1話目
20××年6月17日、僕は交通事故によって亡くなったらしい。何故婉曲に説明しているのかというと、それは『木村巧』が今、こうして存在しているからだ。矛盾が生じていることは露呈としているが、全ては事実だ。そしてこの矛盾を解決する答えはただ1つ。僕が『幽霊』になったということだ。
これはアニメでもフィクションでもファンタシジーでもない。現実。
このことに気づいたのは18日の午後7時、場所は何故か僕の部屋。仰向けになっていて目を開けると、いつもの景色が写っていた。身体もいつもと変わらなく重く感じる。不自然なくらい違和感が無く、何かを危惧するかの如く、恐る恐る床に足を着けようとした。高鳴る胸の鼓動は次の瞬間消え去った。
「だるっ」
違和感無く足が床に着いたことに、どこか安堵し歩き出す。
夕食の時間だと思い一階に降りて台所に向かう。キッチンの目の前にあるテーブルにいつも通り座る。四人分の席のうち、僕はテレビから一番遠い席だ。毎日毎日鬱憤を貯める時間。妹は目の前の席で携帯を弄りながら食べる日々。父さんはまだ帰ってきていないが、僕の隣の席で一番テレビが見やすい位置だ。食事をテーブルに運び、身支度を済ませ座ろうとしているのが母だ。だが母の様子がせかせかしく見えるのは何故だろうか、妹はいつも通り平凡としているのに。家族の誰かが誕生日というわけでもない、格別いい事があった訳でもないだろう。
だが、この光景を目にした瞬間、家の空気が変わる。僕だけで無く、二人までも。
「巧、今日はカレーだよ。」
自然に響き渡るお鈴、それに手を合わせ長く一礼する母。
あるはずもない仏壇。そこに飾られてある、遺影。それは、僕だった。紛れも無く、間違いなく。