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嵐の前の静けさ【Ⅴ】

「どう言うことですか!」

 司令部に怒鳴り込んだスズナは、怒りで辺り一帯を極寒の凍土にしてしまっていた。水道管は破裂し溢れ出した水が積み重なり凍結し氷の迷宮を形作り、港では船が氷に捉えられ海底まで凍りついていた。そもそも、気温が自然現象下ではあり得ないほどにまで低下してすでにエンジンなどは割れてしまい、植物や生き物も姿を保ったまま死に絶え、司令部にいた人員は数人ずつが固まって断熱フィールドと加熱魔法で耐えていた。

「まずはその魔法を止めてからだ、クレスティア」

 言われて意識的に止めるが、それでも怒りは全く収まらない。スズナのスマホには三件ほど通知が届いていた。スコール、カスミ、レイアの三名のロスト。しかもスコールとカスミの二人は新設された制圧部隊によって、敵対行動を取ったためという理由でだ。ついさっき離反者についての話をして、そしてそう時間の経たないうちに、何の連絡もなくこれだ。

「なんで私に連絡なしに勝手なことを」

「こちらもなにも通達されていない。上に問い合わせているが危険分子を排除しただけで問題はないの一点張りだ」

「あら、そうなの」

 そっちがそう言うのなら、危険分子を排除するという名目で当該部隊を攻撃したところで問題はないと言うことになる。白き乙女という民間軍事会社は他の大手二社と比べて内部の指揮系統が少々違っている。それに階級に関係なく古参メンバーの方が色々と強い。独立した行動をする権限も持っているし、何よりも力がものを言う。

「私たち十二の部隊はそもそも従う必要がないの知ってるわよね」

「あぁ。全体が動きやすいよう敢えて私が司令として指示を出しているだけでな」

「勝手に動くわ。邪魔するなら氷漬けよ」

「了解した」

 怒りにまかせて勢いでそう言ってしまったが、いざ探し始めると全く見当がつかない。新設された部隊というのは分かっているが、どこの指揮系統にぶら下がっているのかが不明だ。十二使徒の権限では白き乙女のほぼすべての情報を閲覧できるはずなのだが、検索してもその部隊があることは分かるのだが、詳しい情報が出てこない。どこの基地に配属されているのか、今どこにいるのか、人員の個人情報までも一切不明。

 ヴァルゴに問い合わせてもネットワークに未登録という回答があるのみ。スコールの権限ならばヴァルゴの機能をフル活用してすべての監視システムを統合してすぐに割り出すだろうが、スズナの権限ではヴァルゴへの命令に制限がある。そもそも中立を謳うAIが個人に対して入れ込むことは滅多にないが、なぜか如月寮には好かれる者が多い。

「レイジ君なら……」

 電話をかけるが何度やっても繋がらない。今現在どこで何をしているのか分からない、どうにもかなりの数の命令を無視してあちこちで白き乙女の部隊と衝突しているらしいが、完全に敵として認められてしまった以上、もう会えないかも知れない。本気で隠れられたら見つけられない。

 どうしようかと、冷却魔法で一人涼しく、汗を流す人たちの流れの中を歩いていれば白き乙女の迷彩パターンが見えた。別に戦闘服を普段着にしても問題は無いし、余所もそれでやっているが問題なのは見えたその服にマークがなかったことだ。

 すぐに追いかけ、捕まえる。フードを深く被っている。魔法士だろうか。

「あなた、どこの部隊かしら」

「答える謂れはない」

 瞬間、姿が霞んで消えてしまった。魔法の気配はしなかったが、これが魔法でないというのなら異能の使い手だ。索敵魔法を、そう思い街中での魔法の使用は一部を除いて禁止されていることを思い出す。至る所にセンサーがある。魔法を使った犯罪は起こるが、使用したことが完全に記録される関係上、言い逃れは出来ない。

