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終わりへのカウントダウン【Ⅰ】

 十二月二十一日。

 二十二時十五分。

 桜都防空識別圏。

「やっと桜都だー」

 レイジを中心とした一行は安全域へと辿り着いて気を抜いていた。アイズ、レイジ、風月、そして曳航される霧崎の四人は桜都国へ通信を入れアプローチ許可を取り付け、戦闘モードを解除。

「ものは相談なんですが今日は如月寮に泊めてもらえないでしょうか」

「スズナ次第だな。アイズ、お前はどうする」

「んま状況次第かなー。高高度で連続転移すればアカモートまで一時間くらいだし」

「話し方違くない? 無線じゃ命令口調なのに」

「戦闘モードと通常モードは切り替えてるから。あっ」

「なんだ」

「ケルビムタイプのリコンはクレスティアの……あぁまずい、ブレイク!」

 アイズが叫び、エアブレーキを展開して急旋回。桜都とは反対方向へと飛んでいく。

「スズナか」

『あんたのお迎え! 巻き込まれたら死ぬ! あんなの無理!』

「だそうなんで風月も」

 目視できる範囲に召喚兵が、スズナが使うリコンが見えた。補足されたと理解した瞬間には頭は戦闘モードに切り替わっている。瞬間的な加速でスライドすると氷の砲弾が突き抜け、五百メートルほど後方で炸裂。吹き飛ばされたアイズがふらつきながらも体勢を立て直し転移。爆風が空間を凍てつかせ巨大な氷の塊が出現して落ちていく。

「一抜けた」

 アイズに続いて反転、離脱していく風月を見送る余裕はなく回避行動に専念する。

「あのー俺は」

「迎撃しろ」

「無茶言わないでくださいよ俺は空戦得意じゃないんですから」

「じゃあ切り離すぞ。デッドウェイトは要らないからな」

「いやーここで落とされるとぉ……」

 下は月明かりを跳ね返す黒い海しか見えない。サメのいる真冬の海域だ、落ちたら助からない。

「善処します」

「じゃあ迎撃は任せ――」

 瞬きして紅月が目の前いた。やけに軽装備だが盾はしっかりと持っていて。

「お覚悟を」

 振るわれ、避けるが投げられた盾が霧崎に直撃し引っ張られる。体勢を立て直すために加速を強め勢いを殺しきると障壁が張られた。別々の三枚、三角柱の檻に捕らわれる。上に飛べば逃げられるが、一キロほど上昇する必要があるし、たった一つの逃げ道はスズナのレールガンもどきの射線で封じられる。

「あの、レイジさん。通信が入ってますよ」

「分かってる」

 無視するのもそれはそれで駄目だろうと応答。

『レイジ兄さんごめん、さすがに逆らったら殺されそうだから許して』

 他にも声が聞こえた。いつも寮で待機するメンバーだろうが、今日は仕方ない。

「臨時オペレーター、皆川零次。如月隊隊長、クレスティア様より捕縛しろと命を受けています。抵抗するようであれば実力行使にて無力化いたします」

「紅月、軽装備で戦う意思がないのは分かっている。今日は大人しく帰ってやる。……天気予報が大外れしたらまずいだろ」

「大変よろしくありません。すでに局所的ではありますが水道管の破裂、雹、海面の凍結、氷点下二十二度などの異常気象を観測しています」

「はぁ……まったく」

「あなたのせいですよ」

「だろうな」

「なんとかしてください」

「できるとは言えん」

「では頼みます。各隊、風月の捕縛へ目標を変更、行動を開始しなさい」

「ちょっと待て」

「なんですか」

「いいから待て」

 魔法通信のチャンネルを切り替え風月へとコール。すぐに応答があった。

「逃げたら氷漬けだと」

『うげっ……』

「帰ってこい。嫌なら紅月の指揮で結構な人数が行くぞ」

『それ裏切り者ってことで殺す気じゃない? すぐ戻るから押さえててよ……』

「つー訳で戻ってきたら捕らえろ」

「あなたという人は……あぁ、いえ、了解しました」

 どうせ風月なら逃げ切る。そうなるとまた面倒ごとを押しつけられるし、だったら早めに潰しておいた方が楽だ。

「さて。先に帰るぞ」

「俺も巻き添えですかね」

「もしもの時は最大火力な。何分かは持つだろ」

「負け前提ですか。いけると思うんですけど」

「レイの火力なら押し切れるがお前じゃ無理だ」

「ですか……」

 海岸沿いに着陸するとカメラが飛び回っていた。海には流氷、草木は一部凍結して屋台も片付けの途中。今頃はリアルタイムの中継映像がニュースで流れていることだろう。

「今日の天気予想はこんな酷くなるとは言ってませんでしたけど」

「スズナだろ」

「さすが戦略級魔法士……」

 寮に近づくほどに状況が酷くなっていく。破裂した水道管から流れ出た水で道路が冠水しているのならまだいい方で、坂道を流れ落ちる水が凍結して通行止めになっているところや復旧工事のための重機もろとも氷のオブジェになっていたり、その手伝いの魔法士が凍傷で治療を受けていたりと。

