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新居と小麦栽培

 マイアの家臣となった後、部屋で待つ俺の元にミレーユさんがオークのゴンゾさんと3匹のゴブリンを連れてやってきた。


「失礼しますね、この者達をハヤトさんの配下として付けます。ゴンゾはもうご存じですね」


「これよりハヤト殿を主と崇め仕えよう。なんでも言ってくれ」


「うん、よろしく」


 俺とゴンゾさんは、がっちりと握手をした。


「特に今のところ指示はありませんので、城の中や領地を見て回っておいて下さい。それとマイア様から新しい部屋に移るよう言われています、ゴンゾに伝えてありますので案内してもらって下さい」


 ミレーユさんは、そう言って笑顔を浮かべると俺の部屋から出ていく。


 ゴンゾに案内された部屋は今までの部屋よりも、かなり広い部屋だった。


 暖炉のある居間を中心にメインのベッドルームが1つと一回り小さい部屋が2つ。

 さらに小さい6畳ほどの部屋が2つあり、その1つには転移の魔導具の円盤が置かれていた。


 広い風呂とトイレまで完備されていて、ワンルームの部屋から高級マンションにでも引っ越したかのような感覚を覚える。


「それにしても汚いな」


「うむ、しばらく使っていなかったようだな」


「俺らの住処より汚い」


「まあ、俺たちの新しい住まいだ、頑張って綺麗にしよう」


「ん? 主様、一緒に住むのか?」


「うむ、そうなのか?」


 ゴブリンもゴンゾも不思議そうな顔で聞いてきた。


 ゴンゾは集団での2段ベッド生活だし、ゴブリンも小屋に押し込まれているような状態だ。

 それよりは、部屋も余っているし此処の方が快適だろうと思ったのだが......。


「嫌だったかな?」


 もしかしたら主と暮らすのは魔族の習慣に反するのかもしれないと思って聞いてみた。


「ん? 嫌、ハヤト殿が言うのであれば私は構わないぞ」


「俺達も主様がいいなら大丈夫」


「そうか、じゃあ一緒に住もう!」


「なら私はこの部屋を使わせてもらおう。お前等は此処にしておけ」


 ゴンゾは少し狭い、それでも10畳ほどの部屋を選び、ゴブリン達には6畳の部屋を指示していた。


「広い! 広い! 重ならないで寝れる!」

 とゴブリン達は大喜びしていた。 


 俺は自然と15畳もありそうな広い部屋を使うこととなった。


(それにしても広いな)


 何年放置されていたか分からないが家具は朽ち果てていて、とても使えないだろう。


「とりあえず全部ゴミを捨てていくか」


「分かった」


「「「あい!」」」 



 俺達が部屋の片づけをしているとライオスが酒を手にやってきた。


「おお! ここを渡されたのか」


「やあ、ライオス。広いけどご覧の有様さ」


「ここは前の城主が使っていた部屋だ。魔王様が攻め落としてから、ずっと放置されていたからなぁ」


「......何年前?」


「マイア様が生まれた頃だから300年以上は経っているかな。俺も子供だったんで詳しくは知らないがな」


「す、凄いな」


 その年数よりもマイアが300歳以上な事に驚いた。


「よし! 俺も手伝ってやろう!」


 ライオスが腕を捲ってそう言う。


「ありがとう、助かるよ」


 徐々に噂を聞いたオーク達(主に酒飲み仲間)も集まり、予想以上に部屋の片づけは早く終わった。


 そして家具が無くなり、広々とした部屋で宴会が始まる。


 ゴブリン達が早々に酔いつぶれる中、宴会は夜明け近くまで続けられた......。



 そして翌日も部屋の片づけは続けられる事になる。

 その対象は酔い潰れるオーク達と散乱した宴会の後の惨状だった。


****


 部屋が片づいた俺達は家具を作ることに手を掛けだす。


 元の世界での実家では、なんでも自分の手で作るという親父の方針で俺も一角の木工職人並の腕前はあると思っていた。


 だが問題は道具が無いということだった。


 俺は鍛冶場で武具の作成を担当していて、飲み仲間でもあるオークのゲンザに頼み込み、様々な木工道具を作って貰うことにした。


 もうひとつ気になったのが農業? の仕方だった。


 それは、とても農業とは言えるものではなく、ただ地面に穴をあけて適当に種を埋めているだけだった。

 日当たりもお構いなしで、一日中陽が射さないような場所にも種を埋めている。


 元農家の息子としては黙っていられず、マイアに了解を得て畑の作成にも取りかかった。


 とりあえず木工道具が出来上がるまでは陽当たりの良さで選んだ一角を耕しながら石拾いと雑草を毟っていった。

 

