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セントラ南部戦線【Ⅳ】

「あら?」

「何かありましたね」

 五百メートル間隔だった艦隊が広がって陣形を変えていく。長距離攻撃手段を使わないあたりは警戒なのか、それとも向かってきているが射程外なのか。どちらにせよ戦闘態勢の解除にはならない。

「通信にノイズが……ID確認、風月です」

「応答がないわね。そう言えばあの子ブルグント方面に派遣じゃなかったかしら」

 さっとデータベースに目を通してみると直近の履歴ではブルグントになっている。

「確かにあちらですね。なぜここに」

「途切れ途切れだけどこれ……交戦してる?」

「その可能性が高いかと思われますがこちらの仕事が優先です。終わり次第向かいますか」

「そうね」

 十数分して陣形が完成する。すぐ近くに見えていた艦は水平線の上にいる。かなり距離を開けているように見えても、艦隊戦なんてものを知らない側からの感覚でしかない。これだけ開けて護衛艦で囲まないと対艦ミサイルに空母が狙われてしまう。それにこちらからの攻撃が味方艦に当たることもある。余裕を持った回避機動も取りづらくなる。何より密集陣形は戦術級の魔法一発で全滅の可能性がある。

 発艦のためか、甲板に待機していた戦闘機がカタパルトに進みエレベーターからも続々と上がってくる。

「始まるわね」

「そうで……来ます!」

 スズナが反応するよりも早く、紅月が盾を構え固定魔法と障壁魔法を展開。ほんの一瞬の差だった。空母から百メートルの位置で受け止めた攻撃は障壁を貫いてなお迫り、盾にぶつかって消失する。受け止めたエネルギーを熱エネルギーとして蓄え、放熱を開始する。

「何よ今のは」

「クレスティアを……いえ、空母の甲板を破壊するのが狙いでしょうか。恐ろしく正確で強い魔法です」

『傭兵、今のはなんだ。探知できるなら防御は頼む』

「承知。しかし防ぎきれる保証は出来ません」

 二発目。障壁を再展開し貫かれ、若干逸れた攻撃が管制塔の上部を消し飛ばす。抉られた断面は溶け落ち、奇跡的に人的被害はなかったが管制能力が死んだ。

「紅ちゃん無理はしないで」

「次は無理です……冷却が」

 三発目が飛来し、すかさずスズナがレールガンもどきを発射。直撃させ海に叩き落とす。

「さすがです」

「連続は厳しいわ……蒼ちゃんブルグントに送るんじゃなかったわ」

「ええ同意します」

 障壁を再展開。四発目は上空を突き抜け、外れたかと思えば放物線を描いて遠くの護衛艦に直撃。爆発し火災が発生する。

「もしかして、これカスミちゃんかしら」

「有り得ますね。超長距離砲撃でしたら彼女に敵う者はほとんど居ませんし防げもしません」

『こちら四班、リベラル所属の攻撃機を確認。攻撃してきます』

「排除しなさい」

『承知』

『七班。フリーダムとエンゲージ、艦が沈みます。退避許可を下さい』

「班長の判断で下がりなさい、無理して死んじゃダメよ」

『一班から報告、二班担当の護衛艦が轟沈。二班はこちらに退避済み、負傷者なし』

 他の所でも始まったと実感して、スズナは本気でレールガンもどきを展開する。この場から長距離砲撃で支援しよういう考えだ。あまり使い慣れていないが、威力は高く直撃させずとも爆風でダメージを与えられる。

『十四班、超高速で魔法士が防衛ラインを突破。空母に向かっています』

「後ろに。私が相手をします」

「任せるわ」

 魔法士が突破、ともなると相手は戦略級クラスかただ回避が上手いのか。なんにせよ突破できる時点でそいつが高脅威目標だ。

 目を閉じ索敵魔法に意識を集中する紅月。

「……気配がない」

 突然空母の迎撃ミサイルが発射され、CIWSが一斉に向きを変える。対空砲が唸り水平線の上でミサイルが炸裂、対空砲弾が破裂し高速接近する目標への苛烈な迎撃が始まる。

「私では捉えきれません」

「厄介な相手ね……墜ちてくれるといいのだけど」

 CIWSが火を吹いた。一秒にも満たないバースト射撃だが一回で数百発、しかもその砲弾は途中で破裂、子弾を撒き散らす。当たる可能性の低い高威力一発より、高確率で当たる低威力を使って数で迎え撃つ。

