1.非日常の始まり
201X年、7月。
煌波学園中等部。
段ボールやらティッシュやらが転がっている6畳ほどの部屋から、突然に大きな声が響き渡る。
「帰ってこい俺の夏休みいいいいい!!」
学園中に響く様な声の主は、部屋に寝転がっていた。
「月陽、うるさい。」
叫んだ少年の名は、白川 月陽。煌波学園中等部に通う1年生。
「だってよぉ、凪華…夏休みだぜ!?なのに何で学校に来なきゃいけねーんだっつーの!」
「だからうるさいっての。」
冷静に月陽を注意した少女は、藤原 凪華。月陽のクラスメイトである。
「凪ー。夏期休業だから、あたしはつっきーの言うことも一理あると思うんだが。ね、はやっち?」
「ごめん真帆さん、僕は凪華さんと同じように、うるさいとしか思えないんだ。」
安易なあだ名で呼んだりやけに男子っぽい喋り方に声だったりする割には優等生っぽい雰囲気を醸し出している少女が、秦野真帆。
突然話を振られ驚きながらも、冷静に意見を述べる少年、川越颯斗。
どちらも、月陽と凪華のクラスメイトである。
「月陽くんの言いたいこともわかりますが、うるさいから、うん。」
「まぁ確かにうるさいか、つっきーは。」
「颯斗に、真帆さんまで…。酷い。」
「あの、悪いんだけど。」
3人の会話を見て溜息をつきながら読んでいた本を閉じた凪華は、思い出したように呟いた。
「「「なに?」」」
「貴方達、ここに来た目的、忘れてないよね?」
「「「忘れてないよ?」」」
「なら早くやりなさいよ!」
「「「はい!」」」
窓際の椅子に座り本を開こうとした凪華は、ふと外を見やった。
「…?」
一瞬景色が歪んだように見えたが、気の所為だろう。熱中症にでもなりかけているのだろうか。凪華はあまり気にせず、水筒から水を飲んで読書を始めた。
「…!凪!」
「…え…、もう終わったの…?」
「もうも何も、凪華、日が暮れはじめてるぜ?」
「え?そんなはずないわよ。だってまだ、12時にもなってないんじゃ…」
そう言いながら外を見ると、確かに青かった空には赤みがさし、橙色になってきてはいるが…。
「これ、夕焼けにしては、おかしくないかしら…」
「確かに赤すぎるような気もするね。僕にも夕焼けには見えないな。」
その時。
バタンと何かが倒れる音がした。
「真帆っ!?」
床に真帆が倒れ込んでいる。
「真帆さん!真帆さんっ!」
月陽が必死に声を掛ける。
「とりあえず、救急車よぶね…!」
電話をかけようとした颯斗を、真帆が制す。
「ごめ…ん。大丈夫…だ、から。」
「大丈夫じゃないでしょう!?」
何故かキレ気味の凪華に落ち着くように言ってから、真帆は告げた。
「…来るよ。」
「来る…って、何が!?」
「分かんない。
でも、来る。
…あ…。『来る』だけじゃない。
…始まる…。」
「だから、何が始まるんだよ!?」
「あたしにも分かんない…ごめん、眠くなってきた、ちょっと…寝る、ね…。」
真帆がまた床に倒れる。起こそうとした凪華を颯斗が抑えた。
「今は、寝かせてあげようよ。疲れてるんだよ、真帆さんも。」
「そうかもしれないな。」
毛布を真帆に掛けてから、月陽が言った。
凪華は、窓際の椅子に座り外を見ると、
「真帆も…大変なのよね。」
と呟いた。
3人は、寝ている真帆を見る。
「あいつも、色々あるんだろうな。」
「…ここにいるって事は、そういうことなんだろうね。」
「…それは、私たちにも言えることだわ。」
「そうだな。」
「うん。」
「俺らも、いつかは…『先輩たち』みたいになれるのかな。」
「なれるよ、僕達なら。…ならなくちゃいけない。」
「いつまでも止まってるわけにはいかないものね。」
ふと、凪華が立ち上がる。
「そういえば、さっき真帆、『始まる』って言ったわよね?」
「あー、言ってたな。」
「あと、『来る』とか…。」
「あれの意味、分かる?」
「んなの、分かんねー…って、ん?」
「『始まる』に『来る』…。…!もしかして!」
2人の何かに気付いたような反応に、凪華は微笑む。
「もし、私達の考えが同じだとして…。」
「俺たちの考えが合っているとしたら…!」
「『来る』…『始まる』のは時間の問題ってことだね…!」
「…!それだ、正解は…!」
いつの間にか起きていた真帆が呟く。
「だとしたら…探さなきゃ、『この中』から。」
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暗闇で笑う2つの影。
「気付きましたか。」
「さて、間に合うのかしらねぇ?」
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『紅イ夕焼ケ。
暗イ部屋。
最期ニ笑ウノ
ドチラデショ。』




