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金髪ツインテールも楽じゃないよ!

 妹子さんは怒りながら笑っていた。いや、笑いながら怒っている……のか?


「それとも」


「それとも?」


 怒り半分笑い半分の顔が完全に笑顔になると、妹子さんはオレの眼前に紙袋を突き出してきた。中には女性用の衣類が一式入っている。


「それとも。あなたがこれを着てくれるのなら、今回の件は目をつむってあげます」


「え、それだけでいいんですか?」


 何だ。それならこれ着ちゃうか。そう思って中のスカートを引っ張り出した時、エレナのサイズよりも明らかに大きいことに気が付く。ん? このサイズって。


「まさか……これを着るのって?」


「そう。プラグアウトしたあなた。兄助くんよ。しっかりと採寸してあるから、サイズもピッタリ! 安心して。可愛い男の娘が誕生する瞬間に立ち会えるだなんて、生きててよかったわあ。ぐふふ! 備品破壊様様ね~」


 ぐふふ!? 何だその邪悪な笑みは! っていうか、何故オレの服のサイズを把握してるんだこの人!!


「いつのまにオレの服のサイズを!? ていうか、嫌ですよ! こんなの着るくらいなら天引きしてください! オレ、仕事がんばるので!」


「チ」


 妹子さんは舌打ちすると、紙袋をしまった。


 あぶねー。もうちょっとでオレ男の娘デビューするとこだったぜ。いや、スカートはくだけで何十万もチャラになるのなら考えてもよかったか? いやいや! 妹ロイドになっていても恥ずかしいのに、男の体でスカートなんて自殺モノだよ。


「さて、と。ほんとはもうちょっとライブモードの訓練したかったけれど、今日はもう無理だね。兄助くんには反省してもらうとして……うん。ちょっと互換実験してみようか」


「互換、ですか?」


「そう。万が一の可能性を考えて、他の妹ロイドにプラグインできるようになっておいてもらいたいのよね。今日はアンリの予定が夜まで入ってるから、リフィルにしましょう」


「つまり、オレがリフィルにプラグイン……ですか」


「そうそ。今までも、はるかちゃんがリフィルに。理奈がアンリにプラグインしたこともあるから」


 ……理奈さんがプラグインしたアンリ……見たくないなあ。逆に、佐山さんが入ったリフィルは本当に可愛いだろうな。


「とりあえず、一度妹研究所に戻りましょう。ほら、リフィル! いつまでそんなはしたないかっこしてるの! 戻るわよ」


「へーい」


 だらしないかっこうで寝ていたリフィルは、むくりと起き上がりお腹をぼりぼりとかいた。


 ていうか……あれにプラグインするのか、オレ……。プラグインした途端、二日酔いとかにならないだろうな?


 そして、妹研究所に戻ってすぐ理奈さんはリフィルからプラグアウトし元に戻る。


「ふぃー。よっしゃあ。今日はこれから酒盛りだー、飲むぞー飲んじゃうぞー」


「理奈さんは24時間フル稼働で酒盛りじゃないですか、何をいまさら」


 プラグアウトしてすぐに理奈さんは、テキーラの瓶に口を付けがぶ飲みしていた。


「さて。それじゃ互換実験を始めるわ。リフィルの基本スペックはアンリと同等だけれど、結芝リフィルという女の子はすでにアイドルとしてデビューして、人気を得ている。気を付けて。あなたの行動1つで結芝リフィルの価値は簡単に下がってしまうから」


「は、はい」


「信用を得るのは時間がかかるけれど、失くすのは一瞬よ? まあ、理奈でも勤まるんだから兄助くんなら心配ないか」


「わははは! 妹子、あいかわらずいいケツしてんなー。ちょっとくらい触らせろよ!」


「ちょ、やめなさい!」


 理奈さんは早くも悪酔いしており、妹子さんのお尻をエロ親父のように触っていた。


「は、はは」


 ちょっと理奈さんがうらやましいぞ。オレも酒飲んだら無罪……。


「やめろって言ってんでしょ! この酔っ払い!!」


「いってえええええ!!」


 理奈さんは妹子さんにおもいっきりビンタされた。うん、無罪ってわけにはいかんな。酒を飲んで酔ったふり作戦はやめとこ。なによりオレ未成年だし。


「さ。とにかくおっぱじめるわよ。エレナちゃんはカプセルへ。次に目が覚めたとき、あなたは多田エレナから今や人気トップのアイドル。結芝リフィルになっているわ」


「オレが、リフィルに……」


「プラグイン、スタート!」


 妹子さんの掛け声と同時、オレの意識はシャットアウトされリフィルの体へと転送される。


「……お、お?」

 

 カプセルから出ると、少しエレナのときとは感覚が違う。身長はエレナのほうが高いし、胸もエレナのほうが大きい。それに、金色のうっとおしいのが左右で揺れてる。あ、これツインテールか。


「気分はどう?」


「えっと。胸が小さい分、楽ですけど。ツインテールがうざいですね。左右でゆらゆらゆれて、顔に当たるし。これ、なんとかなりませんか?」


「ふむふむ。ツインテールが邪魔かあ。でもね、兄助くん。考えてほしいの」


「はい?」


「貧乳金髪ツインテール美少女は正義だと思わない?」


「正義に決まっているじゃないですか!! 誰ですか、貧乳金髪ツインテールを悪と罵る愚か者は!? オレが成敗してやりますよ!!」


 妹子さんが真面目な顔で聞いてくるので、オレも真面目に即答していた。てか、何聞いてるんだよ! そして何力説してるんだよ、オレ!! このやりとり、昨日と同じじゃないかよ!


