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セントラ南部戦線【Ⅲ】

『フリーダム01から全部隊、作戦概要を転送する。二十分後に行動開始、バカ共を一掃するぞ』

 大部隊に混じって、作戦概要に目を通すレイジ。木の洞を使った長距離転移がなぜか出来ず最高速で大海原を突っ切っていれば報告にない大部隊に遭遇、なぜか混じっていた黄昏の領域の所属メンバーに捕まって強引に参加させられていた。

「ルティチェからイリーガルへ、ルティチェからイリーガルへー」

 かなり危ない速度で僅か五センチの距離。障壁があるとはいえぶつかるとただじゃすまない。

「背中にひっついて言うな。なんだ」

「んとねーフェンリアからさっき通信あったんだけどー、ブルグントに大規模召喚魔法の準備有り呼び出されるのは神格級かそれより上だって」

「……で、こっちも同じで潰しましょうってか。向こうはフェンリアがやるのか」

「いや? なんか北極の召喚ゲート開いたから潰しに行くって」

「また面倒くさそうなことを」

 さっさと終わらせてセントラに行こうと思っていれば、今度はアカモートのプロトコルで着信。

『アイズからイリーガル。救難要請は受け取ったか』

「受け取ったが厄介なことに巻き込まれた」

『ラバナディア側の召喚ゲート破壊なら任せる。こちらはセントラ側の召喚ゲートを叩く』

「一時間以内に終わらせて救助に向かうのは可能か」

『無理』

「だったらいい。そっちは任せる、必要ならアイギスを呼べ」

『了解。ただクロードとキサラを連れているから必要ない』

 通信を切って、改めて見渡す。FCフリーダムから四十人、総指揮は彼らが担当する。各個人が戦闘機の編隊と同程度で数人の召喚士も混じっている。そこから視線を横にずらせばFCリベラルの航空部隊。主力は重攻撃機。その後ろには大型給油機、エスコートには小型の無人機部隊が随伴する。

「三月兎が居ないけど……」

「ラビットならアーサーに喧嘩売ってるよ。どうせ近づく前に長距離砲で返り討ちだろうが」

 そんな話を聞いたレイジは、そもそもFCアーサーシステムズのメインランド持ってくれば一方的に射程外から攻撃できるのにと思う。

「ルティチェ、あそこって射程どんだけあるか分かるか」

「半球は射程内で有効射程は……結構長かったね」

「あれもあれで抑止力だよな」

 下手なことすればいきなり首都を吹き飛ばされる可能性がある。浮遊都市がなぜ独立を保てるのかと言えば、それぞれが厄介なものを持っているからだ。アカモートで言えば世界有数の災害級魔法士、フリーダムで言えば一騎当百が当たり前の自由人が多数など。

「フェンリア出せばすぐに片付くのに」

「あいつを出したら赤字確定なんだよ……」

 しかも魔法も全力で使うだろうから一発で常識外れの量を消費して、同時に反動で世界に大きな傷を付けてしまう。

「クローンボディで動くのは許すのに?」

「本体をこっち側に召喚したらそれだけでリチャージに何年分かの魔力使う」

「そりゃ出せねーわ」

「それに黄昏の領域の防衛に居てもらわないと帰るところがなくなるし」

『フリーダム01からアイギス。そちらのまとめ役は決まったのか』

「イリーガル」

「お前がやれよ」

 他の仲間からも無言で圧力を掛けられ、ルティチェに視線を向けるとヤだね、と。近くを飛ぶ管制役も首を振ってあんたがやれと手で合図してくる。

「なんでだよ……。フリーダム、こちらアイギスのイリーガル」

『フリーダム01からイリーガル、賞金三十億のホットドガーが指揮官とは』

「御託は要らん。概要は読んだが侵攻ルートの子細、それと無力化とあるがどの程度までやっていいのか教えろ」

『情報を更新する。三方向から同時攻撃を仕掛ける、フェーズは合わせるがその間は各勢力の判断で行動、無力化は言葉通り何も出来ない状態にすれば拘束しようが殺害しようが構わない』

「生死確認出来ない地形ごと吹き飛ばすなんてのはいいのか」

『可能だ、とかく目標は召喚ゲートの破壊と再展開を不可能にすることだ』

「了解した」

 さっと見回してメンバーを確認する。管制が三人とイリーガルを含め戦闘要員が五人。主力メンバーが居ないが、なんとかなるだろうと思う。主力でないからと言ってここの基準で評価すれば弱いわけではないし。