「レイジさん、寮の前の坂って登れますかね」

「大丈夫だ……な?」

「爆発しませんかあれ」

 破裂……は、していない。しかしマンホール付近から道路に亀裂が走り、舗装されたアスファルトが盛り上がっている。破裂とか言う前に凍結したのだろうが、水道管かガス管が圧力に負けて破裂、最悪電線が切れて引火、大惨事もあり得なくない。

「したらしたときだ」

「えぇ……」

 坂を上ると流れ落ちてくる冷気が痛い。寮に近づくほどに温度が下がっていく。

「あの、レイジさん。マイナス五度行きましたけど」

「通常装備なら氷点下七度までは活動できる」

「いやそういう問題じゃないんですよ。レイジさんは大丈夫でしょうけど俺ら一般人はダメなんですよ、もう指動きませんしこの魔力含んだ冷気のせいで加熱魔法がかき消されてしまって」

「だから負ける前提で、だよ」

「うわぁ……俺やっぱ野宿しますんでこれで」

 逃げようとした霧崎の襟をつかんで引き寄せる。

「やっ、あの、死にたくないんで」

「道連れ」

「えぇぇ……」

 寮の敷地に入ると全員が庭で断熱結界を展開して固まっていた。理由は明白で寮からあふれ出る冷気が物語っている。

「マイナス十八度行きましたけど」

「さすがに痛いな」

「入ったら死にますよ」

「だったら全力で加熱だ」

 今のご時世ではまず見ることがない引き戸を開け、途端に靴が凍ってゴムがぽろぽろと崩れる。

「引き返しませんか、いまなら間に合います」

「ノーだ」

 靴を脱がずに上がる。靴下で、例えスリッパがあったとしても廊下を歩こうものなら足裏が酷いことになる。

「霧崎、そっちじゃない」

「あれ? 一階が如月隊で二階が寮生のはずじゃ」

「それであってる。認識が狂ってんだ、久々に帰ってきた時にもおかしかった。確かに二階だったはずなのに感覚的には一階で、なーんか嫌な感じだった」

「まさか階段で無限ループとか」

「あったあった。遊び半分で百階まで上がって術式破壊したが、まだなんかあるな多分」

 ただ、なにかあるのは分かっているが悪戯やレイアの細工でいくつもの魔法が入り乱れているからこれだと特定するまでは至っていない。やろうと思えばできるが面倒すぎて手をつけていないだけといえるのだが。

「変なことはごめんですよ……確認です、一階にイチゴさんと俺のクローン、ムロイさん。二階にレイアさんとレイジさんとスズナさんの部屋。一階は主に如月隊の使用で常にゴミ屋敷状態、二階は寮生たちが使用。俺が保持している情報です」

