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「お前が人間もどきか! 俺はライオスだ!」


 窓が無い部屋での軟禁生活も二日目を迎えた頃、昼か夜も分からない中、1人の男が勢いよく扉を開けて入ってきて俺は目を覚ました。

 

 やはり昨日の出来事は夢じゃ無かったようだ。


 男は筋肉質の身体と凛々しい顔に、頭に短い角と背中には昨日の女性たちと同じように翼を持っていた。

 そして、ドカッと机に陶器のピッチャーを置くと木製の器に中身を注ぎ俺に差し出してきた。


「まあ、飲もうぜ!」


 男の言っていることは分からない。

 だが、その行動で理解できた。


 俺はベッドから身体を起こすと、机の前に座る男の反対側に座り器を手にした。


 そして器をお互いにぶつけ合うと中身を喉に流し込んだ。


 焼酎を思わせる味わい。

 酒には詳しくないが強いつもりだ。


 元の世界では金銭的な理由もあり、酒は酔えればいいと安物の焼酎や発泡酒ばかりを飲んでいた。 


 そんな俺でも、この酒は旨いと思えた。


「お! いける口だな」


 男は俺の器に酒を注ぐ。

 俺もお返しにと男の器に酒を注いだ。


 二人で息を合わせたように中身を飲み干す。


「いいねぇ~、ちょっと待ってろ。......オーク兵! 酒とつまみを持ってこい。あとお前等のコップも持ってこいや」


「ははっ!」


 男が扉の向こうに声を掛けると、威勢のいい返事が返ってきた。


****


「らいおす~」


「そうだ、俺はライオスだ~。お前はハヤト~」


「はやとだ~」


 部屋の床には俺とライオスと二人のオーク兵が座って酒を飲んでいた。


 俺はオークの頭をベシベシと叩いていた。


「オークにビビらないとは、肝が座った人間だの~」


「ですな~! 酒も強い!」


 オーク兵が俺に頭を叩かれながらも笑いながら酒を注いでくる。

 俺も酒を注ぎ返して器をぶつけ合う。


 不味いつまみを口に入れながら、俺の胴ほどもある腕をペタペタと触る。


 そして酔った勢いで腕相撲のルールを身振り手振りで教え勝負を挑むが全身を使ってもビクともしなかった。


 そんなオークに勝のだからライオスの腕力は相当な物なのだろう。


「ハヤトは弱いな~」


 ライオスが酒を煽りながら俺に肩を組んで頭を撫でてくる。


「ちきしょう!」


 俺も彼らには分からないだろう言葉を発して酒を飲むが雰囲気から俺が悔しがっているのは分かったのだろう。


「戦士の気概がありますな」


「ああ、いずれ鍛えてやろう」


 オークとライオスは俺には意味の分からない会話をして優しい笑顔を向けてくる。


 酒のせいもあって悔しさの収まらない俺は頭一つ違うライオスに組みかかる。


 当然ビクともしないのだが、俺も柔道経験者。

 僅かな隙を突いて、ライオスの体勢を崩すと腰をひねって膝で跳ね上げた。


 綺麗に宙を舞うライオスだったが、その巨体にもかかわらず身体を捻ると床に見事に着地した。



「おお! なんだ今のは!」


「凄いですな! どこにそんな力が」


 ライオスは褒め称えるように俺の肩を叩き、オークも笑顔で酒を注いでくる。


 俺も思わず笑顔になり、宴会は更に盛り上がってきた。


 まあ、その直後に騒がしさに気づいたマイアとミレーユがやってきて、ライオスとオーク達は連行されていった。

 扉の外から聞こえる口調から、おそらく説教されたのだろう。


 そんな事を余所に酔いの回った俺は倒れ込むようにベッドに沈んでいった。


****


 翌日はミレーユさんが部屋にやってきた。

 その笑顔からは昨日のライオスに向けた怒りの表情が嘘のように思える。


 彼女は色々な物を持って来て、一つ一つ丁寧に名前を教えていってくれた。


 俺は彼女に身振り手振りで書く物を要求してみた。

 どうにか伝わったようで質の悪い紙? もしかしたら、何かの皮のような物と木炭を渡された。


 俺はそこに、自分でも分からないような物を書いて彼女に見せる。


「何ですかそれは?」


 彼女は首を傾げながらそう言った。


 その表情が可愛くて胸が締め付けられる。


 俺は身振り手振りで、もう一度その言葉を言ってもらう。


「?......何ですかそれは?」


 俺の意図が分からないといった様子で、彼女は言葉を繰り返した。


「なん......ですか......それは?」


 俺はその言葉を口にした。

 彼女はキョトンとしている。


 果たして発音は合っていただろうか? 


 俺は立ち上がると自分の座っていた椅子を指さして、もう一度言う。


「なんですか......それは?」


「ああ! なるほど! これはイスです、イ~ス!」


「い.....す」


「そう! 椅子です!」


「椅子」


 ミレーユは俺に飛びかかるように抱きついてきた。


「素晴らしい知性をお持ちですね!」


 その様子から褒められていることは、なんとなく分かった。


 彼女は豊満な胸を押しつけながら感動した様子で俺を抱きしめていた。


 ゴホンッ!


 扉がいつの間にか開かれマイアがそこに立っていた。


 慌ててミレーユさんが俺から離れると、少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「すいません私としたことが。つい興奮してしまいました」


「らしくないな」


「このお方の知性は目を見張る物がありますよ」


「ほほう」


 会話の内容は分からないが、何故かマイアは得意気な表情を浮かべる。

    

「ふむ......明日は私が言葉を教えるからな」


「......力加減は大丈夫ですか?」


「......そっと撫でればいいのだろう?」


「撫でなくてもいいのですけど」


「物の例えだ!」


 何故かマイアは顔を赤くして部屋を出ていった......。



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