「……風の流れが」

『フリーダム01から全部隊、急で悪いが予定変更だ』

「イリーガル、やるか」

「しかないだろ。各自、戦闘用意」

 管制一人に二人がつく形で、イリーガルはルティチェと組む。

『二分後に雲が切れる。早期警戒衛星に見られちゃ低空飛行も意味がない、作戦開始時刻を繰り上げる』

「おー来た来た、データリンクのプロトコルくらい揃えて欲しいよー」

「ルティチェ大丈夫だろうな」

「だいじょぶー変換は間に合ってるし余裕はあるからいける」

「イリーガル、長距離レーダーの電波確認。まだ反射で探知されないけど水平線超えて探知される」

「はぁ……嫌だな。見つからずに近づいて一気に仕留めたいが無理そうだし。コール割り当て01から03、ルティチェ後は丸投げだ」

「なーんでー」

「指揮なんてやり慣れてない」

 背中を摘ままれて思い切り力を込められる。

「……えっ? 痛くない?」

「そのくらいなら慣れてる」

「面白くないの」

『前方、長距離レーダーにセントラ艦隊を確認』

「こっちも捉えた」

 共有された情報がマップに表示される。なんでこんな所にセントラの艦隊が展開しているのかと疑問を抱くが、その中に白き乙女のIFFまである。

「アイギス01から報告、敵艦隊に白き乙女を確認」

『リベラル01了解』

『クラスは確認出来るか』

「月姫……戦姫クラスだ、所属は如月隊。リベラルは近づくな、航空機の機動力じゃ墜とされる」

空母キャリアからインターセプターの離陸を確認。マーク』

「もう気付かれたか」

「いやぁ……黒妖精じゃない?」

 マップがどんどん更新されていくが、さっきまで居なかったはずの黒妖精の一団が艦隊の近くに出現していた。

『セントラ艦隊がミサイルを発射』

「そっちはいい、正面に集中するぞ」

「アリス高速接近」

 艦隊中央部からマップに出現したブリップは青、味方としてマークされている。高速ミサイルでも振り切れるほどの速度で黒妖精の団体にアプローチして突き抜け、数秒遅れてブリップが複数消えた。そのまま大きく旋回し再アプローチ。逃げ始めた黒妖精がこちらに向かってくる。

「何余計なことを……」

『BFF接近、警戒』

「チャフ? 撒いてるね、レーダーが通らない」

『アリスからレイジ、チャフ散布、少しは騙せる』

「ついでにセントラ艦隊沈めろ」

『ミサイルがもうないし今回レーザー積んでないから無理、ちょっと空母で補給するから沈めないでよ』

「あーはいはい、ルティチェ照準補助」

『ちょっとぉ!?』

「え……やんの?」

「予定聞いてないし知らん」

『いやややっもう燃料な』

 ラミネート加工されたカードを二枚、魔力を通して空に放る。発動するのは複製召喚、顕現するのは魚雷、狙うは正面に展開する艦隊の下、潜水艦だ。弾頭には発泡剤を詰めてあって、用途は対魚雷ではあるがスコールの改造品であり真下で受ければ護衛艦程度なら傾いて最悪沈む。大型艦でもスクリューを狙われると航行不能になりノイズも撒き散らすことから潜水艦からしても嫌な代物だ。

「さぁてと、こういう対艦戦はあまりやったことないんだ。頼むぞ」

「なんでそれ使うの……グングニル撃てば?」

「見られたくない」

「ったくもう」

『フリーダム01から全部隊、交戦開始』

『リベラル05、ECM支援開始』

『フリーダム02から――』

 始まったぞ、と。

 レイジは魚雷を投下して加速。味方を置き去りにして次々に魚雷を投下しつつ、高度を上げる。海面すれすれを飛んだところで近づけなければ防空砲やミサイルの攻撃範囲内だ。

『補助は』

「要らん、戦姫を潰す」

 迎撃機とヘッドオン。砲撃魔法を二つ発動し発射、回避されるが追いかけはしない。

『はーい……一人でいいじゃん』

 更に加速して艦隊に近づく。迎撃機に狙われる、輝く点が壁になって迫る。おかしい、弾が違う。そう認識して瞬発的な加速で横にスライドして回避。二十ミリ砲より大きい、三十ミリだろうか。