「つまり、そういうことなのよ」


「ぐぐ……そういうことなら、しかたないですね」


 ――どういうことだよ、オレ!


「とりあえず、そうね。少し外を散歩してくる? 一応、理奈も同行させるから」


「え。外にですか? 大丈夫かな。もしばれたりしたら……」


「大丈夫。変装用に伊達眼鏡とマスク用意しといたから」


「いやそれ、むしろ逆に怪しいような。なにより、そこの酔っ払いの面倒とか見るの嫌ですし」


「わはは! 地球は今日も~平和だ~ね~!」


 あんたの頭の中はさぞ平和なんだろうな。と、腹踊りをしている理奈さんを見てそう思うオレであった。


「まあ、そういわないで。研究所で酔って暴れられたら面倒だからって、押し付けてるわけじゃないからね? リフィルのオペレーターとしてのアドバイスを適宜受けられるように、同行させるんだから」


「もろに押し付けてますね」


「わはは! よっしゃ~、もう一軒行くぞ~男の子~!」


 理奈さんにとってすでにここは、一件目の飲み屋だったらしい。リフィルの細い肩をがっちりと捕まれ、逃げ出せそうにない。やれやれだ。


「行ってきます。30分くらい外を歩いてみますね」


「うん。いってらっしゃい。車に気を付けてねー」


「わはは! じゃあな、おかみさん!」


 おかみさん。もとい妹子さんに大きく手を振ると、理奈さんはでかいげっぷをして歩き始めた。


「ふぃー。酒は最高だねえ」


「オレは最悪ですね」


「なーんでだよー。ぴちぴちゆるふわの美女がぁ。スキだらけで歩いてんだぞおー。ほれ、ほれほれ」


 理奈さんは胸を強調しながら歩いていた。正直、もんでやろうかと思ったが、妹ロイドの体でそういうことはよくない。なにより、莫大な金額を後で請求されそうだ。


「やめてくださいよ。もう」


「ち。触れたらセクハラで訴えて賠償金せいきゅーしてやろうと思ったのに」


「タチ悪いな、あんた!」


 それでも理奈さんは、会社を出るころにはしらふに戻っていた。


「さってと。男の子、リフィルはどんな感じだ?」


「ええ。まあ……そんなにエレナと感じは変わらないですね。ただ……」


「ただ?」


「なんか、見られてる気がするんですよね、周りに」


 会社を出てすぐだ。人々がひそひそとざわめきながらオレを見ていた。


「ねえ。あの子、結芝リフィルちゃんじゃない?」


「ほんとだー、かわいいー」


「サインもらおうぜ!」


「触りてー」


 うわ。速攻でバレてんじゃん!


「わはは! そりゃバレるってー。そんなTシャツ着てればよー」


「はい?」


 近くにあったビルのガラス窓に全身を映すと、私服姿のリフィルがオレを見ていた。Tシャツにデニムスカート。そのTシャツには、でかでかと『結芝リフィル参上!』とか、プリントされてるのだ。


「あんたバカか!? 何でこんなもん本人が着てるんだ!? あんたバカか!?」


「わはは!」


 理奈さんは腹を抱えて笑っていた。くそう、リフィルの服は理奈さんがプラグアウトした直前のままだ。


 は。もしかしてこの人、こうなることを予見してわざとこのTシャツ着てたんじゃ……ないだろな?


「とにかく、逃げますよ!」


「おう! ついてこい! この先にうまい焼き鳥屋があるんだ」


「何で焼き鳥屋! もう、この際どこでもいいや!」


 理奈さんのあとを必死で追う。だが、途中で見失ってしまった。


「しまった。理奈さんとはぐれた!」


 ……どうする? なんかリフィルのおっかけみたいな人がいるし。株式会社妹のビルに戻るにしても、人だかりができて近づけない。


 仕方がない。タクシーで、オレの家に一時避難するか。


「へい、タクシー!」


 タクシーを拾い。車内に速攻でなだれこむ。


「はーい。行先はどちらまで?」


「えっと」


「あれ!? もしかして、君。結芝リフィルちゃんじゃないの!?」


 やば。この運転手のおじさん、リフィルのファンだ。えっと、リフィルの真似リフィルの真似……。


「へ。あ、えーと。そ、そうだよ☆ リフィルはりふぃる星からやってきた、お姫様なのだー!」


 なんだ、この☆マークは! 自分でやってて恥ずい!! 自分で自分を殺したくなってきた!


「お、おおー! で、どちらまで?」


「えーっと。東京都練馬区大泉……です」


「へえ。知らなかったなあ。そこがりふぃる星なんだ」


 オレも初めて知ったわ。つか、普通にオレの住所だよ! リフィルも楽じゃないな……。


「えーと。そこはお友達の家なんですぅ。おじさん、このこと秘密にしてね」


「わかってる、わかってるよ! リフィルちゃんの個人情報はおじさん、墓場まで持っていくよ!」


 タクシーはすでに夜になった東京を走り出した。なんか、この状況まずくね?

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