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航空プラットフォーム【Ⅳ】

「I have」

 意識を手放しかけたリジルはリデルの声を聞き、操縦桿から手を離した。下半身に力を込め、血がなるべく上半身、とくに頭に残るように踏ん張るが大Gの旋回に振り落とされる。

 次に目が覚めたのは雲に突っ込む寸前で、目の前に敵機が舞い込んで反射的に操縦桿を握り、トリガーに指をかける。一瞬のうちに百発が放たれ敵機を砕く。

「リデ、ル……状況」

「戦域離脱。ザリガニ野郎は溶けた、他の連中も逃げたし振り切れなかったらヤバい。……割とマジで」

 バイザーに表示されている武装情報には残りは二百発の機銃弾、ミサイルは撃ち尽くしレーザーは冷却中であり同時に電力のチャージ中。アフターバーナーをムチャクチャに吹かしたのか残りの燃料も少なくエンジン警告もついている。

 雲から出てレーダーを確認。広域レーダーのレンジ内に敵機がいないことを確認して、機体を目視で確認していく。あちらこちらに被弾した後があり、微かに煙が出ている。

「機体は」

「なんとか飛べる。制御変更したからエンジンも一応いける」

「燃料は足りるか」

「メガフロートまでならなんとか」

「だったら制御は任せる。メガフロートへ――」

 突然、警告音が鳴る。

「なんか来る」

「方向は」

「分からない。いや、見つけた。セントラ……機? なんだろ、こいつ」

「データベースに登録は」

「あるけど詳細不明」

 アンノウンはまっすぐにこちらへと向かってくる。戦闘出力なのかかなりの速度だが、火器管制レーダーの照射はない。

「だったら敵だ、回避」

 旋回しつつ降下して速度を稼ぐ。するとアンノウンも進路を変更、追ってくる。

「やる気か?」

「ゲート反応、来る!」

「っ、帰還用のゲートは使えないのか」

「試験用だから片道だけだって言ってた」

「仕方ない、海水浴になるが、やるぞ」

「嫌だよー」

「そう言うな、探知できてるなら任せた」

「オッケー回転するよ」

「後ろか」

 座席にしがみついた途端に機体が百八十度ターン。意識が持って行かれそうになるが、耐えて、そして空間の歪みから飛び出した戦闘機が一瞬で砕け散るのを認識した。二百発の機銃弾が叩き込まれ機首からキャノピ、エアインテークが砕けエンジンから火を吹いたかと思えば爆散して散っていく。

「もう一機来る!」

 ピッチアップしてひっくり返るとロールして機体を元に戻し、加速。

「今の、この前の新型か」

「中身多分それ」

 墜落していく残骸へ目をやると、コアユニットになる小型機が爆発しながら落ちていくのが見えた。最初に戦ったときは撃墜したと思って油断していると、大型機とも思える外殻を脱ぎ捨て中から小型機が出てきて、突然のレーザー攻撃に焦った。今回はその中身までも破壊した訳だ。

「次は」

「捉えてる、レーザースタンバイ、やれる」

 マーカーを頼りに首を動かせば後方二十キロ地点から急速接近してくる。

「抜かるなよ」

「レーザーがあればシーカー焼いてミサイルなんか余裕で落とせる」

「シーカーがそれだけならいいが」

 キラッと何かが光り、リジルは反射的に操縦桿を握りピッチアップ。

「なに」

「気付け!」

 距離二百メートルでミサイル警告。二百メートル。直撃してもおかしくない距離まで近づかれてようやくリデルは気付いた。ミサイルはそのまま突き抜けることなく、一瞬前まで機体が存在していた場所でエンジンの排熱を感知して爆発。飛び散った破片が機体に襲いかかり、同時に散らされた子弾の一つ一つがレーダー照射、ロックオンしてきて炸裂。

 翼とエンジンが砕け燃料漏れの警告と同時に出火。一発はキャノピを突き破りリジルに直撃した。

「クッソが!」

 意識を刈り取られたリジルが握る操縦桿の入力信号をキャンセルし、リデルは機体限界の性能で敵機を正面に捉えると最大出力でレーザーを照射。彼方で敵機のキャノピが溶けたのを確認して、まだ動くうちにメガフロートへと進路を変更。救難信号は出さなかった。探知して敵機が飛んでくる可能性があるからだ。

