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冬【Ⅴ】

 十二月二十日。

 ネットのニュースを流し読みしていたクロードは、先日潰したセントラの構造体の記事を見つけた。アカモートとフェンリルの奇襲を受け壊滅。それはそれでいいのだが、終わった後にフェンリルが一切の追撃を受けずにのんびりとデータをサルベージして撤収したところを見るに、何かしら取引があったのだろう。

 まあどうでもいいかと、情報を適当に流していればセントラで新型機が無人機部隊に撃墜されて大騒ぎになったとか。無人機部隊、ちょっと検索してみればアリスの部隊だった。何やってんだか。

「さ、って」

 時計を見れば良い時間だ。警備隊の詰所に向かい、壁に掛けてあったグレネードランチャーに焼夷弾を込め、メインタワーを登っていく。広域警戒管制部隊へ出向中でありながらレイア不在のためにやることがなく、毎日メティサーナとドタバタしてからサボり場所にいく。捕まったらまた面倒な戦闘に放り込まれるだけだ。

「よお、今日は何するんだ」

 いつも顔を見る騎士は日に日に装備を増やしている。

「今日は燃やすぞ。消火は任せた」

 メインタワーの警戒に当たる騎士へそう言うと、いつも通りの時間にエレベーターに乗って、最上階手前で降りてさらに階段を登ってアカモート代表の部屋へと足を進める。

「さぁてやりますか」

 ドアを蹴り開けメティサーナが眠るベッドの真上、天井を狙って引き金を引く。ポンッと間の抜けた音がした一瞬次には、天井で焼夷弾が炸裂し、改良型焼夷剤が飛び散って部屋が火の海に早変わりする。かなり改良してあるため、水を掛ければ爆発してさらに被害を増すし、泡で窒息消火を狙おうにも酸素も燃料も大量に混ぜ込んであるから効果はなく、冷却したところで氷点下数十度でも燃え続ける。使用禁止兵器の一覧に載っている代物だ。

 が、瞬間的に障壁が張り巡らされ、空間転移で焼夷剤は遥か彼方の海に飛ばされてしまう。

「なんてことするのよ!」

「チッ、ダメか」

 ここ最近、あれやこれやとやり過ぎたからか何も通用しなくなってきている。

「ダメか、じゃないの! 火事になったらどうする気よ!」

「いや消せるだろ」

 至極まっとうな意見だ。メティサーナなら停止結界とか断界障壁とかで封じ込めてしまう。

「まあ起きたらおめーの仕事しろよ。俺は手伝わないからな」

 机の上にある書類の山をさっさと片付けろ。電子的なものなら他の事務員がやるが、魔法が絡む紙媒体は不用意に触ると爆発したりするからメティサーナがやらないといつまでも終わらない。

 仕事を押しつけられる前に廊下の窓から飛び降りて飛行モードに移る。今日はどこでサボろうか。メインタワーの屋上はもう使えないし、浮島の下層部や機関部も最近監視がきつくて入れそうなところが減っている。ともなればしょっちゅう侵入者がいるメインランドの下層部。船の荷物を積み卸しする区画なら、と。ピピッとバッテリー残量が減ったことを知らせる音が鳴る。

 着地し、外縁部から飛び降りて転落防止の〝受け皿〟から下を覗き込む。通常航行モードだからコンテナの整理でもしている様子が見えるだろうと、そう思っていたが白月がこっちを見上げていた。

「…………。」

 ついてねえよと思う。ギアの充電を忘れていたのが仇になった、今戦闘機動なんかしたら数秒でバッテリー切れだ。

「フラン、ちょっと時間あるか」

『忙しい後にして』

「リィン不味いことになった支援を――」

『すみません中佐の後始末で手が離せないので他に行ってください』

「ナイトリーダー悪いが――」

『龍とやりあってる邪魔をするな』

「チクショウ」

 チクッと刺すような感覚を捉え、後ろから来ると判断。飛び退くと空振りした白月が地面に激突する。

「どうして避けるの?」

「むしろ捕まる理由がねえ」

 瞬間的に引力をカットして飛び上がり、外縁部の手すりに掴まって見下ろすと拘束魔法が飛んで来た。手をパーカーの袖に引っ込めて振り払う。直接触れなければ、このパーカーがあれば大抵の魔法は無効化できる。

「ったく、めんどくせえ一日だよ」

 備えよ、常に。スコールにそう言われたのは覚えているし、今回は対策している。シェイプシフターに対して有効な攻撃方法は、その答えは、今目の前にいるやつに対しては魔法攻撃か電気だ。

「次、俺に触ったらただじゃすまないぞ」

 言ったそばから。

「いただきま――」

 飛びかかってきて、もう知らんと拳を突き出す。

 触れた瞬間にバチィッと音が響いて、痙攣しながら白月が落ちた。

「……念のために」

 首を掴んでもう一発、バチィッと音が響く。小型バッテリーから多段昇圧回路を経由して高電圧を放っているだけだが、どうにも自作ではスコールの使っていたものには敵わない。理論上では限界がないが、構成部品が耐えられず、それが限界を作ってしまっている。しかも多段昇圧回路を重ねすぎると途中でドロップしてしまう。

 とりあえず白月を沈黙させたクロードは処理班に連絡してさっさと逃げた。起きない保証はどこにもないし、一度使った手段は対策される可能性が高い。


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