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航空プラットフォーム【Ⅲ】

『リジルリーダー、雲の向こうに何かいます』

 メガフロートへ向けて飛んでいた彼らは、味方の制空権の内側だからと油断していた。動きの遅い大型機がこんな所にいるわけがないと。

『グラム4、何が見えた。レーダーには何も映っていない』

『赤い翼のようなものが見えましたが』

 この距離で翼だとはっきり分かるほどの大きさなら、レーダーから逃れられる理由がない。それに周囲には完全に姿を消した味方機が飛んでいる。そいつらのカメラと多角的な警戒網に映る。

『……リデルから各機。敵影確認、暁級飛行空母一と武装竜機二、補給竜機四。艦載機は推定二百機。アクティブステルス状態で全方向への電波妨害と光学迷彩を使用しているものと思われます』

『俺が足止めする。隊長たちはメガフロートへ向かって下さい。リデル、いけるな』

『えぇ……やるの、武装が』

『スートがいる。俺たちだけじゃない、行くぞ』

 編隊からリジル機が離れ、虚空から溶け出すように出現したハート隊と合流して飛んでいく。

『リジルリーダー、いいんですか』

『大丈夫だ。あいつのことは本部から聞いている。なんせあのアリス機相手に喧嘩売って、大怪我して帰ってきたらしい。片翼もがれて自分はバイザー貫通した破片ぶっささったままで飛んでたってことだ、帰ってくるさあいつは』

『でしたら自分たちは生きてメガフロートに辿り着くことが大事ですね』

『隊長すみませんが艦載機すべてを引きつけることは不可能ですから後ろに気を付けて下さい』

 雲の山を迂回して飛ぶリジルは、まるで緊張していなかった。どんな敵だろうとリデルと一緒ならやれると考えていた。

「でかいな」

 二キロメートル級は初めてだ。セントラの保有する空中空母や月の勢力が開発中の空母なども情報では知っているが、それらとは比べものにならないほど大きい。他が複数階層に分けた構造なのに対し、今目の前に飛ぶ暁級飛行空母は龍を模した胴体とそこから伸びる長大な翼といった形だ。

「暁の無人空母仕様……アカモートで建造中って聞いてるけど、誰がコピーしたんだろ」

 その片翼には八十機もの無人機を固定し、補給や整備を行うロボットが行き来している。両翼合わせて百六十、内部にはまだ格納していて大量の武装や燃料がある。

「誰でもいい、墜とすぞ」

「仕様書読んだ?」

「読んでない」

「一旦離れて、すぐ読んで」

 ディスプレイに表示された暁の3Dモデルに次々と注釈がつけられていく。機体上面と下面に大量の小型レーザー、機首にはドラゴンブレスのコードネームで呼ばれる戦艦だろうが破壊するレーザー。そして機体のあちこちにマイクロミサイルのポッド、シールド展開用のギアと空間制圧兵器の数々。

 おおよそ空母が搭載する兵装ではないものばかりだ。自衛どころか単独で国一つ攻め滅ぼすことが出来てしまいそうだ。

「リデルならどう攻める」

「撤退。あんなのに勝てるわけない」

「この数で最適な攻撃をしてもか」

「そう。完全自立モードでの飛行ならクロードたちでも仮想から制圧するのは不可能。物理的にも、仮想からも攻略できない」

 リデルのシミュレーションではどうやっても不可能だと結果が出ている。だから、リジルの全く恐れずに勝てない相手に挑もうとする姿勢を止めようとする。

『だったら傷を付ける手本を見せてやる』

 撃墜する手本と言わない当たり、墜とせないのだろう。

「イリーガルか。手本とは」

『あんなデカブツで物理攻撃も魔法攻撃も仮想からの攻撃も無効化するときた。だったら物量押し、処理限界を超えた攻撃で叩くだけだ』

 センサーが大規模魔法干渉を捉え、退避しろと警報を鳴らす。リデルがおおよその範囲を表示するが、アフターバーナーを吹かしてやっと逃げられるほどの広さだ。

「そんな大規模魔法……使えたのか」

『まあな。さて、バラバラに出来るのかそれとも無効化されるか』

 望遠カメラで捉えたイリーガルは、術札も何も持たず、おはようからお休みまで通用しそうな、おおよそ戦闘をする姿ではない。暁の射程内でただ宙に浮かぶだけのそれは、的にしかならないように見える。