 ゴブリン達も文句も言わずに働き、ゴンゾも凄まじいパワーで地面を掘り起こしている。


 その後も周囲の木を切り柵を作ったり、落ち葉と魔獣の糞を腐らせての堆肥を作っていく。


 人間からの戦利品という種は既に生えている物から小麦によく似ている穀物が出来るのだろう。


「石灰が欲しいな......」


 この世界の土壌は良く分からないが、とりあえずは父に教わったとおりに進めてみようと思った。


 なんなら畑の半分だけ石灰を撒いて小麦の育ち方を比べてもいいだろう。


****


 俺達が畑仕事に泥まみれになっている姿をマイアは城の最上部のバルコニーからうっとりとした表情で眺めていた。


「ハヤトさんの働く横顔も素敵ですか?」


 マイアの背後からミレーユが声を掛ける。


「なっ! 何時の間に!」


「普段のマイア様であれば気づかれていたはずですよ......。人間が狭間の領域に兵を進めていると報告が入っています。戦場では、この様なことの無いようにお願いいたします」


「わ、わかっている!」


「あら? ハヤトさんが城に入ってきましたね。どうしたんでしょうか?」


「ん、ちょっと行ってくる。戦の準備を進めておけ」


「......やれやれ」


****


 俺は城の中にある大理石の彫像を眺めていた。


 何かの女神を表しているのだろうか、上半身が露わになった美しい女性の彫像だ。


 そんな俺に少しムッとした表情でマイアが近づいてくる。


「なんだ、ハヤトはそのような女が好みなのか?」

 その言葉はいつもより厳しい口調だった。


「いや、この石に用があるんです......。粉々にしたら駄目ですよね?」


「ん? なんだ、そんなことか! 構わないぞ、粉々にしてしまえ。私はこんな物に興味は無いからな」


「え? 本当に? やった! ありがとう」


「う、うむ。なんなら地下にもっとあったぞ! 持ってこさせるか?」


「いや、とりあえずはこれひとつで大丈夫だ......です。すいません言葉遣いに慣れていなくて」


「構わん、普通に喋ればいい。ハヤトだけ特別だがな」


 マイアは少し照れたようにして俺を特別だと言った。


「あ、ありがとう」


 思わず俺も顔が赤くなってしまった。


(見た目は年下なんだけど300歳オーバーなんだよな......。でも、可愛いよな~)


「よ、よし! 私が運んでやろう。畑の場所でいいのか?」


「え? うん、そうだけど」


 マイアは2メートルはある重そうな彫像を肩に担ぐと、その重さを感じさせない足取りで畑へと向かっていった。


 そして畑の近くで彫像は、マイアの怪力により粉々にされる。


 マイアは満足そうに「これでいいのか?」と聞いてきた。 

 

「これを燃やしたいんだ......、ゴンゾ、畑から拾った石をこの周りに集めてくれ」


「うむ」


 俺は粉々になった大理石の周りに石を積み上げ、簡易の窯のような物を作った。


「どの程度で燃やすんだ?」


 マイアが目を輝かせて聞いてくる。


「銀が溶けるぐらいの温度で燃やしたいんだ」



 マイアは銀製のナイフも持ってこさせて、粉々の大理石の上に置くと。

「任せておけ」

 と、言って両手を前に突きだした。


 マイアの両手が光を帯びると、灼熱の炎が現れ粉々の大理石を燃やしていく。


 銀のナイフが溶けた温度でしばらく燃やしてもらい、冷えたところで水を掛ける。


 これで石灰が出来たはずだ。


「ありがとう。......じゃあゴンゾ、これを畑の半分に撒いていってくれ」


「ん? 半分なのか?」


「ああ、これが効果があるか確認したいんだ。うまく行けば次からは畑全部に撒くよ」


「わかった」


 ゴンゾとゴブリン達は俺の指示通り畑の半分に石灰を撒いていく。


「マイア、本当にありがとう。助かったよ」


「うむ、それにしても何をしていたんだ?」


「あれを畑に撒くと小麦が育ちやすくなるはずなんだ。まあ、どうなるか分からないから半分だけに撒いて様子を見るのさ」


「なるほどな。それで、手伝った褒美は何かもらえるのかな?」


 マイアは少女の笑顔で俺に聞いてくる。

 すごく可愛い......。


「小麦は、粉にすると色々な食べ物に使えるんだ。何か美味しい物を作ってご馳走するよ」


「楽しみにしておこう」


 マイアはそう言うと、翼を広げて城へと戻っていった。


****


 その後、畑に堆肥を撒いてうねを作り種を植えていく。


 信じられなかったのは、その後の成長のスピードだった。


「石灰とやらを撒いた方が効果があったようですな」


 ゴンゾはそう言うが、それが関係ないほどの成長の早さだった。


「まあ、石灰の効果はあったみたいだね。これからは交代で畑の見張りに付こう」


「了解した」

 

 ゴンゾは顔を引き締めて返事をした、畑の本番はこれからだろう。


 そしてある日のこと、マイアから戦に赴くことが城中に伝えられた。


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