小さな禊の意味
『---さてこれからお話ししますのが、これからあなたに起こることの予言です。』
息を呑む。
『この後家に帰る前に、必ずこれからお伝えする禊を行ってください。』
禊とはなんのことだろう、と考えるやいなや老婆は言葉を続ける。
『徒歩で帰るならば、電信柱を一度、足で蹴り、足の裏に付いた土を落とすようにしなさい。電車で帰るならば、きっぷを一度口にくわえなさい。』
『何を言っているのかわからないと思うが、そうしないと必ず悪いことが起こる。』
何を言っているのかわからないのだが、そこまで云うのであれば、必ず悪いことが起こるのだろう。
「そうか、それじゃ」
占い料の2000円を置いてそのまま歩いて家路についた。
こんな寒い夜に道の隅で座って人を占っているなんて、よほどの物好きなのだろう。
そんなのに捕まって2000円を払うなんて俺も馬鹿だなぁ。
歩き携帯で親にメールをする。
「いまから帰る」
寒いしさっさと家に帰って温かい風呂に入って炬燵でみかんを食べたい。
この十字路を曲がったらすぐ家だ。
そういえばさっき、電信柱を蹴れとかどうとか言ってたな、とふと思い出す。
十字路の傍らをふと見ると、一本の電信柱がある。
「これでいいのか・・・?」
誰にも聞こえないような声でつぶやきながら、電信柱を足の内側で軽く蹴ってみた。
「なんの意味が---」
ぼそっと呟いたと思ったら、十字路の右から左へ、猛スピードで自転車が突っ込んできた。
灯りは付いておらず、音もほとんど無く、もしかしたら跳ねられていたかもしれない。
そんな事を考えていたら、急ブレーキの音があたりに響く。
急いで音の聞こえた方へ向かうと、家の前で俺の帰りを待っていた母親が、跳ねられていた。
駆け寄るが意識はなかった。
---次の日、61歳女性が家の目の前で亡くなったというニュースが小さくローカルニュースで取り上げられた。自転車は、時速30キロ、無灯火で運転しており、もれなく捕まったとのことだ。




