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旧き者たち【Ⅴ】

 結局、行動制限も何もなく解放されたスコールは、第一に仮想空間で戦闘を続けているアリス達へ連絡を取った。どうなっているのか、状況次第では支援としてダイブする必要がある。

「状況は」

『ほぼ終了。並行世界間ネットワークの向こう、別の世界からの侵攻は気にしなくてよくなった感じ』

『俺がリンクを破壊しました。しばらくはアクセスルートの構築でしょうし、数年は安心でしょう』

「だったらいい。悪いが後処理は頼む」

『そちらは何をするんですか』

「秘密だ」

 回線を切り替え、レイアにコール。あの状況では生き残るだろう。レイアの限界を知っているわけではないから、何か知らない能力かリミッター解除で対応しているだろう。

「生きてるか」

『生きてる。誰、あの女』

「お前に対する切札」

『そうなんだ。もうヤっちゃったけど』

 それだけ聞けたら十分。すぐに回線を切断。

 廊下に出たスコールはスズナと蒼月を視界に捉え、気付かれる前に窓から飛び降りてやろうかとして止められた。窓枠が凍りついて動かないのだ。

「なんだ」

「早速だけど仕事よ。ブルグント方面に展開していた白き乙女の部隊が消息不明になっているの。カンナの部隊とシワス君がアサインされてるから、うちの部隊からはあなたたち二人がアサインよ」

 犯人は現場に戻ると言うが、これは防衛的な心理ではなく情報を消しすぎたが為の事故だ。まさか自分が消し去った部隊を探せと言われるなんて考えてなかった。捜索は他の部隊の仕事だし、見つからないようにタグなどは完全に破壊してある。それにあの崩落と爆撃、飛び散ったもので証拠になるようなものは残っていないはずだ。

「探してこいと?」

「そーよ。得意でしょ」

「出発予定は」

「南区の飛行場から十四時に。高速機でブルグント付近まで飛んで空中投下。見つからなくても一週間で撤退よ」

「……了解。それと寝込みを襲うのはありか」

「どういうことかしら」

「蒼月の訓練しろって話だろ。あらゆる状況で時間があれば突発的に仕掛ける。反応出来ないなら次の候補に入れ換えろ、月姫の中で最弱だろこいつは」

「だから訓練しなさいって言ってるの。あなた評価試験でレイジ君と並んで最下位なのに実戦じゃ負け知らずでしょ。それと就寝時の攻撃は禁止」

「了解した。で、いま何時だ」

「一時半よ」

「……蒼月、今すぐに転移、もしくは高速飛行だ」

 手を引いて寮の外に引き摺り出す。のんびり歩いてなんてのはあり得ない、バスでもタクシーでも間に合いはしないし、基地の魔法障壁があるから直接の転移は不可能。

「転移魔法を詠唱、座標共有」

 指示をして蒼月の手を握り直す。感覚共有を使った魔法変数に代入する情報の直接共有。これくらいは戦姫なら出来て当たり前だ。むしろ出来てもらわないと困る。スコールは自前での魔法詠唱能力をほとんど持たない代わりに、魔法の構築方法や魔法に必要な各種情報はある程度覚えている。

「え、えっと……どうやったらいいの?」

「そこからか……」

 玄関からこちらを見るスズナに視線を投げると、なんとかしなさいと仕草で返された。なんで、こんな基礎から出来てないやつが蒼月の位を引き継いだ? 防御専門の蒼月のはずが、破壊専門の紅月にすら防御力で劣るなんていうのはあってはならないことだ。これがあって、なおも出来てもらわないと困る基礎もダメと。

「スズナ、こいつの評価試験の結果見せろ。どこで取り違えて蒼月に任命された」

「ダメよ。それにあなたも人のこと言えないでしょ」

 それを出されると黙るしかない。評価試験の結果なんて当てにならないことを自身が証明してしまっているのだから、試験の結果で判断するなと。

「……少しの間レイアと一緒に飛んでたはずだが、出来ることは?」

「基本的な戦闘くらいなら……」

「この前渡したダブルブレードの機能は使ったか」

「あれって魔法使えないとき用のじゃ」

「だからって使わないと慣れない。もういい、この際だ色々叩き込んでやる」

 と、軽く脅していればスズナが近づいて来た。

「ついでだからこれは没収よ」

「あっ待て、それは」

 飛行魔法の札を取り戻そうと手を伸ばせば、転移魔法でギリギリ届かない距離に離れられる。

「蒼ちゃん飛行魔法の練習相手になってあげなさい。代わりにスコール君は戦闘訓練の教官役よ。そう言う訳だから行ってらっしゃい」

 スズナの転移魔法に捉えられ、飛行場の正面に放り出された。すでに連絡が行っているらしく、見張りに見つかって中へ案内された。集まっていたのは数十人ほどだが、知っている顔はシワスだけだ。