「起きて! ねえ!」

 機内のカメラ、リジルの視線や動作を見るためのそれには、バイザーの内側が赤く染まって力の抜けたリジルが映っていた。


 ---


「白き乙女、臨時オペレーター、レイジからタワー」

『こちらタワー。来訪の予定は聞いていない』

「近場で交戦した。試験機と共に着陸、補給を願いたい」

『着陸は許可する。誘導に従え。補給は白き乙女と連絡が取れ次第追って連絡する』

「了解した」

 警戒網の内側に入ってからすぐに警告が飛んでくると思っていたが、目視確認できるまで近づいても何もなくこちらから通信を入れた。最前線なんだから近づいてくるものはメガフロートの所属以外はすべて疑うべきだろう。

「アリス、着陸してもエンジンはそのままだ。いいな」

『分かってる。これが本物だって保証はないし』

 誘導に従ってアプローチを始めると、とんでもない通信が飛んで来た。

『スカイリーク2よりタワー。そいつらは偽装した敵だ、すぐに叩き落とせ』

『タワーから白き乙女レイジへ。所属を明らかにせよ』

 アプローチを中断して上昇。白き乙女に登録してある正規の情報を転送する。途端に通信回線が閉じられ火器管制レーダーの照射を受ける。

『やる?』

「面倒だ、一撃で沈める」

 オープンチャンネルに切り替え。

「直ちに武装を解除し我らに帰順せよ、返答な――」

 言い終わる前に対空砲が放たれ、砲弾が飛んでくる。回避機動。

「アナリシス、シンセシス」

 呼べば、その手に白き輝く剣が顕現する。

「防御条件通常、延長線上を海面下五メートルまで切断」

 指示を出し、思い切り振るう。数秒遅れて、漏電だろうか、激しい光が弾け爆発が連続する。

「条件そのまま。空中へは三キロ先まで切断」

 離脱していく航空機や艦船へ向けても振るう。鋒で描かれる不可視の線に触れたすべてが切断され、そのすべてが継戦能力を失っていく。あちらこちらから魔法が撃たれるが、届く前に切断し、すり抜けたとしても展開される防御障壁が受け止め無効化する。

『何それ、初めて見たけど』

「こいつらの能力だ。アトリがいれば最高火力で溶かしてもいいが、嫌がるからな」

 一分もしないうちに防衛戦力を黙らせ、メガフロートの表層部の使えそうな整備庫を見つけ降りて行く。

「VTOL機能は」

『破損無し』

「そのまま降りろ、燃料はそのエンジンなら大丈夫だ」

『分かった』

 加速してメガフロートの残敵を上空から切り刻み、着地と同時に整備員たちを見境無く始末していく。ここは敵の基地だ、生かしておく理由はないと判断し戦闘員、非戦闘員問わず排除していく。戦時国際法なんてものがあるが、そんなものは今のレイジには守る気なんてさらさらない。

 制圧を終えると整備庫に駆け込んで給油用の設備を引き摺り出してスタンバイ。アリス機が着陸してアイドリング状態に落ち着くのを待たず、開いた給油口にホースをつないでホットフュエリングを開始。ホースには通信線がある、後はアリスが制御するだろうと目を離しハンドリフトで給弾設備を引き摺り出し機体下に押し込んで接続、レールに砲弾を押し込むと自動的に装填されていく。約二千発を手回しで送り込む旧式なんてのは今頃では見ることがない。

「ミサイルは何がいる」

『マイクロミサイルのポッドがあればそれ、ないなら中距離十二発』

 整備庫を見ればちょうどあった。引き摺り出してハードポイントに取り付ける。さながらF1のピットのように高速で簡易補給を一人でこなしていく。

 燃料の圧送が止まり、切り離されたホースを乱雑に脇に放り投げ、装填が終わった給弾設備も車輪のロックを解除して蹴る。そのまま海に落ちていくが気にもせず、空に飛び上がりアリス機も続く。