「雲の動きが変わった」

「風向きが一気に変わってる。これは」

『なんかいろいろ寄ってきたな……まあいい、まとめて』

「警告!」

「なんだ」

 急にディスプレイの表示が切り替わり、広域レーダー上に複数のアンノウン、そして気圧と風向きがおかしい。イリーガルが創り出した流れと反対の渦を巻く流れが暁を挟んで反対側に現れつつある。

「上空に退避だな」

「逆方向の二つの渦って……」

「……まさか、そういうことか?」

 スロットルレバーをぐっと前に押して出力を上げてピッチアップ。上を向けばすでにアリス配下の機は退避して旋回している。

「ステルス解除は威嚇か」

「そうだね」

「揺れるな」

「空気の向きが分からない」

「リデル、制御できるのか」

 エンジン回転を上げているはずなのに出力が下がる。

「右、吸気絞れ」

「ダメ動かない」

『ギアダウン、テストモードを起動して手動制御に切り替えろ。対策したがまたやられたな、帰ったら整備したやつら殺せ』

「こんなところでそんなことしたら制御が」

「やれリデル」

「っもう! どうなっても知らない、操縦任せた」

「任された」

 機体が揺れて速度が低下する。モード変更で設定値が強制的にオーバーライドされエンジン回転が固定される。

「吸気制御のシグナル書き換えられてた」

「対策できるか」

「無理。制御信号が改竄されてるし送られてくる信号もおかしい」

「直結したのにダメか」

「独立制御でモニター出来なくて前はやられた。今度は直結してもインターフェースの信号変換に細工されてやられた」

「どうしようもないな……」

『テストモードは受け付けたんだろ。だったらインテークの制御系にはテストモード実行中の偽信号流してやれ、飛べないよりはマシだろ』

「それしかないかなぁー」

「そのへんは任せるが、落ちるのはなんとか防げ」

「こんなとこで海水浴とか嫌だし」

 高度を上げ続けているとチカッと暁の機首が光る。ドラゴンブレスの予備照射、狙う先はイリーガルではなく嵐の種になりつつある渦の中心だ。

『なるほど、分かってるな』

 海面に照射して瞬間的に加熱、気化した水分が爆発して水蒸気へ向けて多数の小型レーザーが照射される。プラズマ化し、同時に散らされる大量の熱エネルギーが風を乱す。

『そこは想定の範囲内だ』

「むしろなぜお前が撃たれない」

「人間一人蒸発させる方が簡単なのに」

『無駄だと知っているからだ。ようは使っている偽装魔法までお見通しってことだな。さあ来るぞ、残弾考えて撃てよ』

「来る?」

「リデル、火器管制任せた」

 暁の両翼から切り離された多数の無人機を確認したリジルが操縦桿を握りなおす。翼の上で加速して飛び出すのではなく、翼の下にぶら下げておいて切り離し、落下して加速しつつ折りたたんだ翼を広げエンジンを強制始動。その方が早い。

「任された、代わりに操縦お願い」

「この前みたいに百八十度ターンで失敗されたら困るからな」

「普通あんな機動しないし!」

「アリスはやった」

「比べないでよ」

 バイザーに飛んでくるミサイルと射撃予測が表示され、それを避けるように飛ぶ。ミサイルも新型なのかレーダーで探知できず煙の尾を引くこともないから見えない。

『第三戦術旅団だ。注意しろ』

『聞こえてますよ。アリスはどうしました、突然消えましたが。まさか撃墜されましたか?』

『エクル准尉、今すぐにそいつを黙らせろ』

『そんなことよりどうしてここにいるんですか()()()工作兵』

『どうでもいいだろ。ちょっと手伝え、そっちのレーダーにバカデカイのが映ってるだろ。レールガンでぶち抜け』

『私たちの目標もそれです』

『だったらちょうどいい、さっさと墜とせ』

『命令しないで下さい』

 リデルが飛んでくるミサイルのシーカーをレーザーで焼き切るのを見ながら、イリーガルも自分に向かって飛んでくる妙なミサイルを注視して回避機動を取っていた。セントラでアリスが確認した未確認兵器だ。外見が違えど、そいつが放つ気配で分かる。

