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 見知らぬ世界......と、言ってもこの部屋しか知らないが、ここに連れてこられて約1ヶ月が経とうとしていた。


 手枷と足枷も外されたが、この部屋から出ることは許されていない。


 今ではこの世界の言葉も日常会話が出来る程度には理解してきた。


 自分の語学力に驚きもしたが、他にすることもない上に俺の想像しているような世界だと命に関わる可能性もあったので、それこそ必死に言葉を覚えた。


 生死をさまよった理由については未だ教えてもらえないが、かなり高価な薬を使ってくれたそうだ。


 折れた肋骨も今では痛むこともなくなっている。



 最後にマイアと会った時の記憶はあやふやだが、あの日以降、彼女は遠くから俺の様子を伺っているだけで俺の前に姿を現そうとはしなかった。


 一応、マイアは魔王の娘でこの地域を治める領主ということも教わっている。


 今後、彼女には様を付けて話した方がいいのだろう。



 そんなある日、マイアがミレーユさんに背中を押されるようにして部屋に入ってきた。


「ハヤトさんも怒ってないそうですから大丈夫ですよ」


「うぅ、だが......」


 その怯えた様子からは魔王の娘だとは、とても思えなかった。


「怒ってませんよ」


 俺は笑顔を浮かべてそう言った。


「そ、そうなのか? 本当に?」


「ええ、それよりも命を救ってもらってありがとうございました」


「あ、ああ。そうだな、確かに命を救ったな......。そうだ! ハヤト、外の世界を見せてやろう!」


 マイアは何かを思い立ったように俺の腕を掴む。

 優しく握るように気を付けているのか、その手は少し震えていた。


 俺はマイアに腕を引かれるままに城内を進んでいく。


 かなりの距離を歩き階段を上ると、最上階のバルコニーに連れてこられた。


「ここから見える範囲は、全て私の領地だ」


 そこからはマイアの領地が一望できた。


 その眺めは、ここが元の地球では無いという事を俺に再認識させるに充分な光景だった。


「はは......凄いや」


 鬱蒼とした森や、その先の荒野。

 空にはドラゴンのような生き物も飛んでいる。


 そして何より空に浮かぶ二つの月が、ここが異世界だと俺に伝えているように思えた。


 マイアが真剣な表情で俺を見つめる。


「......もう、ハヤトは元の世界には帰れない。帰すことが出来ないんだ。......私を恨むか? いや、恨むだろう。だが、我が名に掛けて守ると誓おう」


「......恨む.....かな? 分からないや。でも、今はこの世界に興奮してますよ」


「そ、そうか......。よし! ハヤト掴まれ!」


 マイアはそう言うと背中の翼を広げ、俺を抱き寄せる。


「え?」


「強くしがみつかないと、落ちるぞ」


 俺はマイアの首に腕を回し、マイアの腕は俺の体に回され、丁度抱き合う形になる。


 俺の胸にマイアの胸が押しつけられて形が変わるのがわかり、思わず顔が赤くなった。

 そして、吐息を感じるほど間近に迫るマイアの顔と甘い匂いが胸の鼓動を早める。

 見ればマイアの顔も赤く染まっていた。


「行くぞ!」


 その言葉と同時にマイアの翼が羽ばたくと、ふわりと身体が持ち上がる。


 俺がマイアの首に回す手に力を込めると、彼女は満足気な笑顔を浮かべ、更に高く舞い上がった。


 そして空を切るように滑空して、ドラゴンの間近に迫り併走するように飛ぶ。


「手を放すなよ」


 マイアはそう言うと、俺の身体を放して手だけを繋ぐような形になる。


「うおぉぉぉぉ! おおお、すげえ。......飛んでる」


「そうだ! 飛んでいるぞ!」


 興奮する俺にマイアは笑顔で答える。


 しばしの空の散歩を楽しんだ後、バルコニーへと着地する。


 俺はあまりの事に足に力が入らずマイアに抱きついたままになっていた。


 そして二人の視線が重なり会う。


 マイアの瞳が静かに閉じる......。


 近づく唇......。



「マイア様」


「な! な! な! なんだ!?」


「......ハヤトさんが泡を吹いています」


 俺はミレーユさんに声を掛けられ、それに驚いたマイアに胸を突かれて壁まで吹き飛んだ。


 意識を取り戻すのに2日かかった。

 折れた肋骨が肺に刺さるのは避けられたようだが、胸にはマイアの可愛らしい手形がくっきりとついていた。


「ハヤト~! すまぬ~!」


 意識のない俺に、その言葉が届く事は無く、虚しく夜空に響くだけであった......。   

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