 すぐに都市警備隊が動けば感知はされていることが分かるが、いつもなら何かあればすぐにサイレンが聞こえるのに今日は聞こえない。つまりは感知されない術だと言うこと。

「あっちゃー逃がしちゃったかー」

 そんな声に振り向けば仙崎霧夜がいた。

「どういうこと」

「目立つから余所で話さない? 僕としても目立ちたくないからさ」

「そうね」

 炎天下で二人だけは涼しい顔して海沿いの道へと向かう。海沿いだから少しは涼しいかと思えば、逆にむわっとした海風を嫌がって人がいない。

「いつでも咲いてるねーここは」

「桜の都なだけあるわ」

「ザ・人間のエゴって感じだよねー。綺麗なのは良いけどさ、このためにかなりの数の虫とか植物を絶滅に追い込んでるし」

「センザキ君、そう言うこと話しに来たんじゃないでしょ」

「うん、まあそうだね。ブルグントからこっちまで飛んでくる途中でさ、白き乙女の部隊に襲われたんだけど、どう言うことかな」

「私もそれ聞きたいわよ。スコール君とカスミちゃんがやられてるんだから」

「それ、〝敵〟がもう中まで入り込んでるってことじゃないかな」

「そうだとしてもどうしてスコール君がやられるのかしら」

「うーん……ミナってば通常戦力には弱いから、銃撃受けたんじゃないかな? 流体制御でも貫通力のある弾とか質力の大きいのは防げないし」

「その程度でやられるかしら」

「術札がダメになってたらやられるかもね。奥の手はホントに不味いときしか使わないし、ミナの広域制圧魔法は僕がいないとまず発動できないからさ」

「聞いたのは初めてなのだけど、その魔法はどういうもの?」

「詳しくは僕も知らないから分からない。それより、今の状況ってどうなってるのかな。ベインと会えてないからさっぱりでさ」

「世界情勢は知らないわ。白き乙女は内乱ってところかしら」

「あーちょっと早めに始まっちゃう感じ? 手伝おうか?」

「だったらお願いするわ、手始めにさっき逃げた子を捕まえるわよ」

「そうだね――ってあそこ!」

 百メートルも離れていない場所にいた。フェンスから身を乗り出して海から何か引き摺り上げようとしているようだが。

「蹴り落として凍らせようかしら。海岸線って使用制限緩和されてるはずよね」

「あんまり派手なことしない方が良いと思うけどねー」

 走って距離を詰める。あちらは引き上げることに集中しているのか気付かない。

「何してるのかしら、あなた」

 後ろから声を掛けると、ちょうど引き上げられた誰かの手が見えた。そのままぐっと力を込めて、上がってきたのはずぶ濡れの女の子だ。洋上プラットフォームで取り逃がした女の子。スズナはアトリのことを知らないがアトリは知っている。

「あら、あなたはブルグントの作戦で」

「げぇっ」

 露骨に嫌な顔をされ、逃げようとした二人の行く先を氷の壁で塞ぐ。

「大人しく従いなさい。嫌なら氷漬けでどうかしら」

「うわー……超不利だし、無理これ」

「アトリー変なことしない方が良いよー? スズナ相手に炎じゃ意味ないから」

 キリヤはそんなこと良いながらもう一人へ向け拘束魔法の矛先を向けている。

「センザキ君、この子は誰」

「八條鴉烏。覚えてないかな、随分と昔に一緒に戦ってたんだけど」

「忘れたわ」

「そっかぁ……あれ?」

 聞こえた音に顔を向ければ、レイジがいた。

「何やってんだお前らは」

 その目に捉えているのはずぶ濡れのアトリと、キリヤの魔法に捕捉されている誰かさんだ。が、アトリはレイジを認識するなり刀を召喚し構え、赤熱させる。キリヤも補助具である杖を召喚し攻撃魔法を詠唱、発射手前で待機。

「あなたたちやめなさい!」

「スズナ、そいつらから離れろ、コピーだ」

 キリヤが魔法を放って、レイジが躱す。

「どーすんのこいつ」

「やっちゃっていいと思う。コピーでしょ」

 戦闘という形に持ち込む前に終わらせる。アトリが斬りかかり、キリヤが回避コースを潰すように魔法を放つ。躱される前提で次の手を用意すれば、刀が体を切り裂き魔法が吹き飛ばす。

「あっれ、もう終わり?」

 転がったレイジに刀を突き刺し、トドメを刺すとキリヤへと振り返る。

「程度の低いコピーだね」

 召喚魔法を内容未定義でぶつけてやると、レイジの形は崩れて魔力となって霧散する。

「ねえスズナ、見分け方は分かるよね」

 目の前で起きたことに驚いてはいたが、それがどう言うことなのかを理解して慌てるようなことはしなかった。

「……そう言われても分からないわよ」

「アトリは契約っていう繋がりがあるからすぐ分かる。スズナにもあるでしょ、繋がりが」

「繋がり……?」

「自分で気付いてよ、じゃないと意味ないからさ」

 コンッと杖で地面を叩く。それでアトリは冷たさに気付いた。

「あれ? なんで凍って……」

 くるぶし当たりまでが氷に包まれて動けなくなっていた。それはフードを被った誰かさんもだ。

「それとこれとは別だから。誰かな、そいつは」

「切り替え早すぎない!?」

「答えないなら二人まとめてこのまま放置。暑いよー? 真夏の炎天下で干からびるよー?」

「え、えぇー」

 スズナに助けを求めようと目を向けるが、そっちもそっちで冷却魔法をスタンバイ。

「嫌なら氷漬けよ? 暑いよりいいでしょ」

「よくないよ!?」

「それで、そいつは誰なのかな」

 聞かれたアトリは一瞬、顔を逸らして、そして口を開く。

「知らない」

「正直に言いなよ」

「さっきスコールが連れてきた変な奴、だから知らない」

「へぇーさっきって、いつかな」

 コンッと杖が打ち付けられ、膝まで一気に氷が這い上がる。

「冷たぁっ! うぇっ!? ちょっ!」

「言いなよ」

「そっちにアラート行ってるはず!」

「何も来てないわよ」

「嘘っ。だって月姫がほとんど……あっ、やっ……」

「どーゆーことかしら、それは」

「うぅぁあもうっ! いいよ言ったげる!」

 氷が砕け、アトリが一歩踏み出す。しかし途端にふらついて倒れ、動かなくなる。

「……どうしたの」

「嫌な臭いだ。治癒〝魔術〟は使える? 深いよ、これ」

 倒れたアトリの髪を除けると焼けた傷があった。骨まで露出するほどの深い傷だ。

「まったく、面倒なことになりそうね」

「治癒して如月寮に運ぶ。いいかな」

「いいわよ。私に報告がないのにうちの部隊で何か起こってるなんて嫌だもの」

「だよね。血液とか細胞の再生は天使の専門でしょ」

「専門じゃないわよ? ただ細かい事が苦手な魔法じゃくっつけるのが精一杯なだけよ」

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