桜都国【Ⅹ】
翌朝。もろもろの処理を終えて時計を見れば五時を過ぎていた。帰ってこないレイジと紅月を心配して電話をかけるが通じない。魔法通信も応答がなく、しかし様子を見に行こうにも場所が分からない。桜都国から出撃要請が来ていないあたり、そこまでの戦闘には発展していないと言うことだが帰りが遅すぎる。
そう考えていれば、ドタバタと廊下を走る音が響いた。
「寮長! 寮長大変です!」
ドアを叩く音に、まだ朝早いから静かにして欲しいと思いながら出た。
「どうしたのカミタニ君」
「外に、とにかく外に来て下さい!」
それだけ言うと慌ただしく走り去っていく。何があったのか、また面倒なことだと嫌だなと思いながら玄関から出て行くと、その光景にスズナは固まった。
リコが血だらけでハンドカートを引っ張って来ていて、それにはレイジと紅月が乗せられていた。二人とも意識はなく、紅月は手足がおかしな方向を向いている。レイジは、右足が爪先から太股の付け根まで裂けて左手は腫れ上がってだらんとしていた。何度か見たことはあるが、骨をぐちゃぐちゃになるまで砕かれていたのと似ている。
「今回はお金請求しないから早く手当して。……固まってないでさっさとしろよ!」
リコに怒鳴られて、思考が動き出したスズナはすぐに寮の中に入って治癒担当を叩き起こして引っ張り出してくる。
「うっひょぉこれ酷い……」
「治せるかしら」
「橙月がいないからやるだけやるけどさぁ、ちょっと、レイジ兄さんは厳しいかもしんないよ」
いつも危ない薬品を扱っているだけのように見えて、支援に徹するからか後方での治癒手伝いで経験をしていたのがよかった。すぐに大広間に運び込んで治癒魔法と薬品で傷の〝仮止め〟をしていく。出血した分は紅月は輸血でどうにでもなるが、レイジは違った。血液型がおかしい、どれとも一致しない。少し値が張る万能血液を試してみるが、拒否反応が出てしまって使えない。
「レイジ兄さーん、聞こえるー? 聞こえたらなんか反応してー」
瞼を開けライトで照らすが反応がなく、呼び掛けてもなんの反応もない。もう危険域に飛び込んでしまっているのに、まだ息があるのが奇跡だと言える。
「どっかの病院で受入はースズナー」
「紅ちゃんは第三基地から許可が出たけど、レイジ君は拒否されたわ」
スズナは泣いていた。拒否された理由は今までやったことを考えろと言われたが、だからといってそんなことで医者が患者を見殺しにしていいのか。
「あー……仕方ない、いっちょやったりますか」