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出迎え

 俺とラハドがラハスクの村に差し掛かると、以前俺を殺そうとしたベンが駆け寄ってくる。


「兄貴! 随分と儲けたみたいだな。それは奴隷かい?」


(兄貴じゃねえし! しかも、いきなり初対面で奴隷とか言うか)


 ベンは肌の色から判断したんだろうが、いきなりラハドを奴隷と呼んだ。

 間違ってはいないが、俺はその言葉に兜の奥で嫌悪感を露わにした。


 俺は金貨を1枚指で弾いてベンに投げ渡す。


「仲間だ。村長はいるか?」


「おっと、すまない、そんな肌だからてっきりな。村長なら畑の方に居ると思うぜ」


「......案内しろよ」

 金貨を手に、早速酒でも飲もうかという足取りのベンに声を掛ける。


「あ、ああ、そうだな。案内するよ」


 俺はラハドに荷馬車を見張らせると、面倒臭そうにするベンに村長の元まで案内させた。


****


「どなたかな?」

 畑を耕す男性は俺に気づくと、その手を止めて話しかけてきた。


「ハヤトと言います」


「このような貧しい村に何の用かな?」


 周りを見ても畑の作物は育ちが良いようには見えない。


「今後、ここを訪れる機会が多くなると思いますので挨拶をと」


「それは、それは。ここの代表をしているウルバンだ」


 歴戦の勇士を思わせる佇まいのウルバンと握手を交わす。


「お父さん、お客さん?」

 家の中から若い女性が現れる。


 健康的な美しさを持つ女性に俺は一瞬目を奪われた。


「ああ、ハヤトさんと言うらしい。これは娘のオルフェ」


「どうも、ハヤトです」


「オルフェです、何もない村ですが歓迎しますよ」


 まあ、ここは初めてではないし、手荒い歓迎も受けたのだが......。


「よろしくお願いします。早速ですが、一晩宿を取りたいのですが仲間の肌の色がちょっと......」


 ウルバンは荷馬車の側に立つラハドに目を向ける。


「なるほど、......それならうちに泊まって行くといい。大したもてなしは出来ないがね」


「ありがとうございます」

 俺はウルバンに礼を言うと、ラハドと共に家に招き入れられた。


****

  

 その夜、暖かい食事をみんなで囲む。


 ウルバン親子は肌の色の違う、ラハドに対しても差別無く接して同じテーブルで食事を取った。


「それじゃあ、ウルバンさんは昔、軍に居たんですか?」


「ああ、妻を病でなくしたのを期に引退して、娘と生まれ故郷のこの村に帰って来たんだが、気づけば村長をやらされてるよ」


「それは、大変ですね」


「最近は不作が続いているのに加えて、戦の為に税も上げられてるからな。まったく愚かな話だ」


「愚か?」


「ああ、こっちから攻め込んでいるくせに、魔族に侵略されたと言い更なる戦費を徴収しているんだ。......おっと、反逆罪になる発言だな。口が過ぎたよ」


「別に密告したりはしませんよ」


「ああ、頼む。最近はこの辺も住みづらいからな」


「新しく来た騎士団のせいですか?」


「......まあな」


 ウルバンはそれ以上語ることなく、俺たちは2日ぶりの柔らかい寝床を存分に味わった。


****


「おい! 1晩泊めただけで、こんなには貰えないぞ!」


「いえ、今後も良くして貰いたいので挨拶代わりのようなものです」


 俺は50枚の金貨をウルバンに渡した。


「......正直、助かるよ。ありがたく頂こう」 


「この先にある廃墟のさらに先に拠点を設ける事になると思います。どうかよろしくお願いします」


「狭間の境界の近くか......。何をするつもりかは聞かない方がいいのかな?」


「そうですね、とりあえずは廃墟の先には何もないという事にしておいていただければ」


「わかった、約束しよう」


 ウルバンは顔を引き締めたまま、そう言った。


「それと、パンの作り方や料理を教えていただければ嬉しいですね」


「わかった、オルフェに言っておくよ。次はいつ頃来るんだ?」


「そうですね、5日から10日の間には来ようと思ってます」


「村人にも口止めはしておく。まあ、この村に帝国への忠誠が厚いような人間は居ないから安心しろ」


****


 俺たちはウルバンに見送られてラハスクの村を後にする。


 廃墟を抜け、狭間の境界が近づいてくると、ラハドにも緊張の色が見えてくる。


「なあラハド、言っておくことがある」


「......なんだ?」


「もしかしたら俺の主は怒っているのかもしれない」


 すでに視界に入る軍勢と。その先頭で宙に浮きながら巨大な剣を左右の手に持つ黒い鎧に身を包んだ姿からは、この距離でも分かるほどの威圧感を放っていた。


「なにか、怒らせたのか?」


「......心配させすぎたのかもしれないな。まあ、いきなり襲われることは無いと思うから安心してくれ。......まあ、死に掛ける可能性はあるな」


「わかった。まあ、逃げ出したくても出来ないから安心しろ。いざとなったら一緒に死んでやるさ」


 俺とラハドの間には、僅かな旅の中で絆のような物が生まれていた。


 お互い故郷から離れて暮らしていることや、魔族への考え方が共感を呼んだのかもしれない。



 出迎えと呼ぶには物々しすぎる軍勢に不安を覚えながらも、俺とラハドは狭間の境界へと進んでいくのだった......。


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