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収穫

「お疲れさまでしたね、ハヤトさん。このような出迎えに驚かれたでしょう」


 ミレーユさんが俺の旅を労ってくれる。

 マイアは今も黙ったままで、兜の奥の表情は伺い知る事が出来ない。


 その後も、ライオスやゴンゾが俺の帰還を喜び声を掛けてくる。


「ところで、そちらの方は?」


 ミレーユさんが緊張か恐怖からか直立不動になっているラハドについて訪ねてくる。 


「ああ、奴隷って形ではあるけど、仲間です」


「その肌は南の大陸の方ですね。あそこは争いではなく共存を選んだ土地ですからハヤトさんには、ぴったりの仲間ですね」


「し、知っているんですか?」


「ええ、かなり遠くはありますが、何度か訪れたこともありますよ」


「ハ、ハヤト......。今の話は本当か」


 ラハドが体を震わして聞いてくる。


「ああ、そうだ! 帰れるかもしれないぞ! いや、帰れるさ!」


「すでに故郷の地を踏むことは諦めていた......。もし、家族に一目会えるなら、この命、改めてハヤトに捧げると誓おう」


「ああ、俺も出来る限り協力する」


 俺とラハドはしっかりと手を握り合った。


「ハヤトさんの仲間であれば、人間とは言え我らの仲間。協力致しますよ」


「おお、神子様から、直接お声を掛けて貰えるとは......」


 ラハドはミレーユさんに話掛けられた事に感動して目を潤ませていた。


 俺と言えば、今だ兜も脱がずに一言も発しないマイアを不気味に感じていた。


 その様子に気づいたミレーユさんが声を掛けてくる。


「それでは荷物の方は運んでおきます。......ライオス! 帰還の準備を!」


「わかった。じゃあハヤト、後でな」


 ライオスは荷馬車から荷物を降ろすようオークに指示しに、この場から去っていった。



「じゃあ、ラハドもしばらく狭間の領域の近くで待機していてくれ」


 俺はそう言ってラハドに金貨を渡した。


「了解した、荷馬車と馬は任せておいてくれ」


「......頼む」


 俺はそう言ってラハドの肩を叩いた。


****


 ライオスとオークが去り、ラハドも荷馬車と馬を引いて『光の領域』へと戻っていった。


「それでは私も帰りますね」


 ミレーユさんも、そう言い空へと飛んでいってしまった。


 風の音だけがする狭間の領域に、俺とマイアだけが残された。



「......マイア、ただいま」


 その言葉に返事は無かった。

 風の音の合間に鼻をすする音が聞こえる。


 俺はマイアの兜をそっと脱がす。

 そこには涙で頬を濡らすマイアの泣き顔があった。


「み、見るな!」


 俺はマイアを抱きしめた......。


「「......」」


 ぶつかり合う鎧になんとも言えない空気が流れる。


 マイアはそそくさと鎧を脱ぎ、俺もそれを追うように鎧を脱いでいった。


「や、やり直しだ」

 マイアが両手を広げ、少し恥ずかしそうに言う。


 再び俺はマイアを抱きしめ、......そして唇を重ねた。


 重ねられた唇に最初は驚いた様子で身体を強ばらせたマイアも、次第に力を抜いて俺の頭を抱えるように腕を回してきた。



 ......そう頭を抱えるように。


(んぐ......そろそろ......息が......やばい)


「ん? ハヤト!? どうしたのだ? お~い!」


 鼻で息することを忘れた俺は酸欠で意識を失ってしまった......。   


****



 目を覚ますと、久々に見る自分の寝室の天井が目に入った。


「起きたか?」


 俺が身体を起こすと、そこにはマイアの姿があった、


「ああ、おはよう」


「鼻で息をすればいいだろうが」

 少し呆れた様子でマイアが言う。


「なんとなく、鼻息を掛けたくなくて」 


「それで死なれては目覚めが悪いわ」


「ははは、でも良い死にかたかもね」


「馬鹿者、今度は鼻息など気にするな......」


 マイアはそう言ってベッドに乗ると、俺の頭を抱え込んで唇を重ねてきた。


****


 俺は久々の帰還で身体を休める暇もなく、周囲の魔族から手に入れた食材と人間の町メルキースで手に入れた調味料を使って料理を始めた。



 まず目指したのは魚の塩焼きと白ごはんだ。


 トカゲ族の湿地帯で自生していた稲から取れた米を素焼きの壷で炊く。 少し芯が残っているが初回としては上出来だろう。

 そして、しっかり泥抜きをして塩のみのシンプルな味付けで作った焼き魚は、久々の味と言うこともあって、とにかく美味かった。 

 


 俺は満足のいく食事を終えると、畑へと向かう。


 そこには黄金色の穂が風に揺れ、まさに収穫の時を迎えていた。


「膝下ぐらいで切ればいいのだな?」


「はい、お願いします」


「うむ、下がっていろ」


 マイアはそう言うと、ふわりと宙に浮かび、一度空高く舞い上がると翼を広げたまま地面すれすれで麦穂の揺れる畑をすり抜けた。


 そして、麦穂が乾いた音を立てながら畑に倒れていく。


「お見事」


 俺の言葉と皆からの拍手にマイアも満足そうな顔をしていた。


 その予想以上の麦の実りに畑の拡張が決まり、経験者のゴンゾ指導の元どんどん畑が耕されているところだ。


 この麦から小麦粉を作り、パンや麺類を作ることが出来れば、魔族の食生活はさらに向上するだろう。


 そうなると、醤油の存在が恋しくなる。

 

 醤油、もしくはそれに似た調味料を求めて。俺は再び光の領域へ向かうことを決意したのだ......。 

   

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