プロローグ
俺、芦葉 昭樹はどこにでもいる男子高校生だ。
なんて、こんな始まり方をしたライトノベルの大半では、そいつは『どこにでもいる男子高校生』では無かったりするのだが。残念なことに、この俺はどこにでもいるような凡骨以下の人間でしかない。
何か特殊な生まれであるわけでもない。
俺の両親は平凡で普通で、それなりに優しくて、それなりに厳しい、まぁ、虐待とかが無いようなごく普通の家庭だった。姉はちょっと変人だったが、それは許容内だと思う。
何か特別な環境で育ったわけでもない。
可愛い幼馴染なんて居るわけがないし、幼い頃から武術の修業をしていたとか、そんな出自ではない。ごく普通に、クソ生意気な子供として、痛い目を見ながら成長していた。
当然、超能力とか、異能も俺は持っていない。
ああ、それだけでは無くて、いわゆる『才能』と呼ばれるような物も俺は持っていない。強いて言うなら物書きの真似事をしているぐらいだが……それだって新人賞で一次選考すら通らない程度の代物だ。お粗末極まりない。
性根だって、そこまで善良な物では無い。
それなりに混んでいる電車の中で、妊婦が入ってきたら席を譲る程度の良識はあるが、進んで誰かの助けになろうとは毛ほどにも思わない。
まぁ、だからと言ってそこまで悪性とも言い難い。
精々がエロ本やエロゲーのおさがりを貰って、それを数少ない友達と共有していたり。未成年の煙草や飲酒をその場の空気で見逃す程度。進んで誰かを害そうとは思わない。むしろ、見知らぬ他人は勝手に幸せになって、勝手に生きていればいいと思う。それが俺の邪魔にならない限りは、そう思うだろう。
さて、ここまで言葉を重ねれば分かっていただけるだろうか?
俺は、芦葉昭樹という人間は『どこにでも居るような』つまらない人間だ。長々と、念入りに、くだらない前置きをする程度には、つまらない人間だ。
仮にこれが、ネット小説のプロローグであれば、俺は眉を顰めただろう。
何せ、始まる前からぐだぐだと、言い訳の如く主人公が『俺はつまらない人間です』という自虐から始まるのだ。
鬱陶しいこと、この上ない。
語りの途中で、大型トラックに突っ込ませて転生させた方が、まだ受けを狙えるだろう。
だが、そうはならない。
俺はどこにでも居るようなつまらない人間であり、異世界に転生したり、転移なんかもしない。突然の死によって、異能に目覚めたりなんかもしない。
――――であるのならば、これは一体、何の物語なのか?
安心して欲しい、つまらない俺による長ったらしい前置きはここまでだ。
俺の人生は平凡で退屈だったが、それでも…………あの時だけは違っていた。あの時だけは、俺の人生が、違う物語と交差して、非日常となっていたのだから。
「芦葉君。命の使い道が分からないのなら、私が貰ってもいいかな?」
東雲 彩花という、非日常と。
美しい少女の形をした理不尽と、俺は出会ってしまっていたのだから。