「なんで十二番隊はいつも隊長がアサインなんだ」

「俺に聞くなよ」

 普通隊長は一定以上の規模がある戦闘任務でしか派遣されない。だというのに捜索任務に専門でもないのに送り込まれるというのはどういうことだろうか。

「そもそもさ。こう言うのっては偵察機飛ばして人海戦術だろ? 思わねえか」

「メガフロートからリジルとグラムの二小隊飛ばせば済むと思う。そこまで人員を割く必要すら感じない」

 そもそもを言えばアカモートの広域警戒管制を一人貸して貰えたらそれだけで済む。人件費や機材、燃料代その他もろもろを考えると一人借りた方が安くて早いし確実だ。

「だろ。だからなんか俺らが派遣されるのってなんかありそうで怖いんだよ」

「神無月の専門のやつらは別として。この月姫のクセして通常戦力並の蒼月と中途半端な師走の隊長と評価試験の最低クラス。この組み合わせで何があるって?」

「おめーのその言い方はダメだろ。レイアの飛行について行ける蒼月と実戦じゃ負け知らずで有名な如月隊のスコール。別の作戦で動いてる敵とぶつかるとかありそうで怖いんだよ」

「ないと思うが」

 だいたいスズナには戦闘訓練をしろと言われている。あの性格でいきなり実戦に放り込んで叩き上げなんてしないとおもう。むしろ退屈過ぎる捜索任務だからこそ、暇つぶしがてら任務の合間に訓練しろなんてのはありそうだ。

「私はあると思う。だってスコールの派遣された任務ってほとんど詳細不明か外部観測で戦闘確認だもん」

「ま、そうなったらそうなったときだ。ちなみに今回は飛べないから空中戦になったら任せる」

「風使いが何言ってやがる」

「訂正だ。流体制御であり、空気の制御は圧縮して撃ち出しているだけで飛んでるわけじゃない。あれは放り出されて落下してるだけだ」

「嘘つきのスコールってのはホントか」

「勝手に判断しろ。何も信じるな、それがルールだ」

「へいへい」

 手短なブリーフィングを済ませると輸送機に乗り込んで飛び立つ。エスコートは二機の小型無人機。事前に飛行ルート付近の浮遊都市とブルグント、セントラには通達済みで、妨害するようなら潰すと

 脅してある。それでも手を出してくるなら、それは空賊か大馬鹿野郎だ。

 桜都の警戒ラインを出て数時間、ブルグントに近い場所で煙を吐くセントラ機とすれ違うが、何事もなく離れて行く。さすがに通達はしているとは言え、戦域を突っ切るような真似はせず、迂回の繰り返しでかなり遠回りをしている。

