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おみやげ

「ハヤトには迷惑を掛けたな。いずれ詫びの品でも届けよう」


 そう言い残すと龍姫メリージアは、その姿を巨大なドラゴンに変え空へと舞い上がる。


「結局あいつは何しに来たんだ?」


「遊びに来たんじゃないですか」


 マイアの問いかけに俺はそう答えた。


 友達の顔を見に来た......。

 きっと、その程度の理由だったんだろう。


 帰る際の龍姫の横顔はどこか満足しているように思えた。


 そして空から見下ろしてくる視線に、耳元で囁かれた言葉を思い出す。



「今度は邪魔の入らぬ所でな......」


 俺は甘い旋律と誘惑してくるような香りに軽い眩暈を感じたのを思い出す。


「どうした? 顔が青いぞ」


 マイアが身震いする俺の顔を覗き込んでくる。


「いえ、別に......」


 その幼さを残すあどけない表情と、無警戒な瞳から発せられる熱の篭った視線に胸が熱くなる。


****


 龍姫が城を去ってから数日後、徒歩での行軍をしていたオークやゴブリン達が戦場から多くの戦利品を持って帰還した。


「ふむ、ちょっと派手かの?」


「いや、いいんじゃないですか?」


「でも、これだと人間の兵士と勘違いしてしまいそうですね」


「それも、確かにあるな」


 広場の隅のほうでマイアとミレーユさんとライオスが何やら話し合っている。


「ハヤト! ちょっといいか?」


 マイアに呼ばれて近づくと、地面に並んだ白銀の鎧が目に入る。


 兜、胴体部分、腕当て、脛当てと一式揃ったそれは西洋の甲冑と言うほど重装備なものではないが、それは地に染まりながらも美しさを放っていた。


「みやげだ! ちょっと着てみろ!」


 マイアは今だ地が乾ききらず、むせるような臭いを放つ鎧を手に俺に差し出してくる。


「さあ!」


 俺はマイアの期待に輝く瞳を曇らせると言う選択が出来ずに、元の持ち主の事を考えないようにしながら、その鎧を身に着けていった。



「どうですかね?」


 その鎧は身に着けたことを忘れそうなほど軽く、大きさも丁度良かった。


「ふむ、思った以上にあれだな」


「そうですね」


「戦場で見かけたら切りかかっちまうな」


 3人は険しい表情で口々に意見を言っている。


「似合わない?」


「いや! そうではない! 似合っているぞ! ......只、似合いすぎと言うか」


「う~ん、まんま人間の兵士なんだよな」


「そうですねぇ」


 言われれば3人の着ていた鎧やオークの着ている鎧とは意匠が大分違う。


「少し手を加えさせるか」


 マイアは城で鍛冶を担当しているゲンザを呼び出し鎧を見せた。


「こりゃミスリルですか」


「おそらくエルフの手による物だろう。......ハヤトに与えたいのだが、この見た目だと皆が混乱する。形を直せるか?」


「厳しいですな、傷を付けるのも一苦労の品ですぞ」


「ふむ......」


「見た目が変わればいいのかな? それなら俺がやるよ」


 俺は居並ぶ4人にそう言った。


「じゃあ、任せるが......。すまんな、みやげのつもりが仕事を増やしたな」


「ううん、嬉しいよ。ありがとう」


「そ、そうか。なら、良かった。......なっ! 何をニヤけて見ている」


 俺の言葉に照れていたマイアは、他の3人の生暖かい視線に気づくと逃げるように城へと入っていった。


「あんな顔するんですなぁ」

 ゲンザは感心するように俺を見てくる。


「あまり吹聴するなよ。機嫌が悪いと首が飛ぶぞ」

 ライオスがゲンザに少し表情を険しくして忠告する。


「わ、わかっておりますよ」


 それは言葉通りの意味なのだろう。



 マイアが寄せてくる好意には気づいているが、相手は種族も年齢も違う、しかも魔族のお姫様だ......。


 正直、俺とどうにかなる相手じゃないのは分かっていた。


「いいんですよ。ハヤトさんは、素のままでマイア様と接していて下されば」


 俺の心を読んだかのようにミレーユさんが話しかけてきた。


「......はい」


「まあ、マイア様が手加減を覚えないことにはベッドを共にするのも命がけになりますけどね」


 俺は、その笑顔から発せられる言葉に、抱き殺される自分を想像して顔を青くする。


「ははははは......、失礼します」


 俺は引きつった笑顔で、その場を後にした......。


****


 俺はゴンゾとゴブリンの一人、ゴブを連れて、バケツを手に城から程近い森に来ていた。


 探したのは樹脂が取れる木だ。


 漆やゴムのような物が手には入れば良いと思っていたのだが、どうやら葉に触るとかぶれるという木があるというので、まずはそこに案内して貰っていた。


「主様、これだぞ」


「これか、取り合えず幹に傷を付けてみよう」


 俺は木の幹に斜めに傷を入れてみる。 


 じわりと独特の臭いを放つ乳白色の樹液が流れ出す。

 樹液はすぐに茶色に変わっていった。


「よし! この樹液を集めるんだ」


 俺は色の変化を確認するとバケツにその樹液を集めさせた......。


****


「うわぁぁぁぁ!」


 俺は樹木の特徴を記録しながら3種類の樹液を集めようとしたのだが、3本目の木に傷を付けたところで巨大な虫に驚いていた。


「主様、臆病だな」


「いや! でかすぎだろ!」


 俺に襲いかかる腕ほどもある巨大なムカデを、ゴブは頭にナイフを突き立てて難なく仕留めていた。


「ご馳走、ご馳走」

 ゴブは上機嫌で巨大なムカデを手際よく木の枝に巻き付けていた。


(それ、食うのかよ......)



「ハヤト殿が最初だからな」

 ゴンゾがゴブに厳しく忠告する。 


「分かってる、主様一番美味いとこ」


「いや......いいから。......みんなで食べて」


「遠慮するな、主様きっと気に入る」


「......まあそれは後で話そう、さっさとこの木も樹液を集めて帰ろう」


 もう大分、陽が落ちてきている。

 急いだ方がいいだろう。


 転移の魔導具で一気に帰るという方法も考えたが、あれは俺と俺が手にした生き物以外しか転移しない上に、俺の身体にかかる衝撃はかなりの物で、軽々と使う気にはなれない物だった。


****


 翌日、持ち帰った樹液を布で濾して不純物を取り除いていく。

 

 ちなみに巨大ムカデはエビのような食感で味は甘みがあり、なかなか美味しかった。


 一方、樹液と言えば最初の物は漆のように使えそうだ、2つめは透明な液体なのだが用途不明として瓶に詰めておいた。


 最後の物は、甘い匂いに誘われ恐る恐る一口舐めてみるとシロップそのものだった。


 いずれ小麦が収穫できればホットケーキのような物が作れるかも知れない。


 ゴブリンたちにシロップを集めさせておくのも良いかもしれない。



 漆を煮詰めて鍛冶場で貰った鉄粉を混ぜていく。

 黒く変色した漆を再度濾して、磨きあげた白銀の鎧に丁寧に塗っていった。


 乾いては再度塗るという作業を何回か繰り返し、白銀の鎧は光沢を放つ漆黒の鎧へと生まれ変わったのだ......。


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