「上昇!」

「降下だ、速度を稼ぐ。指示した目標を撃て」

「違う、そのミサイルは空っぽ、牽制」

「それ補給したらまた撃ってくるぞ」

「あの無人機タイプのミサイル?」

『お前ら逆だろ』

「いいんだよこれで」

「そーそー」

 なんで把握、演算、予測能力で劣るはずのリジルがリデルを上回るのか。クオリア持ちのAIでも〝人〟の勘という、ノイズとして取りこぼすほどの微細な情報と無意識の高速演算が弾き出すそれは真似できないのか。

 同じものを見て違う認識をして異なる処理で対処、行動を決定する。

 ようは世界そのものの見え方の違いか。本質を見るのなら様々な方向から観測し、サンプリングしたデータを処理していくしかない。それだけでいえばリデルが秀でるはずだが、どこかでノイズや不要なデータとして切り捨てた何かをリジルは拾って参考にしているからか。

「私はリジルから学ぶ。アリスがあなたたちから学んだように」

『……まあいいけど』

 勝手にしてくれ。少なくともアリスみたいに少し煽れば乗ってくるほど喧嘩っ早い方向には伸びてくれるな。

「んっ……壁?」

「どこに」

『リジル、上空に何かいるな。見えるか』

 障壁を貫いて飛来する青い魔力結晶を回避しつつ、撤退していくミサイルもどきの無人機へ情報共有でマーカーをセット。エクル機が水平線の上からレーザーを撃って瞬時に撃墜する。再利用可能なフレームはさっさと破壊しておきたい。

「見えない壁が」

『RFFか』

「あれとは違うような気がする」

「何か来た。見えないけど多分戦闘機」

「どこだ」

 バイザーにマーカーが表示され、後ろを向けば何もない場所にターゲットボックスが表示される。タイプ不明のアンノウン。

『撃ちます』

 チカッと水平線の上で何かが光ったと認識した次の瞬間、焼けた鉄の色をした軌跡が空に焼き付いた。数秒遅れて轟音と押し退けられた空気の衝撃が飛んでくるが、イリーガルはそんなものを気にせずに舌打ちをした。

『命中……?』

 エクルが呟くが、実際はローレンツカノンの砲弾が空中で潰れているだけだ。衝突のエネルギーを散らさず受け止め完全に無効化してしまっている。

『デフレクターか。設計段階のはずだぞ』

『なんですかそれ』

 続けて多数のレーザーが放たれ空気中にレールを造り、プラズマ砲が放たれるがそれも受け止められ莫大な熱エネルギーを散らすのみとなる。

『ルージュマッドドガーのエネルギー装甲みたいなもんだ。仕様書通りなら通用する攻撃がない』

『そんなもの造れるはずが』

『断言するな、敵が不明なら技術力も不明だ。何が来るか分からんぞ』

「リジルからイリーガル、レーダーに映ってないがリオン隊を目視確認」

 五人編成の部隊が見えた。おかしい、聞いていた話と違う。

『分かってる。フェンリア、デカブツを落とせるか』

『あー……うん、突っ込む』

『面倒くさそうだな』

『この前ヘマして死んだのに生きてるのはどう言うことだーってうるさくて嫌になってる。あと子守』

『子守? あぁ例の』

『そーめんどーな……代わって』

「呑気に話してるとこ悪いけどリジルに余裕がない。撤退するから支援して」

 言われて目を向ければリジル機が無人機に包囲され逃げ回っていた。三機編成の部隊が複数群がって、放たれるミサイルは高機動多段ミサイル。一度回避しても再びロックして再点火して飛んでくる厄介な代物だ。リデルが次々に撃ち落としているが、ムチャクチャな機動をしている。あまり持たないだろう。

『イリーガル、指示』

『最上位はそっちだろ……まあいい、リオン、ミナ少尉を借りるぞ』

『どうぞ。ミナ少尉が自慢気に話すほどの方ですから、さぞかし有能なのでしょう』

『どうだかな。さて、フェンリアはそのまま突っ込め、可能なら暁の撃墜。エクルは無人機を墜とせ、リデルはレーダー情報をエクルに共有し防御に専念。リジルはそのまま持ちこたえろ、気を失うな』

 指示しろと言われたが現状どうしようもなく、出来ることをやれと言うしかない。

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