「制御系はいいか」

『問題なし』

「このまま桜都まで飛ぶ。追っては任せる、すべて排除しろ」

『分かった』

 沈むメガフロートの上空で敵機を捉えたアリスは、インターセプトのため飛んでいく。

「近場、誰かいるか」

 桜都の方角を確認して飛びつつ、黄昏の領域の所属へと連絡を取る。海の上なんていう、目標物が何もない場所では補正がしづらく、またズレた空間に引き摺り込まれると困る。

『ルティチェからイリーガルへ。観測範囲内に捉えた』

「周辺に敵、或いは不明は」

『いない』

「味方」

『後ろにアリス、前からは白き乙女の飛行機が二つ』

「何か捉えたら逐一報告。これはそちらの観測範囲内から抜けるまで継続する」

『りょーかい』

 不安が残りまくりだが、誰もいないよりはマシだ。少なくともアリスの警戒範囲よりも狭く、レイジの識別解像度より少し上を行くくらいだから単独よりは警戒範囲が広がる。

 障壁の出力を上げ、酸素を確保して高度を上げる。薄い雲の上まで上がって、そしてルティチェを視界に捉えた。雲上、だが千メートルまでは上がっていない。

『なーんもないよー』

「だといいが」

 警戒したまま、それは海が夕焼けに染まる頃に見えた。

『大きいのが出た』

「……出た? 転移か」

『あれ、なんか増えてる、すごい速いの飛んで来る』

「ルティチェ退避しろ」

 減速し空中に留まると〝呼び掛け〟に応えた武装をすべて展開する。シンセシスとアナリシスを両の手に、残りは周囲に侍らせ防御障壁と警戒として配置する。完全に顕現しているのは十本程度の剣、残りは透明なままで周囲を旋回。

「距離制限、威力無制限。すべて斬れ」

 夕日に照らし出され、遥か彼方の水平線に揺らめく暁目掛けて剣を振るう。あの巨体では回避機動を取ったとしても意味がないし、無人機を盾にしようともアナリシスはズレた場所まですべてを無慈悲に切り裂く。必中必殺の予定でいた。

 振り下ろし、上空の雲を切り分け海に彼方まで飛沫が散る衝撃を叩き付ける。振り抜いた勢いそのままに回転し、完全に同じ軌道で邪魔な魔力や物質が掃除されたコースで本命を振るう。

「…………弾かれた?」

 展開する武装の支援で見えなくとも認識できる。確かに鋒の延長線上に存在した無人機や竜機は破壊したが暁は何事もなく飛んでいる。

『フェンリアからイリーガル、ギアによる魔法障壁を確認。瞬間的な多重展開で逸らされた』

「で、そっちは」

 飛んで来た高速ミサイルがシンセシスの障壁にぶち当たる。

『海水固めて秒速九キロで撃ったけどデフレクターで無効化された』

「ちなみに一発かそれ」

『全方位から六千発くらい。魔力タンク背負って無茶してみた』

「なるほど、飽和攻撃でも意味ないのか」

 横合いから飛来したミサイルが割れ、青い魔力結晶が飛び出しシンセシスの障壁を貫通。すかさずアナリシスで叩き落とす。

『どーする? パターン解析出来たからもう墜とせるけど』

「だったらさっさとあのデカブツ墜とせ」

 迎撃ラインをすり抜けてくるミサイルはシンセシスの障壁で防いで、それを貫通してくる魔力結晶は叩き落として。そろそろ間に合いそうにない。

『盗った、終わり』

 途端にミサイルが急に軌道を変え真下、海へ向かって突っ込んでいく。忙しく迎撃していたからか当たりは爆発の煙に包まれていて、上昇してクリアな空気の中へ飛び出した。

 遠くに、水平線に沈む太陽とは別にもう一つ目を焼くほどに眩しい光があった。爆発しながら落ちていく暁とその取り巻きだ。

「フェンリア、それを造った術者を見つけて始末しろ。あんなもん複製召喚で量産されたら負けるぞ」

『分かってる。分かってるけどこっちも忙しいから』


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