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嵐の前の静けさ【Ⅳ】

「頭痛いぃ……」

 ロビーのベンチに寝そべり、冷えた缶ジュースを額に当てるカスミをスコールは見下ろしていた。まさかここまで耐性がないとは思わなかった。大抵は魔法を無効化してそれでお終い程度のもので、かなりの高出力でぶつけないと頭痛などを引き起こすことはないはずだ。

 ……それか無茶してかなりの数の魔法を使っていて、それを一気に壊された反動か。

「そんなん出来るならなんで如月隊で雑用やってんの」

 とか言われても、出来ますと言っていないから一部除いて誰も知らない。出来ると言えばやらされる、だったら給料減ろうが出来ませんで通す。戦姫クラスなら月収(仕事内容により変動で)百万を超えるらしいが、平均で見ると女性が六十から七十万、男性が二十五から三十五万程度。スコールの場合はなんだかんだやっているがだいたい十八から二十万の間で行ったり来たりしている。

「なんでだろうな」

「はぁーいいなー……色々出来るって」

「でも、器用貧乏よりはカスミみたいに特化している方がやりやすくはある」

「なにが。何でも出来る人の方が失敗してもすぐどうにか出来るじゃん」

「その失敗をする確率はカスミの方が少ない」

「そんなことないよー」

 むしろ何でも出来るが故にいろんな任務にアサインされて大して得意でもないのにやらされて失敗というのはよくあることだ。

「そう言えば、さっきの水弾、隠す方法は誰に聞いた」

「んー? さっき思いついた。スティールって触った魔法を奪うんでしょ。だったら触ってすぐって油断するだろうから、詠唱して定着するまでほっといた水弾包んで撃ったらどーなるかなって」

「なるほど。てっきり対艦砲撃魔法を真似たのかと思ったが」

「そんなのあったっけ?」

「この前アップロードしたはずだが。二つの魔法を組み合わせて、第一で装甲を貫通して、第二で空間障壁を破壊するやつ」

 少し考えて、カスミが口を開く。

「……あっ、セントラの新兵器と一緒のあれ」

「新兵器ではないな。かなり昔に作られてまた使われるようになった兵器だ。みんな忘れているから新兵器みたいだが、旧式の兵器だ。まあそれと、あの魔法はレイとか霧崎みたいなバカみたいな魔力障壁張り巡らせる奴用に作ったが、結局効果なかったからアーカイブだな」

「なんで効果なかったの」

「仙崎相手に試したが、確かに高い貫通力で現行魔法の障壁は無効化できた。だけど炸裂の段階で指向性爆発をぶつけられて相殺された。それに旧式魔法の障壁じゃあ斜めに展開して弾かれもしたしな。仙崎でそれなら霧崎は爆風で命中前に吹き飛ばすし、レイなら正面から受け止めてお終いだろうから、使えない」

 その程度で使えないというが、カスミに使わせたら艦砲の射程外から一方的に攻撃して沈めることが出来る。今までは普通の砲弾を魔法で強化して、あるいは爆破の投擲魔法を撃って装甲を凹ませる程度だったのが、数発で機能を破壊することが出来る。これは十分に戦略級魔法として認証が通りそうだ。

「その魔法ちょうだい」

「好きに使え。ただ固定値で設定してるところは書き換えろよ、そのまま使ったんじゃ一発で魔力切れだ」

「どんだけ高威力に……」

「そりゃレイの分厚い防壁ぶち破るためだから」

 ただの魔力の壁で核爆発の直撃を凌ぎきるのだから、それくらいして当然だろう? などと思っていればふと静けさに気付いた。誰もいない。

「……座標がズレてる、引き込まれたか」

「空間転移の系統?」

「かもな」

 ベンチに寝転がったままのカスミの胸元に不意に手を伸ばし、術札を貼り付ける。ようやく乾いて使えるようになった一枚だけの迷彩魔法。

「なんのようだ」

 その問いかけに対する返事は高出力ジャマーと銃弾。入口のガラスを突き破り、飛んで来たそれを躱してジャミングを気にせず風の防壁を造り上げる。だが次に襲ってきたのは銃弾の嵐。この程度風でどうにでも逸らせると考えていた。

 風が制御を失う。

 対魔法弾だと気付いた時にはもう遅い。いくら通常弾より威力が低いとは言え、人体を貫通、内部で暴れてズタズタにするだけの威力は持ち合わせている。

 無数の弾丸が体中を破壊して、ボロボロになった肉塊が崩れ落ちる。

 入口を壊して入ってきたのは白き乙女の部隊だった。ただ、胸元のマークは五枚花弁の桜ではない。桜都に置かれた部隊ではないということ。彼らはスコールの死体を取り囲むと、頭と心臓を徹底して潰した。

「ターゲットクリア。近くに緑月がいるはずだ、探して仕留めろ」

 隊長らしい男が指示を飛ばし、施設内へと兵士が散っていく。一瞬のうちに、如月隊の中では不死身の化け物とまで言われたスコールが殺された。その現実に、震えて動けなくなるカスミではなかった。戦場に行けば誰か死ぬ、その当たり前に慣れているからだ。

 運ばれていく死体を見て、本当に死んだ。そう現実を認め、敵に認識されないうちに逃げるべきだと判断して動いた。

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