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 気を失っていた俺は意識を取り戻すと、見知らぬ部屋でベッドに寝かされていた。


 ガシャリと言う音と手首と足首の痛みで視線を向けると、鉄の手枷と足枷が付けられ鎖で左右のそれが繋がっている。


 部屋を見渡すと窓のない石造りの壁に、灯りは壁や机に置かれた燭台のロウソクと暖炉の炎という、中世のヨーロッパでも思わせるような物だった。


 俺は痛む身体をベッドから下ろして扉に手を掛けるが押しても引いても開きそうもない。


「おい! 気づいたみたいだぞ!」


「マイア様を呼んでくる!」

 

 扉の向こうでは俺が起きたことに気づいたのか騒がしく声や足音が響いていた。


(ちょっと、やばいかな)


 俺は音を立てた事を軽率だったなと思いながらベッドまで後ずさった。


****


「開けろ!」


「はっ!」


 扉の向こうで声がすると、ガシャンという音と共に扉がゆっくりと開いていく。


 部屋に入ってきたのは、俺を電車の事故から助けてくれたであろう、頭から角を生やし背中に翼を持った美しい少女だった。


 俺と目が合うと少女は少し頬を赤くする。


 その後ろから少女と同じように角と翼を持つ大人の雰囲気を醸し出す美しい女性が入ってくる。


「マイア様?」


「ん? う、うむ。我々の領域でも問題なく生きていけるようだな。異世界の住人故か、それとも......」


 少女は声を掛けられると、咳払いを一つして何かを話し出した。


「まずは一つ問題が無くなりましたね。彼は我々の言葉が分からない様子ですが、どう致しますか?」


 俺は聞いたことのない言葉を話す二人の女性を口を開けて見ていた。

 二人の美しさに見惚れていたと言ってもいいだろう。


「まずは言葉を教えていくとするか。ライオスにも、そう伝えておけ。それと食事を用意してやれ。それとくれぐれも丁重に」


「わかりました。......オーク兵、彼に水と食事を与えなさい」


「まだ、言い切ってないぞ......」


 少女は少し不満気な表情を浮かべた。


「それと、この者は見た目は人間ですが別物と考えなさい。決して危害を加えないように。食べるなどは以ての外です! 城内全ての者に伝えておくように」


「はは!」


 女性が扉の外に立つ鎧を着たゴツイ人に向かって厳しい口調で何かを伝えると、鎧を着た人は勇ましい返事と共に駆けだしていった。

 

「まずは我らの名前から教えるとしましょう」


 大人の女性のほうが俺に向かって歩いてくる。

 俺は思わず後ずさりながらベッドに行き詰まり腰を下ろす格好になった。


 彼女は腰を屈めて俺と視線を合わすと微笑みを浮かべ、

「私はミレーユ、ミレーユ、ミレーユ......」

 と、自らを指さしながら何度も繰り返した。


「ミ、ミレーユ?」

 俺は聞き取れた言葉を言ってみる。

 おそらく彼女の名前なのだろう。


「そう! ミレーユです!」

 

 彼女は笑顔を輝かせて俺の頭をその大きな胸に包み込んだ。

 そして犬でも褒めるように俺の頭を撫でてきた。


「おい!」


「あら、私としたことが......。忌み嫌う人間と同じ容姿なのに不思議なものですね。親を無くした魔獣の子供のように思えてしまいました」


 ミレーユと名乗った女性は少女に声を掛けられると、俺の頭をその胸から放していった。

  

「......私もやってみるとしよう、ミレーユは外に出ていろ」


「まだ、危険がないとは言えません。マイア様と二人きりには......」


「構わん! 誰に物を言っている! 魔力も感じない人間もどきに遅れを取るものか!」


「......わかりました。人間とは脆い生き物です。優しくしてくださいね」


「......う、うむ」


 何故か少女は顔を赤くして、ミレーユと名乗った女性は部屋から出ていってしまった。


 そして少女が俺の前にまでやって来る。


「わ、私はマイア、マイア、マイア......」


 少女は俺の目を見つめて先ほどの女性と同じように、同じ単語を繰り返す。

 思わずその熱の籠もった視線に胸が高鳴る。


「マ、マイラ?」


「ちが~う! マイ......ア! ア!」


 少女は大きく首を振った、どうやら間違えたらしい。


「マイア?」


「そう! マイアだ! 私はマイア!」


 少女は表情を輝かせ、両手を広げ俺の頭をその胸に包み込もうとした。


 少女も先ほどの女性ほどではないが、結構なお胸をお持ちだ。


 俺は思わず期待してしまう......。


 少女の腕が俺の頭に回される寸前に扉が開かれる。

「食事をお持ちしました!」


 そこには鎧姿のゴツイ人が料理の盛られた皿の乗せられたトレイを持って立っていた。


「......机に置いておけ」


 少女はもう少しで俺に届くというところで体勢を変えて俺に背中を向ける格好になり鎧姿の人に何かを言った。


「マイア様、済みましたか」


 ミレーユと名乗った女性が部屋に入ってくる。


「......う、うむ」


「では、他の職務も残っていますので、お願いいたします」


 少女は名残惜しそうに俺を見ると、少し寂しそうに部屋から出ていってしまった。


 俺はその後、濁った水とお世辞にも美味しいとは言えない食事で喉の乾きと空腹を癒した。



 後日、食事を運んできたオーク兵がマイアに吹き飛ばされ3日間気絶したことは俺の耳に入ることはなかった。

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