「一階と二階は逆転、それ以外はあってる」

「了解です」

 二階へと続く階段は霜が張り付いていた。上から降りてくる冷気は冷凍庫の中からあふれ出る冷気よりも冷たい。

「えーっと、お先にどうぞ?」

「バックアップは任せるぞ」

 二階の大広間でお説教コースだろうが、もしかしたら廊下で待ち構えていていきなり氷の塊を投げつけられてもおかしくない。

 果たして、階段を登ると奇妙なことが起こった。

「…………。」

「どういうことです? えっ? 戻って……二階、ですよね」

「縁が切れた、召喚が使えない」

「異空間ですか」

 右を見れば玄関、左を見ればさっきと変わらない廊下があった。

「だろう」

「戻りますか」

「行ってみろ」

 霧崎が降りていくと、上から姿を見せた。

「あれ、なんでレイジさんが下に?」

「ループしてんだよ」

 術札に魔力を通し、氷塊を作り出し投げ落とすとコンッコンッと音を立てながら上の階から落ちてきた。

「玄関から出たら……」

「この前は次元の狭間だったな。窓から見えるもんは壁に書いた絵だし」

「あー……ゲームでたどり着けない背景みたいな状態なんですね」

「そういうこと」

「で、脱出は?」

「ブレイクできないから、綻びを見つけてそこからハックするか時空間転移でズレたところから抜け出すか」

「なら俺の魔法で」

「って考えたんだが対策済みなんだよなこれが」

 試しに魔法を使ってみる霧崎だが、やはり効果はなかった。弾かれてしまう。

「アカモートのラビリンスモードよりは優しいですよね」

「あれは防御機構だからな。入ったら管理者権限持ってるやつしか出られない」

「で、どうします? 前はどうやって脱出したんですか」

「上に登って登って百階くらいまで行くと魔方陣がむき出しだったからブレイクで脱出。今回は対策されてるだろうがな」

「うわぁ筋肉痛確定のやつ」

「馬鹿正直に登ることはない。ついてこい、無理なら置いていく」

「えっ」

「風よ、我に集え」

 詠唱と同時に冷気が吹き飛ばされ、浮き上がったレイジが上の階へと飛び上がる。下の階から姿を見せることはなく、上から響いてくる風の音はだんだんと静かになっていく。

「マジですかぁ」

 駆け上るのは体力的に無理だし、痛いのは我慢しようと足裏にエネルギーの増幅魔法を掛け手すりを掴んで階段を蹴る、勢いを利用して飛び上がると手すりを利用してくるっと回って、壁を蹴ってまた上に。

 適度に治癒魔法でダメージを回復しつつ上がっていくと戦闘の音が聞こえた。警戒して一度止まり、駆け上がる。

「早かったな」

「相手は。それに、その女の人は」

 凍った片腕が転がっていて、座り込んでタオルで傷口を押さえているが血が溢れ落ちる。

「カヤ、味方だ。治癒してやれ」

「了解です。それで、敵は」

「量産型の天使、生き残りは少ないんだがな……」

 飛んできた氷の弾丸をスティールしリリースで撃ち返す。天使なんだから魔法は使っちゃいかんだろと思いながらも、その方が都合がいいレイジは片っ端から受け止めて反撃する。

「治癒完了、俺がやります」

「よし任せた」

 レイジが飛び退いて入れ替わりで霧崎が廊下に飛び出る。見えたその天使はスズナそのもの……しかし魔力反応がまるで違う。

「あぁ異空間でさんざんやりあったアレですか」

「空間ごと焼き払え」

「分かってますって」

 障壁で隔離し火力を押さえて真っ赤な炎を放つ。対してあちらは水の壁で受け止める。

「酸欠は効かないんでしたよね」

「人に対するインターフェースだから人の形しちゃいるが生物として必要なものはないと思え」

 いくら熱を加えてもそれを上回る冷却に負けて全く水の壁が蒸発せず、制御を奪おうにもノイズが酷すぎてできず拮抗する。

「レイジさん!」

「状態維持」

 一瞬で黒焦げになる火炎にレイジが触れ、魔法をスティール。組み直して貫通力を高めた火炎弾としてリリース。水に触れシュッと音を立て、壁の向こう側で炸裂。制御を失った水の壁が流れてくるが到達前に冷却魔法で霧崎が凍らせる。

「やりましたか?」

「溶けたな」

「……あの、今度その魔法の組み方教えてください」

「イメージするだけで使えるだろ」

「俺のは現行魔法ですよ。プログラミングなんです、旧式魔法みたいに思った通りにはできないんですってば」

「速度と安定性求めるから仕方ないか」

「そうですね。それで、カヤさんはどうします」

「そのままほっとけ。上行くぞ」

「了解です」

 駆け上がり、八階ほど登ったところで揺れた。

「地震ですか?」

「いやこれは」

 再び揺れ、天井に亀裂が走った。

「来るぞ」

 構え、そして。

 ミシミシと嫌な音を立てて天井が膨らんで、崩れた。

「下がれ!」

 膨大な冷気が降りてきて、霜柱が立つ。落ちた瓦礫に混じって人の手足が見えたが、明らかに凍り付いていて生きているようには見えない。

「うわわっ、凍った、これ熱っ」

 冷気から逃げる為に上の階に霧崎が走って行く。

「感覚が一瞬で死ぬか……」

 霧崎が凍ってしまった指先を治癒するのをよそ目に天井に空いた穴を見上げると、ふわりとスズナが降りてきた。それに続いて滅多と姿を見せることがないキリエも。

「これは」

「侵入者よ。天城君だったかしら、いきなり入ってきてヒサメちゃんに襲いかかったから防御魔法が起動してこの状況よ」

「…………。」

 瓦礫を蹴り飛ばすと強姦魔がカチコチになっていた。芯まで完全に凍っていることだろう。

「被害は」

「ヒサメちゃんが擦り傷、カヤちゃんが大怪我して退避したのだけど会ってないかしら」

「下で見た。傷は霧崎が対処した」

「霧崎君が?」

「どーもーオリジナルですー」

「あら、珍しい」

「ってことで、こいつを処理したら終わりか」

「そうね。そうしたらお説教よレイジ君」

「…………。」

 今すぐにでも逃げ出したかったが、あいにく下に行っても上から戻ってくるだけだし上に行ったところでどうにもならない。


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