「嫌な感じだ」

「勘、か?」

「風が変わった。雷雲だ」

 窓から外に目をやれば、遠くに瞬く暗い雲が見えた。航空機なら直撃雷でも支障はないが、出来れば飛びたくない条件だ。

「どうってことはないと思うけど」

「……いや、魔法か」

「魔法?」

 シワスが疑問に思った途端、機体が急に傾く。九十度ロール。さっきまでの壁が床になって、座席とベルトにしがみつく。

『予定繰り上げ、予定進路上で戦略級魔法の発動を確認。燃料の関係上迂回は不可、二分後に投下、予定ポイントまでは自力で飛べ』

「戦場の真っ只中を飛べって? バカじゃないのか」

「うっかりで墜とされように気を付けろ」

「お前が言うなよ飛べないんだろ」

「蒼月、曳航ライン頼む」

「えっ? 私は引っ張るのは出来ないよ?」

「…………。シワス」

「残念ながら俺の魔法は誰かを抱えて飛べるほど強くない。蒼月、抱えて飛べよ」

「それかしがみつく。どっちならいい」

「どっちも恥ずかしいし……」

「言ってる場合か」

 機体が水平に戻ると、神無月の隊員は無言で動く。機体後部、ハッチの周りに集まって飛行魔法と各種障壁を展開し待機。

「神無月隊、ネットワーク共有」

「悪いがそちらはそちらでやってくれ。司令から別系統で指示を受けているから共有は出来ない」

「了解した。そう言う訳だ、シワス、蒼月、魔法通信のチャンネル設定」

「なんでお前が指示すんだよ権限ないくせに……まあいいけどさ」

 時計合わせまでを終えると、神無月隊の後ろについて待機する。飛べないスコールは蒼月と手をつなぎ、空いた手には術札を数枚持つ。

「シワス、周辺に展開中の部隊は」

「だーかーらー俺にはそこまでの識別能力はねえっての」

「使えないな」

「出来ねえくせに言うなよ」

 不意に機体が揺れ、明かりが明滅する。

「きゃっ」

「うぉっ、なんだ、雷か」

「魔法攻撃だ」

『繰り上げで悪いが降りてくれ。空域から離脱する』

 ブザーが鳴ってロック解除、ハッチが開く。土砂降りの雨と雷の響く空。明らかに自然現象ではない雷撃魔法と爆発、魔法陣や曳光弾の光と対空砲火。ここは戦場だ。

「おいおいおい話が違う、俺たちは捜索任務に出てきたはずで戦場行きじゃなかったはずだ」

「よくあることだろ……戦争が日常なんだから」

「いやだよそんな日常は。なっ、蒼月」

「うん、そこは激しく同意する」

 神無月隊が飛び出して行き、すぐさま上昇して雷雲に突っ込んでいく。

「行きたかねえけど俺たちも行くぞ」

「蒼月、魔力波長の同期は出来たか」

「大丈夫。スコールの魔力は合わせやすいから」

 立ち上がって飛び出そうとした瞬間、雷が直撃して機体が揺れる。その衝撃で手が離れ、スコールが落ちていく。土砂降りの雨で視界が悪く、飛び交う魔法のノイズで索敵魔法が上手く作用しない。

「運がないとかそういう話か」

 魔法照準を感知して、電荷の移動、絶縁破壊も感知。現行魔法だと理解して秒速二百キロの雷撃をスティール。雷撃系の魔法は撃ち返すのが楽でいい。照準の必要がなく、そのまま撃ち返せば放電経路を辿ってそのまま術者に向かって行くからだ。が、貫いた空間には何もなく別の方向から照準波が飛んでくる。

『設置型だ。それにこの魔法はブルグントのもんじゃねえ』

『あ、キリヤ君だ。キリヤ君が飛んでる』

「どっちでもいい、さっさと拾いに来てくれ」

 このまま海に落ちるのはごめんだ。確かブルグント周辺の海域はあちこちにサメが泳いでいるし、人を襲う魔物も多い。

『悪いが無理だ』

『わ、私も――』

 一際凄まじい雷が空気を引き裂いたかと思えば、蒼月の反応が消えた。

「シワス!」

『捉えた、反応有り、死んじゃいない。怪我もないし気絶してるだけだ』

「雷撃を障壁で受けたくらいで……だらしない」

『オーケー拾った。そっちはなんとかしてくれ。俺は抱えて飛べるほどっ、よゆーが……な、い』

「女一人ぐらい抱えろよ」

『む……こ、れ、回避でき――』

 再びの閃光と破壊の音。シワスも落ちたかと思えば、すぐ近くに飛ばされてきた。

『なぁにやってんのさ。そっちは仮想で動いてるんじゃなかったの?』

「訳ありでレイアと交戦中」

『そうなんだ……。僕の方はなんかリオン隊にいちゃもんつけられてね。あ、この雷雲は僕の霧の領域とリオン隊の天候操作魔法がぶつかっちゃって出来た制御不能な実質戦略級魔法で……なんとか出来ない?』

「霧の領域自体がスティール不可能な規模なんだ。飛び込んで魔法処理を破綻させるしかないが……雷の中に飛び込むのは嫌だな」

『そんな謙遜しちゃって。君ならやれるでしょ』

「無理だと言っておこう。離脱する。まあ頑張れ」

 今のリオン隊がどういう編成なのか知らないが、新入生の若い女の子とミナ兵長……少尉? がいるのは確かだ。そんなリオン隊相手になんとか一人で持ちこたえるだけでも高位の魔法士として認められる実力だが、仙崎は表だった所属は表明していない。

 そしてそんな化け物達の喧嘩に仲裁に入るほど、スコールは力を持っているわけではない。いくら魔法士の天敵だとしても、限度ってものがある。仙崎の固有魔法とも言える〝霧〟は規模が大きすぎてスティールしきれない。ミナ兵長の魔法は種類が多すぎて封じきれないのと、スティール対策で同一魔法を僅かに変化させてランダムに詠唱するようにしているためそれもそれで封じきれない。

「シワス、ちょっと無茶して陸まで飛べ!」

「無理言うんじゃねえよ制御された墜落かよ!」

「落ちながらでいいから飛べ。魔力は蒼月から吸い出して供給してやる」

「ほんとムチャクチャな! えぇいクソゥ!」

 気を失ったままの蒼月から魔力を奪い取り、人それぞれの〝色〟を濾過してシワスへ供給する。勝手にこんなことすると、後で何か言われるだろうが今は仕方がない。

『ミナ……まだ聞こえる? 気を付けて、ブルグント方面に嫌な感じがある。たぶん、旧い――』

 通信圏から離れたのか、ぷつっと切れた。

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