された術式って他人には使いづらいんだよねぇ」

「文句言うなら返せ、素手でやり合え」

「それ死ぬから。僕は接近戦出来ない魔術師だから」

「昔はやってただろ」

「昔は昔で今は今だから。さっ、終わらせて早いとこ帰ろ」

 通路を照らし歩き出す。封鎖区画は元は実験エリアだった。ただ、レイアがやりすぎて化け物を作ってしまって、退治するより封鎖した方が安全と言うことで封鎖されている。万が一の時は解き放って侵入者とぶつけることもあるし。

「まあ怯えてるって言うことだし、見つけ次第撃破でいいんだよね」

「撃破できるならな」

 言ったそばからボトッと音がした。

「なに?」

 アイズが振り返る。

「ムカデだ。ほら、足下に」

 言われて足下を見たアイズが悲鳴を上げた。ムカデはムカデでも六十センチほどはあろうかという巨体で、その牙は防護服なら貫通しそうな……。

「ちょ、ちょっムリムリムリこんなのダメッ!」

 怖がってさっとレイジの後ろに隠れ、次のターゲットに選ばれたらしいレイジは飛びかかってきたところへスティールしておいた凍結魔法をぶつけ蹴り砕く。

「気持ち悪いって、ぞわぞわするしムリ」

「ドラゴン相手に戦ってるやつが何を」

「あれは怖いけど、これは気持ち悪い」

「へぇ……あんなのは」

 と、通路の向こうを照らすと巨大なゴキブリが壁を歩いていた。その後ろには通常サイズのゴキブリの群れがぞろぞろと。

「……ね、障壁で塞いで火炎放射で酸欠にして炙り焼きにしない?」

「やってもいいが放熱と換気が終わるまでここで待機になるぞ」

「それって下手したら僕ら死ぬよね? やめよ?」

「提案に対し反対一、よって却下」

 事務的に切り捨てるが食い下がってくる。

「イリーガルはどっちなの。キリヤは反対だけどあんたは」

「反対票で」

 ここの化け物がその程度で死んでくれるならとっくに封鎖は解除されている。

「えー」

「キメラとかの大型種相手にその程度じゃ効果がない」

「キメラいんの!? ゼロ距離で対物ライフル弾くあの怪物が」

「他にもヤバいのがわんさかいるぞ。駆逐するのが面倒になるほどいるからな」

「イリーガル、前衛よろしく。私は戦えないから」

「僕も無理だからよろしくー」

「お前らなぁ……」

 結局押しつけられ先頭を歩くが、遭遇する魔物やら実験体やらの全てが動きが鈍く先制攻撃で潰していくだけの作業になっていた。なぜ鈍いのかはレイジの動きにも影響するほどに温度が下がっているからだ。スマホの温度計は氷点下一度を示し、体感的には二度か三度ほど。

「どうした、遅いぞ」

「寒いって。体が動かしづらいよ」

「そーそー私だって飛行中は結構寒いところ飛ぶけど障壁あってこそだから」

 レイジにとっては激しい運動をしても余裕で放熱、冷却が追いつくから制限をかけなくていいぶん楽な温度域だ。

「完全にクリアしてるわけじゃないから、後ろから来るかも知れない」

「虫系なら僕がなんとかするからいいけど、アイズもびびらないで撃ってよね」

「いやぁ……気持ち悪い、無理」

「この次の区画はヒュドラとホロウがいるから気をつけろよ」

「絶滅したはずじゃなかったっけ?」

「表向きの話だな」

 通路の突き当たりへ火炎弾を撃ち込み、間を置かずに飛び出したレイジが居座っていた巨大なイソギンチャクへ雷撃を撃ち込んで背後は確認もせずに爆破。砕け散った巨大ゴキブリがあちこちにへばり付いていた。

「クリア、さっさと来い」

「絶対屋内戦で敵にしたくないよあの人」

「いやいやそこは条件なしで敵にしたくない、でしょ。魔法が効かないし物理が効くって自分で言うくせにクラスター爆弾受けても無傷だからさぁ」

「開けるぞ、いきなり来るかも知れない」

 隔壁の制御端末にセキュリティコードを入力してロックを解除。レバーを下ろすとゆっくりと隔壁が開いていく。隙間からは凄まじい冷気があふれ出る。

「さぶっ」

「ノイズが酷いね、魔法は無理かな」

 少し開いたところで一度隔壁を止めて隙間から向こう側を覗く。完全に凍っている。動くものは何もなく、氷の彫像と化した魔物がいるだけだ。

「……この先は無理だな」

「何があるのさ」

「見ろよ」

 キリヤがその惨状を見て。

「これ開けたら僕らも?」

「だろうな」

「よし、閉めよ」

「ちなみに出口に一番近いのはこの先にあるメンテナンスホール、そこがダメなら液化魔力の圧送ライン」

「えっと……行けるの?」

「掃除しながらどうやって脱出する? 爆破するにしても無理だぞ」

 団長相手に口で勝てても実力で負ける以上、大人しくしたがったはいいがどうやって脱出したものか……。

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