帰路
翌日、俺の奴隷となったラハドを連れて武器屋を訪ねる。
「パブル族に武器は売らねぇ!」
と最初は言っていたが、倍額払うと言ったら売ったことは内緒にしてくれと言い、武器を売ってくれた。
奴隷商人が言っていた扱いづらいとは、ラハドの性格ではなく世間の風当たりの事だったのかもしれない。
少し申し訳なさそうにするラハドに弓、槍、そして剣を渡し、革鎧を着させた。
次に中古の荷馬車と馬を2頭買い、1頭はラハドに乗らせて残りの1頭と宿に預けていた1頭を併せた2頭で荷馬車を引かせる。
食料品店で昨日購入した調味料と香辛料、そして魔の領域では見なかった食材等に加えて、旅の為の食料を買い込み荷馬車に積み込んでいく。
残った金は本の購入に当てた。
ラハドは文字が読めるというので、帰りの旅の間にでも少し教えて貰おう。
帰ったら城のみんなも教えてくれるだろう。
一通りの準備が終わると俺とラハドはメルキースの町を後にする。
俺は門を抜けると、また訪れるであろう、この町を振り返り心の中で別れを告げた......。
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メルキースの町を出て、最初に訪れた村『ラハスクの村』へ向けて馬を進める。
「だいぶ日も落ちた、ここら辺で休むとするか」
「わかった」
俺の言葉にラハドは返事をすると、野営の準備を進めていく。
焚き火を前に二人で食事を取る。
ラハドは料理の腕も良く、かなり美味い食事だった。
「俺の国の料理だったが、口には合ったようだな」
空になった皿を見て、ラハドが言う。
「ああ、美味かったよ。......ラハドが住んでいた大陸も領域で分かれていたのか?」
「ああ、名前は違うが分かれていたぞ」
「へぇ、どう呼んでいたんだ?」
「......我らが住む地を『人の領域』、この大陸で魔族と呼ばれる彼らの住む地を『神子の領域』と呼んでいた」
「驚いたな」
「そうだろうな。5年もこの地に住めば、ここの人間が彼らにどのような感情を持っているか分かるからな」
ラハドは身体に刻まれた奴隷の証によって俺に嘘を付けない。
言っていることは本当なんだろう。
「......俺は魔族に仕えている。そして『魔の領域』でも生きていけるんだ」
「なっ! ......お、驚いたな。生きてきて一番驚いたぞ」
ラハドは口を大きく開け、その目は驚きで見開いていた。
「やっと、表情が変わったな」
「むむ、騙したのか?」
「いや、本当のことだ。狭間の領域まで行けば真実だと分かるよ」
「信じるとしよう。俺の肌を気にしないことも、それなら納得出来る。そもそも、そんな事はこの地の人間なら嘘でも言わないさ」
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一方、魔の領域にあるマイアの城では、この城の主が落ち着かない様子で城内を歩き回っていた。
「少し落ち着かれては?」
「......どうやって落ち着くんだ。嫌なことばかり頭に浮かんでしまう、やはり行かせるべきでは無かったんだ」
「危なくなれば転移して帰ってきますよ」
「指輪や腕輪を奪われていたら? 口を塞がれて呪文が唱えられないかもしれないぞ。向こうで人間の女に心を奪われているかもしれん」
「......最後のは、あるかもしれませんね」
「そうだろう! ハヤトはメリージアにすら気を向けるような男だぞ。同じ容姿の女ならばどうなるか! ああ! 私が馬鹿だった!」
「だ、大丈夫ですよ。きっとマイア様の元へ帰ってきますよ」
「兵を集めろ! 領域を進めてハヤトを奪い返すぞ!」
マイアは泣きそうな顔で号令を掛けた。
「ちょ! 本気ですか!?」
もはやミレーユの制止も効かず、マイアの城から兵が狭間の領域へと向けて進軍していくのであった......。