「なんだ……データベースの兵装と違うな」

 なおも接近、垂直発射されたミサイルがこちらを狙って、デコイを散らしてステルス状態へ移行。これ以上は七十六ミリ砲、更に近づけばCIWSから砲弾の嵐が飛んでくる。

「アリス、VLS搭載の艦隊はこっちに展開しない予定だったはずだ」

『知らないしそんなこと。だいたいユニット交換式になってるから取り付け規格が同じ砲とかすぐに入れ替わる』

「嫌だな」

 キラッと、反射光が目に映る。狙われた、通信波で気付かれると分かってはいたが早い。即座に回避行動、現行のレーダーは昔とは違う。普段は耐久性や電力消費の関係上使われることはないが、数キロ範囲内なら生身であれば焼き殺される。ECMに対抗するのが面倒になったからと、愚直に高出力レーダーでぶち破るなんてことを誰かさんが実行したが為に採用されてしまっているのだから。

『射線予測、降下』

 真横へのブーストをキャンセルせず続けて下方向への加速。身体の中がグチャグチャになるような感覚を覚えながら、飛んでくる砲弾を見た。距離があるから到達まで数秒の猶予がある。

 ほんのさっきまで飛んでいた空間に砲弾が飛来し、炸裂する。お返しに撃ってきた空母へと砲撃するがCIWSに撃ち落とされる。

『あっのー着艦したいんだけどー……海水浴したくないんだけどー……』

「知らん」

『うえぇぇぇぇ……恨むぞー』

「勝手にしろ」

 ステルス状態を解除して派手に低コスト射撃魔法を十二連展開して狙いを付けずに撃つ。集中砲火を喰らうかと想定していたが、迎撃機がミサイルを撃ってくる程度だった。が、たかが数機が数発のミサイルを撃ったところで低速射撃でも十二連、充分に弾幕として機能して撃ち落とす。

『アイギス01、先行しすぎだ』

「独断でいいんだろ」

『だからといってそんな危険な行為は控えてくれ』

 フリーダムが別方向から仕掛け、砲火の重圧が拡散していく。つまりはフリーダムの中でも低ランクの戦闘員だということだ。データベースで読んだ情報では、フリーダムの召喚士は一人で戦況を塗り替えるらしい。戦艦だろうが召喚獣で瞬く間に排除するとか。

 とか思っていれば、護衛艦の下に巨大な陰が浮き上がり、海から触手が飛び出して引き摺り込んでいく。

「クラーケンか」

「バハムートも出たぞ、あそこ」

 少し後ろを見ると迎撃機が追いかけ回されていた。

「翼のあるトカゲか、紅龍隊に墜とされる程度のもんだな」

「例外を出すなって」

 追い付かれ、鋭く巨大な爪で機体を引き裂かれ、ベイルアウトすれば羽ばたきに吹き飛ばれブレス攻撃で焼き払われる。

「レイズの契約してるバハムートよりはかなり劣るな。あの程度じゃ」

 護衛艦の主砲が直撃してよろめいたかと思えば、海からミサイルが飛び出て命中、半身が砕け散って崩壊、魔力の残滓が宙に溶ける。

「ほらみろ」

「んで、イリーガル。来たぞ本命が」

 空母から剣を持った女が上がってくる。白き乙女の月姫、一般的に言うところの戦姫クラス。

『フリーダム08、戦姫と交戦に入る』

「アイギス01からフリーダム08。こちらに任せ他をやれ」

『あんたにだけ手柄をやれるかよ』

 魔法による撃ち合いはなく、接近して衝突した。何度か弾き合ってフリーダムは海に叩き落とされ、雷撃が撃ち込まれ決着。

「露払い任せた」

「しなくても巻き添えで消し飛ぶだろ」

「まあ、な」

 パワーダイブ。

 あちらも加速して上がってくる。

 高速誘導魔法弾発射、しかし命中しない。反撃に射撃魔法を受け加速、回避行動、そのまま後ろに着かれる。進行方向への加速を維持したまま反転、射撃魔法の嵐を放つ。当たらない。

「さあて……嵐の姫様相手に」

『ハードポート!』

 言われて反射的に動くと砲弾が通り抜けた。

『ふざけてないで真面目にやれ!』

「はいはい」

 さてどうしてやろうか。最悪は竜巻で辺り一帯制圧されてしまうだろう、レイジの流体制御では対抗できない。なんとか使える魔法士とその専門がぶつかれば小細工なんて通用しない、力でねじ伏せられる。




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