「弾いた……あれは、レイジですか」

「レイジ君が? そんなことは」

 接触まで五十メートル。瞬きすれば衝突している、そんな距離でミサイルが突き刺さって吹き飛び、海面に叩き付けられ何度も跳ねて、そして沈む。確かに見えたその姿。

「レイジ君!」

「なぜこんなところに」

 飛び出そうとしたスズナを紅月が掴んで止める。

「離しなさい」

「ダメです」

 振りほどこうとしたスズナだったが、上空から降ってきたミサイルが海に落ち、レイジが沈んだ場所で爆発、水柱が上がる。

「そんな……」

「さすがにあれでは」

 ダメだろうと思えば、海面から飛び上がって急速上昇。飛んで来たミサイルに背を向けデコイを放ち、それでなおも追いかけてくるミサイルを撃墜。一瞬で音速を超え、爆音を轟かせながら離脱。

「彼は、あのようなことは」

「私を振り切ることはしてもあんなの出来なかったはずよ。レイジ君応答しなさい、レイジ君!」

 呼びかけには反応がなく、戻ってきたかと思えば迎撃機三機に追いかけ回されていた。

「レイジ君こっちに来なさいお説教よ」

「聞いてないのでは?」

「だったら帰ってからね。ミサイル受けても平気ならこれも大丈夫でしょ」

 レールガンもどきをレイジへ向けて魔力をチャージ、連射用意。

「撃つのですか」

「ちょっと前にアカモートで私がブチ切れたときにねぇ、かなり撃ち込んで怪我すらしなかったんだから大丈夫よ」

 高周波ノイズが散って、キィィィンと高い音が聞こえる。射線上に魔力のレールが引かれ魔法詠唱を妨害、移動先を狙い偏差射撃。避けられた。

「掠りもしませんか」

「何よいまの動き、あんな瞬間的な加速見たことないわ」

 リベラルの戦闘機が飛来し迎撃機に食い付き追い払う。すでに護衛艦や周りの防御は破られたようだ。

「各班状況を報告しなさい」

『こ、こちら一班、隊長が死んで――』

 叫び声がして通信が一度切れ、再度接続される。聞こえてきたのは知らない男の声。

『こちらはフリーダム。セントラ、及びその協力関係にある傭兵達へ告げる。これ以上の抵抗は無用な死を招くだけである。直ちに武装を解除し我らに帰順せよ。繰り返す――』

「降伏勧告って……そんな」

「クレスティア、撤退しましょう。嫌な感じがします、敵は」

 その瞬間、ブレイクを受け紅月の補助具が緊急自動詠唱。鎧がパージされ剣と盾の重量を支えきれずに手放す。

「なっ」

「とりあえず死んどけ」

 刀を持ったレイジが不意に現れ、障壁で弾くが斬られた場所からボロボロと崩れる。

「紅ちゃん離れなさい」

 もう遅いと。気付けば辺り一帯に白く輝く結晶が降っていた。神力結晶だ。魔力が消えていく。

「あなたは、なぜ」

「抵抗するな。下手に切れると痛いだけだ。そう、動けないから抵抗は出来ない、いいな」

 身体が動かない。何をされたのか理解する時間もなく、白刃が首に――

「へいっ!」

 届くその刹那、リコが真上から刀を踏みつけた。

「いただきました、三十億円」

 ピンを抜いた手榴弾を投げつけてくるが、レバーが弾け飛んですぐにキャッチして胸元に押し返す。

「……円?」

「あわわあわわちょっ、死ぬっ、ヤバッ」

 慌てて遠くに投げて炸裂。破片が飛んでくるが痛い程度に終わる。

「うわぁーもうっ、焦ったぁ……あっ、で、……今のなし。いただきました、三十億ガルド」

 悪びれもせずに腰に付けた手榴弾に手を伸ばすが、ポーチの封が外れない。

「今更通貨単位言い直しても意味ねえよ。お前今、円つったな」

「言ってない。言ってないよそんなこと。円なんて単位しらない、しりません」

 柄を捻って刃を真上に、振り上げた。

「うひゃいっ!? 斬れるよ!? 刀って鉄板斬れるんでしょ! 人の体も……」

「浅かった」

 回避したつもりが服が切れて、白い肌に血の筋が浮かぶ。一ミリも入っていない、ほんの少しだけ皮膚が切れた。

「……えっ、マジ」

「選べ」

 海を指差して。 

「飛び込むか」

 刀を構え。

「斬られるか」

「……どっちも嫌ですが」

「じゃあ、動くな。もう動けないが」

 時間を止めたように固まったリコを避けて、レイジは紅月の首を突き刺す。致命傷を負わせた途端、光の粒子になってその姿は拡散して跡形もなく消え去る。

「レイジ君、どうして」

「とりあえず、退場願おうか。守り切る自信がないんでな」

 躊躇いなく、スズナに刀を振り下ろした。



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