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 俺が最後の眠りについてから、それは気の遠くなるような悠久の時のようにも、一瞬の出来事だったようにも感じられた。


 暗闇を漂うような感覚。

 意識があるのか無いのかさえわからない俺は、突然射し込んだ光に流されるような感覚で向かっていく。

 

 周りすべてが光に包まれる。


 ......そして俺は、この世界に産み落とされた。



「よくやったね、立派な男の子だよ」


「おお! 生まれたか!」


「はぁ、はぁ......。見せて、私の赤ちゃん。......ふふ、なんて可愛いんでしょう」


 俺は周囲の声をよそに朦朧とする意識の中、まるで赤子のように泣き叫ぶしか出来なかった。


****


 俺が新たに生を受けてから、時を遡ること100年前。

 俺は地球と呼ばれる世界で平凡な生活をしていた。


 いつもと変わらず満員電車で仕事場へと向かう。

 今日は俺の30回目の誕生日だが、祝いのメールをくれたのは俺の代わりに田舎に残った弟だけだった。


 たまには帰ってきなよ


 最後の文章に卑屈な笑顔を浮かべて画面を閉じた。


「都会で成功してやる」


 今の俺の生活は成功とは懸け離れた物だった。


 やる気のない仕事と、恋人も友人も居ない寂しい一人暮らしが俺の現状だ。 


  

 田舎に残った弟は幸せなのだろう。

 毎年送られてくる年賀状の写真からも、それが分かる。


 可愛らしい奥さんと毎年成長していく甥っ子と姪っ子。

 写真の表情は毎年笑顔で、それが俺をいっそう惨めにさせた。


「はぁ~ぁ」


 深いため息をついた瞬間、轟音と衝撃と共に身体がふわりと持ち上がる。

 俺は持っていた吊革を離し、そのまま上空に引き上げられた。

  

 身体に回された細い腕と背中に感じる柔らかい感触。

 バサバサと羽ばたく翼の音。


「ハッ! フハハハハッ! ぎりぎりだったな! だが、巧く行ったぞ!」 


 背後からの笑い声と聞き慣れない言葉に首を回すとそこには、まだ幼さの残る少女の顔があった。

 その顔は頭から生えた角なんて気にならないほどの美しさだった。


 少女は俺と目が合うと、驚いたような顔をして頬を赤くすると目を逸らした。


 そして、凄まじい衝撃音が電車から響く。


 俺が乗っていた電車は踏切に進入したトラックと激突して、その衝撃から脱線していた。

 先頭車両に乗っていた俺は、あのまま乗っていたら無事では済まなかったかもしれない。


(......助けてくれたのか?)


 俺は再び少女に視線を送ると、彼女は頬を赤くしたまま、

「時間がない戻るぞ!」

 と、聞き慣れない言葉を放ち、空に出来た亀裂に飛び込んでいった......。

 

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